賄賂はロールケーキで(回想1)
私と親友瀬山優香の登校時間は早い。
電車が空いてる内に学校にきて、いっぱい話をする。
だって、丁度良い時間って凄く混むんだよね。案外本数ないし。
今日もそうして、まだ人影の少ない教室で色々話をしようとしていた時だった。
「玉城楓さんよね?」
「そうだけど……」
声をかけられて、振り向けば見たことあるような、ないような……な女子。
あれ、後ろに誰かいる?
「あっれー? A組委員長が楓に何の用? しかも、副委員長っていうか、彼氏付きで」
優香は何だか知り合いみたいだった。
優香の交友関係って、親友の私でもよくわからないところがある。
「瀬山さん、あなたも一緒に聞いて欲しい話があるの」
「ふぅん……あたし、これから楓とお話アーンド朝食タイムだから、忙しいの。残念! バイバイ! 出直さなくていいからね!」
何か、ちょっと嫌な予感。
聞きたくない感じ……と思ったら、優香がはっきり言ってくれた。
優香はいつも学校で私と話しながら朝ご飯を食べるから。
優香の食事の時間を邪魔すると大変なことになるのは、結構有名な話。
優香自体がちょっとした有名人だから。
「その、デザートになるかわからないけど、良かったら、これ、食べて」
委員長が出したのは紙袋、その中から長細い箱が出てきて、優香はすぐさま開けた。
中にいたのはロールケーキ。
よく見るとこの紙袋って結構高いお店のだったような……
「へぇ、気が利くじゃん。まあ、話聞き代にはなるから座りなよ」
しっかりとロールケーキを確保して、優香は二人を空いてる席に促しちゃった。
現金なのはわかってたけど、聞きたくないかも……
だって、面倒臭そうな話は私に向けられてるっぽいから。
恨みがましく視線を送っても、何か予定通りに巨大なおにぎりに齧り付き始めたし。
「私たちは玉城さんにお願いがあって来たの」
「私に……?」
うわっ、本当に嫌な予感がする。
何か人違いじゃないかとか思いたいけど、最初から名指しだったし……
「そう、君にうちのクラスの問題を一つ解決してもらいたいんだ」
副委員長の方が言う。
凄く真面目な感じで、ちょっと苦手な雰囲気……
「うちのクラスの問題、ねぇ……訳ありって感じだねぇ」
私の気持ちを優香が代弁してくれた。優香は思ったことを口に出せるし。
結構、優香なら何でも許されるってところがある。
「実は、うちのクラスに遊佐君っていう人がいるんだけど……」
今度は委員長が切り出す。
ユサ、君……聞いたことないかも。
でも、優香は違ったみたい。
「あの“白虎”遊佐武瑠しかいないよね?」
「そう、彼、留年してしまって、うちのクラスに入ったのだけど、一度も授業に出ていないの」
そう言えば、二人くらい留年した人がいるとか言ってたっけ……うちのクラスにはいないけど。
「その彼が授業に出るように説得してほしいんだ」
「普通さぁ、そーゆーのは、委員長の仕事でしょーが」
優香の言う通りだと思って私も頷く。
だって、私はF組だし、端から端で、全然関係ないわけで。
そうしたら、委員長がシュンと俯いた。
「そう、本当は私が先生に頼まれたことなの、でも……」
「遊佐って男は危険すぎる! うちの嫁にもしものことがあったらどうする!?」
くわっ、と目を見開いて副委員長が言う。
この人、こんなキャラなの?
正直、ちょっと引いた。ううん、ちょっとじゃない。ドン引き。
「こんな色気も何もない地味女、よほどのケダモノがどーしよーもなく飢えてるわけじゃない限り『勘弁してくれー!』って感じだと思うけど」
本人を目の前にして優香はとんでもないこと言った。
「き、貴様ぁ! 俺の嫁に向かって……!」
「楓の方が断然可愛いんだから危ないでしょーが! あんたの地味嫁には、もしものことがあっちゃいけなくて、あたしのキュートな楓があんなことや、こんなことになっても、いいって言うの!?」
優香さん?
私、そんなに可愛くないよ?
って言うか、何、この言い合い。
「正直、俺は全く構わない。むしろ、そうなってくれた方がすっきりする。許されるならば、是非とも、ケダモノの前に放り投げたいと思っている」
私、可愛くないけど、これはひどいと思う。
ううん、ひどすぎる!
「うっわ、副委員長ってやっぱり噂に違わぬ二重人格だよねぇ」
うん、何か予想外の性格。どんどん好感度が下がってる感じ。
できれば、これっきり関わらない方が幸せだと思う。
「あ、あの、私、あなたに何かした?」
「いや、何も?」
恐る恐る聞いたら、この反応。
何も、って感じじゃない。
やっぱり、何かしちゃったのかな?
この人、本当に全然知らないけど。
「こんな奴、ほっといていいよ。こいつ、真面目なフリして、性格めっちゃくちゃ歪んでるから」
うん、そうさせていただきます、優香様。
私には彼のことが全然わかりません。
「大体、委員長がダメなら副委員長が行けばいいでしょ? 何のための副委員長なの?」
その通りだと思う。
でも、彼を見たらプルプル震えていて……
「む、婿に行けない身体になったらどうしてくれる!? 目が合ったら最後、病院送りだぞ!?」
「それはそれは、是非とも、猛獣の前に放り投げてやりたいね。あんたなんか掘られてしまえ。楓もそうなってくれた方がすっきりするよね?」
いやいや、私に同意を求められても困るから!
「ぐっ……やはり、瀬山は手強いか……」
うん、この瀬山優香様に勝てる人なんてほとんどいないと思う。
「他のクラス委員さんとかにも頼んでみたのだけど、みんなに断られてしまって……」
「そりゃあ、お断りするでしょうよ。何せ、相手は“星高の白い虎”だもん」
それは一体、どういうことでしょう?
白虎とか、白い虎とか……あれ? 一緒?
「風紀にも頼んではみたが……」
「あーダメダメ、無駄なことしたね」
風紀の何が無駄なの?
「でも、風紀委員の仕事じゃないの?」
「あのねぇ、楓、うちのクラスの風紀委員は誰でしょう?」
「あっ……あの怖い二人」
「そうそう、うちのクラスの代表的不良にして、学年でも筆頭に数えられる由緒正しい不良さんですよ。頭にハンバーグ乗せた感じの人達」
「でも、他の人は……」
いや、あの二人がダメでも他はちゃんと活動してるはず!
「あんたさ、風紀が活動してるの見たことある?」
「見えないところで活動してるのかも……」
「残念ながら、形だけだ。どこのクラスからの選りすぐりの不良が集まっている」
うわっ、風紀委員会って不良委員会だったんだ。確かに一番楽な委員会って噂はあったけど……。
「じゃあ、生徒会は?」
風紀がダメならここしかないと思う。
「あの生徒会が助けてくれるわけないでしょ。今、正にその風紀委員会を粛正しようって猫様が大忙しなんだから」
優香は生徒会が嫌いらしい。と言うか、いつも生徒会長の南城稜己先輩を胡散臭いって言ってる。良い人なのに。
“猫様”こと白河寧々子先輩(通称:ネコちゃん)だっていい人だし。
「で、でも、天真君なら……あっ、私が天真君にお願いすればいいの?」
天真君なら、きっと何とかしてくれるはず。
そっか、そういうことか。
じゃなきゃ、私が頼まれるはずなんてないよね。
「天真君?」
あれ、委員長が首傾げてる?
「生徒会副会長の結城天真さん、楓の幼馴染み」
「そ、そんなこと知らなかったわ! 知ってた?」
「い、いや……」
副委員長も首を横に振って……あれ?
「え、じゃあ、何で私なの?」
不思議すぎる。そういうコネしか私にはないんだけど……
「君が結城副会長殿と仲が良いとしても生徒会は動かないだろう」
「そうだよねぇ。結城さん、楓には甘いけど、今回ばっかりはヒーローも出れないねぇ」
天真君はいつも優しくて、確かに私にとってヒーローだったんだと思う。いつまでも甘えてちゃダメだとはわかってるけど、やっぱり今回は天真君の仕事だと思う。




