表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

虎とお友達

 説得作戦から数日、何とか遊佐さんとの距離は縮まってきたと思うけど、一向に遊佐さんが前向きになる気配なし。

 でも、いつの間にか煙草やめてるし。

 この日も私は朝から遊佐さんを引っ張り出そうとした。

 遊佐さんは私を見るなり、ポケットをゴソゴソして……取り出したるはお財布?


「二千円だっけ?」

「え?」


 にせんえん?

 それは一体何のこと?


「ロールケーキ、一本二千円って言ったろ?」

「そうですけど……」


 そう言えば、そうだった。まったく任務遂行できてないけど。


「煙草止めたから、金浮いた」

「受け取れません」


 受け取れるはずがない。


「ロールケーキの呪縛から解放されっぞ」

「それは違うと思います」


 うん、絶対違う。お金で解決できるような呪いじゃない。


「ダチでもねぇ奴からの頼みだろうが」

「でも、賄賂受け取っちゃったんです」


 受け取ってしまったから、もう存在するはずのないアイツがまだ体の中に存在するような気がする。


「ほとんどはダチの胃袋に収まったんだろ? 白切っとけ」

「一口食べちゃったんです」

「無理矢理押し込まれたって言っただろうが」


 無理矢理押し込まれて一口食べてしまった。吐き出すわけにもいかなくて、流し込んだ。


「その罪悪感に負けて渋々承諾しちゃったんです」

「そんなの無効だろ。自白を強要したようなもんだ」


 そうかもしれない。そうかもしれないけど、今はそれだけじゃない。


「でも、いいんです。楽しいですから」

「は?」


 最初は渋々だったけど、私なりに楽しんでる。

 遊佐さんは悪い人じゃない。


「男友達ができたみたいで嬉しいんです」


 友達は優香だけじゃないし、たまに喋る男子もいるけど、友達っていうほどじゃない。


「男友達、か」

「遊佐さんが嫌じゃなかったらですけど」


 遊佐さんにとって、私は何だろう。

 友達じゃないんだと思う。ただの迷惑な女?


「そっか……じゃあ、ダチだったら、武瑠でいーって」

「そ、それは……」


 そうやって笑うってことは迷惑じゃないのかもしれないけれど、でも、そんな気軽に呼べるはずがない。


「じゃあ、私は行きますけど、遊佐さんは?」

「行かねぇ」


 ガックリ。今日こそは、っていう期待は打ち砕かれた。

 遊佐さんがいきなり授業に出るなんて天変地異が起こるようなきもするけれど。


「気が変わったらいつでも来てくださいね」


 気も変わらないんだろうな、って思う。

 遊佐さんが学校に来てる理由がわかれば、少しは何とかできるような気もするのに、はぐらかされる。

 優香も何か知ってるっぽいけど、教えてくれない。


「あ、今日のお昼は唐揚げ弁当ですよ」

「おう、楽しみにしてる」


 遊佐さんはいつもお弁当を美味しいって全部食べてくれるし、誰かのために作るって案外楽しいんだけど……


「一時間でも授業に出てみませんか? 働かざる者食うべからず、っていう素晴らしいことわざが……」

「俺、馬鹿だから知らねぇ」


 二度目のガックリ。遊佐さんに通用するはずがなかった。





 遊佐武瑠、手強し。

 説得は難航してるとしか言いようがない。しまいには担任の先生まで私のところに探りにきたり……

 委員長達も一回だけ聞きにきたっけ。それだけ。


「楓」


 よっ、とか言って教室に現れたのは珍しい顔。


「あ、天真君! どうしたの?」


 結城天真君、私の幼なじみの三年生、生徒会副会長。


「結城さんも探りですか?」

「まあ、な」


 優香の問いに頷く天真君。


「どうして天真君が?」


 私が賄賂受け取ったから?


「結城さんは遊佐武瑠の旧友ですもんね」

「えっ、そうなの?」

「ダチだった、そういうことになっちまうんだろうな」


 天真君は、なんか辛そう。話したくないみたいな。


「喧嘩、したの……?」

「いや、そうじゃねぇ。けど、俺じゃもうどうにもできねぇから、あいつのこと、頼むな」


 二人の間に何があったのかわからない。

 天真君は教えてくれなさそうだし、優香も知ってても言わないと思う。踏み込んじゃいけない気もするし。


「それとな、楓、稜己が悲しんでたぞ」

「南城先輩が?」


 天真君は自分の話を終わらせたいみたいだった。

 南城稜己先輩は生徒会長。とっても穏やかで優しい王子様みたいな人ってみんなは言ってる。

 裏があるって言うか、癖のある人で、キングとか呼ばれてたりするんだけど。


「ああ、お前がそんなにボランティア精神溢れる人間だったなら、どうして生徒会に入ってくれなかったんだって」

「いや、これは陰謀渦巻く何とかっていうか……」


 私にボランティア精神があるわけじゃなくて、お隣にいる優香様が噛んでるわけで……

 遊佐さんが言うには、お人好しってことなんだけど、つけ込まれたってことになる。


「お前がいれば、今頃無敵だったのに、って嘆いてる」


 まあ、要するに南城先輩はちょっと変な人。


「南城、結城、玉城の城トリオで?」


 優香は言うけど、そんなわけないって、思った。


「あいつ、結構子供だからな」


 天真君の言葉が意味するところは肯定。

 天真君と仲良くなった理由も名字に城がつくからっていう共通点的なのらしいし、私のことを妹のように可愛がってくれたりするのもそういうこと。


「結城さんっておじいちゃんですよね、生徒会の」

「否定できねえよな……それ。特に瀬山に言われると」


 天真君は頭を掻いてる。

 生徒会は南城先輩を筆頭に曲者ぞろいで天真君が一番の常識人ってことになる。


「まあ、それはいい。頑張れよ。あと、何かあったらすぐ俺に言え」


 やっぱり、天真君は私のヒーローだって思った。

 それなら、旧友を説得してほしかったんだけど、ダメっぽい。

 遊佐さんのやる気がないだけで、何かあるとも思えないんだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ