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心理トリック

探偵倶楽部対新聞部。ついに決着!!

「向井くんは、何一つミスなどしていない」


「ど、どういうことだ?」


「向井くん。君はまだマジックペンを、持っているんじゃないのか?」


大崎に言われて向井は、スポーツバックから汚れた制服を引き出す。そしてそのポケットの中から、黒いマジックペンを取り出した。


「向井……落としたんじゃないのか?」


若林は、わけがわからないといったふうな顔をした。


「僕が持っているマジックペンは、探偵倶楽部の部室から持ってきたものだ。それから、向井くんの左手指についたマジックインクは、握手した時に僕がつけたものだ」


「……!」


「完璧主義でキレやすい。君は、部下のミスを容認できない。僕は初めから、向井くんのミスを指摘すれば、君がキレてぼろを出すとふんでいた。向井くんは、懸命にトリックの証拠を守ろうとした。下手な事を言えば、それが証拠になりかねない。感情に任せてミスをしたのは、君だ若林」


「……! 大崎、俺をハメやがったな!?」


若林は大崎の襟首を、先ほどのように締め上げた。しかし大崎の体は、よろけるどころかびくりともしなかった。


「騙そうとしたのは君だ。この記事が出れば、読んだ全員が騙された! 僕は、それを阻止しようとしただけだ」


大崎は、力の緩んだ若林の手を振り払った。


「なにが本物だ? どこが真実だ? これは、ただのトリックじゃないか。こんな偽物の記事しか書けないから、君たち新聞部は、いつまで経っても学園の生徒に注目されるような記事が、書けないんじゃないのか?」


若林は、ヨロヨロと力なく後ろへ下がっていった。


「お前らのように、遊びで倶楽部活動してる奴らに、俺たちがしようとしたことが、わかるはずねえ。登校拒否してる生徒が、学園に何人いるか知ってるか? いじめをする奴、受けてる奴が、どのくらいいるか考えたことがあるか? 俺たち新聞部には、嫌でもそんな情報ばかりが飛び込んでくる。充実した学園生活を送ってる生徒なんて、ほんのひと握りだ! 糞みたいな日常を、ただ虚しく消費してる奴らが、この学園には大勢いる。この学園は病んでんだよ。みんなストレス溜まってんだ! 幽霊の噂を広めたのは、俺たちじゃない。つまらない現実を、少しでも面白くしようと、期待してる奴らがいっぱいいる。 俺たちは、その期待に応えようとしただけだ」


かごめは力説する若林の前に立ちふさがった。


「私たちは、遊びの倶楽部に見えても仕方ないとは思います。でも、依頼に来た人を、助けてあげたい。少しでも力にないりたいという志は、忘れていません。インチキな記事を書いても、悲しむ人はいるけれど、救われる人なんていない。あなた達新聞部が、本当に書きたかった記事は、こんな三流ゴシップですか? 問題があるなら、なぜそれを記事にしないんですか? 新聞部にも志があるなら、つまらない日常を、どうして自分たちで変えようとしないんですか? 若林さんの言うように、新聞部は自由に記事を書く事を許された、この学園で唯一の倶楽部活動です。報道の自由とはこういう時こそ、使うものなのではないでしょうか?」


若林は、かごめの言葉に、がっくりと肩を落とした。


「お前の言うとおりだ……沢村。惜しいよな。なんでお前みたいな優等生が、探偵倶楽部なんてやってんのか。俺にはさっぱりわかねえ」


若林はそう言うと、顔を上げた。


「俺たちの負けだ。この記事の記録、写真すべて処分する。これで満足か大崎?」


「ようやく観念したか。正直、決定的とも言える証拠は何もなかった。君は手ごわい相手だったよ。若林」


「やりましたね部長!」


かごめが、嬉しそうにガッツポーズした。


「ああ。だが、これで終わりじゃない。若林はかごめくんを泣かせた。その償いはしてもらう」


若林は、大崎の企みをたっぷり含んだ表情に、思わずギョッとした。


「償い? 俺に何をさせようってんだ大崎」


「そうだな。まずは土下座してもらおうか。そして靴をなめろ」


「な、なんだと?」


「それから、{僕はドレミちゃんフィギャアが大好きです}と書いた紙を、背中に貼って一日過ごせ」


「なんだそりゃ! 小学生のいたずらかよ!」


「剥がすことも、壁を背にすることも許されない。もし剥がしたら、次の日もやってもらう」


「俺に堂々と、生き恥を晒せってのか?」


「それから、授業中に{先生、う○こに行ってきます}と言ってトイレに行け」


「いちいち、宣言してトイレに行く奴がいるか! そんな事したら俺のあだ名が、クソッタレになっちまうだろうが。やめてくれ、そんな十字架俺にはとても耐えられない」


「この程度で済むと思うなよ。かごめくんのお仕置きはもっと残酷だぞ」


「なに? 沢村はそんな恐ろしい女だったのか?」


「まず君を全裸にする。それから手足をロープで縛り上げ―――」


「しません!? そんなこと!?」


ドンガラガッシャーン!


大崎はかごめに突き飛ばされ、激しく転がって机の角に頭をぶつけた。


「私から最後に、若林さんにお願いがあります」


「お願い? それは……待て沢村! パンツだけは勘弁してくれ!」


「なに期待してんだ! この変態!」


「ひいいいっ!」


かごめは仕切り直すと、静かに語った。


「私のお願いは、元木智也先輩の事です」


「え?」


「元木先輩は、若林さんの話を信じて、体育用具室で一人、あかね先輩が現れるのを待ってます」


「元木が?……」


「私が何を言っても、元木先輩は相手にしてくれません。幽霊は、新聞部のトリックで、すべて嘘だったと、若林さんの口から、説明してあげてください。お願いします」


それで元木が救われるとは、かごめも思っていない。しかし、少しでも早く立ち直って欲しい。かごめは若林に、深く頭を下げる他なかった―――。



感動のラスト。元木は救われるのだろうか?

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