学園七不思議
ミステリ―研究会部長、小谷佳祐が持ち込んできたスクープに、学園探偵倶楽部部員、沢村かごめの表情が曇った―――。
「おいおい。肝心な話が抜けてるだろ」
小谷はすかさずかごめの話を補足した。
「今から一ヶ月前、この学園の女生徒が、交通事故で不運の死を遂げた。その女生徒が体育用具室にさまよい出ると言う。それがステージの女の霊になぞられて、現在の七不思議の一つになってる。そしてついさっき、とうとうその霊を捉えることに成功した!」
小谷はポケットから一枚の写真を取り出し、大崎の机に滑らせた。
大崎の目の前に置かれた写真には、制服を着た女生徒の霊が写っていた。長い髪と手を重力に逆らう事なくだらりと落とし、天井から上半身だけが宙吊りになっている。画像は多少ボケてはいるものの、確かにそれとわかる写真だった。
大崎は写真をじっと観察する。かごめも横から覗いたがすぐに目を逸らし、もといた机へと戻って行った。
「この幽霊……。毛が逆だっているな。なぜバンザイをしてるんだ?」
「写真が逆さまだよ。跳び箱が下にかすかに見えるだろ? その幽霊は天井から逆さに吊られているんだ。上半身だけの姿でな。不気味だろ?」
「うむ、よく撮れてる。この写真を撮ったのは、小谷か?」
「いや、新聞部部長の若林だ」
「君が撮ったわけではないのか。なら、合成かもしれないな」
大崎は興味が削がれたように、写真を小谷に向けた。
「それはない。俺も若林と一緒にその霊を見てる。その写真は現像した中でも、写りのいいヤツを一枚もらってきたものだ」
「写真を撮った時、君も居たのか?」
「そうだ。俺はこの写真の証人だ。疑いようがないだろう? 見えなかったものをようやく捉えたんだ。これが俺にとってどんなに嬉しいことか? まさにスクープだ!うおおおおお!」
そう言って雄叫びを上げる小谷が、大崎には餌を獲得した熊のように見えた。
興奮する小谷をよそに、大崎の関心ごとは他にあった。かごめは教科書を開いているものの、その目は宙に浮いている。いつもなら幽霊や七不思議に人一倍関心を示し、質問攻めをするであろう沢村かごめが、今日は食いついて来ない。沢村かごめに元気がない。大崎が初めてそう感じたのは一ヶ月前だった。
言葉をかける事すらためらう。そんな感じだった。大崎は部員のプライベートには触れないようにしているし、かごめもあまり話そうとはしない。しかし、最近ようやく本来の沢村かごめに戻りつつあったのだ。大崎は、今まさにかごめの暗い表情を見て、気にかけていた何かが繋がった気がした。
大崎は写真を持つと、興味なさげに小谷に差し出した。
「ああ、凄いスクープだ。たいしたものだ。この話はこれで終わりにしよう」
そう言うと大崎は、また知恵の輪をいじりだした。
そしてその日の放課後は、何事も無かったように過ぎていくのだった―――。
「待てよおい! 勝手に終わらすなよ!」
「なんだ小谷、まだいたのか?」
「ふざけんな?! 今まさに新聞部が、明日発行する号外を作ってる。学園中がこの話でもちきりになる。見出しはこうだ! 交通事故で死んだ斎藤あかね、幽霊になって学園に迷いでる!」
「やめてください!?」
かごめの空気を引き裂くような叫び声に、大崎と小谷の体が一瞬にして硬直した。