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狙われた元飼育係

 未練がなかったと言えば、嘘になる。

 こうなって初めて、遊佐さんといて楽しかった理由がわかった。

 いつの間にか遊佐さんのことを好きになってた。それなのに、最悪の終わり方をした。きっと、上手く行くはずなんてなかったんだ。



「玉城楓ちゃん、だよね?」


 一人きりの放課後、靴を履いたところで目の前にいるのは、ハンバーグ系男子。どう見てもそう。不良以外の何者でもない系男子。

 その気を抜いたら落ちそうな腰パンは何なんですか。

 ガムは腹の足しになりますか。


「おい、シカトしてんじゃねぇよ!」


 ちょっと怒りのセンサー敏感すぎませんか?

 ちゃんと牛乳飲んでます?

 そう言う私は小学生の時に担任に無理矢理飲まされて以来牛乳大嫌いですけど。


「人違いです」

「とぼけてんじゃねぇ!」


 そりゃあとぼけられるなら、そうさせていただきますよ。


「もう一回聞くけど。玉城楓ちゃん、だよね?」


 手には明らかに隠し撮りの私の画像が映ったケータイ。

 わかってるなら聞くなよ、と思わないわけでもない。


「そうですけど、何か?」


 全速力で逃げたいんですけど、何か?


「君のお友達のタケル君のことで話があるんだけど、来てくれないかな?」

「タケル君なんてお友達はいません」

「おい、次とぼけやがったら、女でも容赦しねぇぞ!」


 いや、別にとぼけてません。

 タケル君に心当たりがある気はしますけど、お友達なんかじゃありません。


「遊佐だよ、遊佐!」

「遊佐さんは友達じゃありません」


 私と遊佐さんは何だろう。友達じゃない。敢えて言うなら、もう絶交してる。


「ごめんごめん、カレシだったか」

「それ、もっと不愉快です。私と遊佐さんは優等生の面しやがった極悪カップルにはめられたせいで不本意に知り合っただけで、もう終わって何の関係もないですから」


 何だかイライラしてきた。この人達も煙草臭いんだ。


「そう言わずにさぁ、俺らに付き合ってよ」


 あーあ、嫌な予感。俺ら、ってことは他にいるんだ。

 逃げなきゃいけない。でも、もう手遅れ。


「私、用がありますから、失礼します」


 くるりと背を向けてダッシュのつもりだったけど、腕を掴まれて、その上口を塞がれた。

 暴れてみるけど、ビクともしない。


「大人しく付き合ってくれねぇと……君のお友達がどうなっても知らねぇよ」


 そう言って、見せられた画面に私と一緒に映ってるのは勿論優香様だった。

 ご愁傷様というか何というか……確実に返り討ちに遭うと教えてあげたい。

 この人、優香のこと何も知らないんだ。大人しそうに映ってるけど、大食い系で策士系女子の優花様がいかに恐ろしい人物なのか教えてあげたいよ。

 でも、黙ってたら了承と受け取ったのか、「さあ、行こうか」なんて言って、肩を抱かれる。ああ、不愉快。


「いてっ!」


 思いっきり足を踏み付けて、逃走開始!

 でも、上手くいかないわけで……


「君に来てもらわないと困るんだよ。じゃないと、俺らの遊佐が退学になっちゃうんだ」


 別の不良さん、いらっしゃい。退路は塞がれて、後ろは……振り返りたくない。

 絶対、遊佐さんの友達じゃないって思った。

 遊佐さんの敵だって感じた。



 嫌々ながら、脅しに屈したフリでついていった先は旧体育倉庫。不良さんいらっしゃいな溜まり場。

 中にはそういう人達がいっぱい。絶対絶命。

 逃げ場は今塞がれて、ニヤニヤ笑いがこんにちは。


「それで、お話って何です?」

「そんな怖い顔しないでさぁ、仲良くしようよ」


 いや、仲良くしたくない。したくないんですよ。

 肩とか抱かないでください。煙草臭いんで近付かないでください。また優香に消臭スプレー噴射されるじゃないですか。


「さっさと用件言ってください」

「まずは仲良くしようぜ、俺ら」


 何で、顔をそんなに近付けるんですか!?

 何とか押し退けるけど、一体何人いるんですか。

 いや、私だってピンチなことぐらいわかってますよ?


「私、忙しいんです。話がないなら失礼します」

「そうつれないこと言うなよ」

「触らないでください!」


 何で、抱き寄せようとするんですか!?

 嫌だ、嫌だ、嫌だ!


「おいおい、楓ちゃん。俺ら、仲良くしようってのに。そりゃあねぇだろ」


 だから、こっちは仲良くしたくないんです!

 しかも、また脅しとばかりにケータイの画面見せてくるし!

 むしろ、その画面から優香様を召喚できないかな……


「一つ言っておきますけど、私のお友達の優香様だけは絶対に怒らせない方がいいですよ。ぶちギレてるようで、理性的だから、やることなすことえげつないんですよ。言葉の暴力なんですけどね。廃人になりますよ」


 脅しじゃない。これは事実。あの腹黒二重人格委員長よりも遙かに凶悪な二重人格。

 ほんと、今すぐ優香様が助けにきてくれないかな……


「楓ちゃんさ、自分の心配した方がいいんじゃない?」


 パチンとリボンが外れる音がした。

 その手の主めがけてエルボー、離れた隙に急所を狙う。

 父親仕込みの金的蹴りは天真君を悶絶させたことだってある。天真君に何かされそうになったとかじゃなくて実験台にさせられたんだけど。


「うぐっ……」


 見事に決まって私は出口を目指す。番人と目が合った。


「てめぇ……っ!」


 胸倉を掴まれた。でも、好都合。

 私はその手を両手で上下から掴む。そして、下の方の肘を乗せる感じで……!


「てっ……!」


 よし、膝をつかせることに成功した。私だって多少護身術の心得がある。

 後はこのドアを開けて、生徒会室に駆け込めばいい。

 でも、指先が触れた瞬間、体が後ろに引かれる。


 襟を掴まれて、首が絞まって苦しくて、暴れても足が届かなくて、そのまま体が倒れる。


「げほ、げほっ……」


 盛大に埃が舞って、汚いマットの上に倒れたのだと気付く。

 その埃臭さから噎せ、衝撃で対応が遅れている内にのしかかられる。

 暴れて逃れようとする手に、足が掴まれて強く抑え付けられ、身動きができない。


「おい、てめぇら、ちゃんと抑えてろよ? 暴れられちゃあ困るからな」


 私を見下ろす男が舌なめずりして笑った。

 ブチリ、嫌な音がして、何かが飛んだ気がした。ビリッという音まで聞こえる。


「いやっ……」


 怖い、怖いっ……!

 叫ばなきゃ、こんなところ誰か通る可能性なんて少ない。でも、もしかしたら……


「口も塞いどけ。この女、かなり厄介だ」


 思いっきり息を吸い込んで大声を出そうとした瞬間、大きな手のひらが口を覆う。

 他の手は無遠慮に肌を這い回って、怖くて、気持ち悪くて、苦しくて涙が滲む。

 何も見えない。もう何も見たくない、助けて、遊佐さん!


 そう思った時、光が射し込んだ気がした。


「なっ……ごふぅっ!」


 何が起きたのかよくわからない。変な声が聞こえたと思ったらドサリと倒れるような音がした。


「何だ、てめぇ……!?」


 手が一つ外れた。


「ぐぅっ……!」


 また呻き声が聞こえた。

 誰か助けに来てくれた。遊佐さん……?


「ゆ、結城!?」


 天真、君……


「な、何でてめぇが!!」

「うちの猫の目をなめんなよ?」


 その声は確かに天真君だった。


「俺の幼なじみに手出してただで済むと思うなよ?」


 天真君からは恐ろしいほどの殺気が放出されてる気がした。

 手が次々に外れて、次々に呻きや転がされる音が聞こえる。

 そして、天真君が私にのしかかってる人の首根っこを掴んで引き剥がしてポイッと投げ捨てる。

 それから、私に手を差し出してくれる。


「天真君……」


 ああ、やっぱり私のヒーローは天真君なんだって思った。

 私では全く太刀打ちできなかった彼らを天真君は軽くあしらってしまう。昔から天真君はとても強かった。

 助けてくれてほっとしてる。来てくれなかったらどうなってたかわからない。

 でも、本当にヒーローになってほしい人は私を助けてくれないんだって気付いた。


 助け起こしてくれる手は力強い。それから庇うように見せる背は逞しい。

 けど、これじゃない。


「……お前ら、覚悟しろよ」


 底冷えするような声で天真君は全員に警告していた。とっくに危険信号、天真君は生徒会一の武闘派だから。

 でも、後ろに怪しい影が揺らめいた気がした。何かを振りかざして……


「天真君、危ない!」


 とっさに叫ぶけど、天真君はニッと笑って、まるで後ろが見えていたみたいに、その手を掴んでひねる。落ちたのはどうやら角材?


「やるじゃねぇか、結城」

「お前らとは鍛え方が違うからな!」


 多分、天真君の長い足による前蹴りが繰り出されたんだと思う。それから、私の手を掴んで、出口の方へ押しやる。


「楓、逃げろ! どこに逃げたらいいかわかるな?」


 わからないよ。生徒会室? 職員室? こんな格好で?

 私を逃がすまいと伸びた手を天真君が捻り上げる、早くしろ、とその目が言っている。


「お前が一番行きたいところに行けよ。一番会いたい奴がいるところだ。そこが一番安全だ。いいな?」


 ああ、何だ。簡単じゃないか。

 頷いて私は走り出す。全速力で、昇降口まで走って、靴を脱ぎ捨てて、上履きも履かずに駆け出す。

 後ろを振り返る余裕はなかった。常に後ろから追いかけられているような妄想に取り憑かれていた。

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