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呪い
とある国の話をしよう。どこにでもある話さ
もう300年前になるのかなぁ。まあ だいたい2~300年前の話だと思う。
その国の気候は穏やかで 海と山、森もあり自然に囲まれた裕福な国だった。
国の北側に白く大きな森があってね そこにその国のお姫様が迷い込んだ時があったんだ
当時そのお姫様は少し遠い戦国の王から側室に・・っていう打診があり
それに嫌がった姫は何も考えずに逃げようとしたんだろうね。
「白い森」そう呼ばれているけど 本当に白いわけじゃない。
森の奥深くに建っている白い塔 誰もそこまで辿りつけたことのない塔
もしかしたら誰かがたどり着いてるのかもしれないけど・・
戻ってきた人間がいないんだ。確認しようがない。
白い塔を囲う森 で 白い森。
姫はそこを目指したのか ただやみくもに森を歩いたのか 誰かがそこへ導いたのか
どうにかその塔へ辿り着く。そこで1人の若い男と出会うんだ。
その若い男と姫は約束をする。
戦国の王を倒してくれたら姫はその男の妻になる・・と。
もちろん姫はそんなことできやしないと思ってた。
若い男・・若いだけで やぼったく薄汚い感じがする。
側室なんてプライドが許さないけど、この国は戦ではかなわないのはわかっている
何もせずにいられない。でも自分ではなにもできない。
誰かなんとかして欲しい。
その気持ちだけで 姫は若い男と交わした約束
姫を側室に娶りに来た戦王
それを一瞬で消した若い男
文字通りである 一瞬で消したのだ。
王も従者も護衛の騎士達も馬車も手土産に持参した宝石さえも・・・
それどころではない 戦国そのもの全て 消し去ったのだ。
戦王を倒して欲しいと願ったのは姫。
それを叶えたのは若い男。
妻に・・・と迎えに来た男を姫は激しく拒絶した。
彼の風貌がどうの・・などという問題ではない。
何もかもを瞬時に消すような 「未知なる強すぎる力」 恐怖でしかない。
国王もそれを見ていた国民もそれを見ていた。
若い男に対する感情は「恐怖」でしかない
しかし約束を破ったら あの力が 今度はこちらに向かってくるかもしれない。
国王は姫を差し出す方向で話しを進めた。
そしてそれを嘆いた姫は 国王と若い男の前で 自害する。
若い男の周りに風が吹いた。
さっきまでやぼったく薄汚い風貌だった彼は見たことのない男に変わっていた。
黒い髪 赤い瞳 すらっとした身長にマントをはおり
うすら笑いで 短剣で胸を突き真っ赤に染まった姫を見下していた。
「ふぅん。僕の元にくるのが そんなに嫌だったんだぁ 自害するくらいなら・・
僕の手なんか煩わせないで 最初からそうしてればいいのになぁ。
女って勝手だねぇ つまんないなあ。オモチャなくなっちゃったじゃない」
「き・・きさま・・・・何者だ・・・・」
王様はもう動かない姫を抱き寄せながら 男と必死に対峙する。
「別に何もんだっていいでしょ。労働の報酬がなくなっちゃったから、ちょっと今ムカついてるんだよ ね。お前らなんかと話したくもない。黙っててよ」
男がそう言うと 王は口が聞けなくなる。
「あ、つまんないからさ 呪いかけていい?つうかかけるからw」
そう言って彼は消えた。
どんな呪いをかけるのか あるいはもうかけたのか・・・
王はそれを知るすべがなかった。
ただ・・その呪いはゆっくり国を浸食していった。
この国は女性が少ない。
居ないわけではない「少ない」のだ。
女性は男児であるならば 何人でも産める。
女児の場合 母体か女児のどちらかしか残れないようになっていた。
母体を助けると女児が・・・女児を助けると母体が・・・
必ずどちらか片方しか生きていられないのだ。
この国の息子には母親がいるが 娘には母親は生存していないことになる。
女性が命を落とすのは なにも出産だけではない。
出産で 1=1になり死亡するなら人口的に数は減らないが
事故・怪我・病気 色々なことで亡くなる場合もある
1=0 になってしまうと ゼロはゼロのまま 決して増えることはない。
自分の妻や娘を失いたくない貴族達は こぞって国を出て行った。
他の国で出産すれば・・・と 結果やはりどちらかしか残れなかった。
じゃあ、男には呪いはないのか?と思えば
他国で結婚した男性の妻は やはり女児を残して死亡した。
そして その娘が大きくなり結婚して・・同じ道をたどった。
初めは偶然かと思われたそれもちゃんと調べ研究してみると
4世代目まで 皆他国へ行ってもその呪いは消えることはなかった。
反対に他国からこの国へ嫁いだ場合もわっかりやすすぎるほど呪いは有効で
じわじわと・・この国を侵していく
呪いを嫌い他国へ移住する事は少なくない。
むしろ仕方ないとさえいえる。
女性もこの300年でだいぶ減った
妙齢の男子達は嫁を探し この国から出て行くのも多い。
ただし・・・居なくなったぶん・・老人は増えた。
海と山 自然の恩恵に恵まれ 気候の穏やかなこの国を
老後に・・・と 子育ても終わり孫も生まれ
呪いなぞどこ吹く風の 悠々自適な老人達が
やたらこの国へ移住してくるのである。
この国へ一歩足を踏み入れたら その呪いは即有効で
誰もこの国へ来ようと思わない
他国からくるのは 厄介者か変わり者の2托。
老後なら住みやすいけかもしれないけれど
それまではこの国に関わるのは止めといたほうがいい。
この大陸の者なら 誰もが知ってるお話さ。
呪われた国 リッカセイテン