一話
自分が、高校生の頃ってどんなんだったっけ。
何を考えてたっけ。
22歳にもなると、記憶は曖昧で。あと5年もすれば、もっと曖昧になる。
「で、幸一くんはどうしたいの?」
有希子は、目の前の、ふて腐れた少年の顔を見る。
「そんなん分かんないよ。まだ2年だし。先生はどうだったの?」
「んー。どうだっけなぁ。覚えてない」
有希子は小首をかしげる。自分が、高校2年生のとき、何をしていただろう。
「えー、何それ。全然参考にならない」
茶色の瞳が有希子を睨む。
「まぁ、でも、勉強はちゃんとしてたよ」
「そんなん分かってるよ。じゃないと、入れないでしょ。あの大学」
有希子が通っている大学は、国公立大学で、結構偏差値が高い大学だ。
「そうかもね」
有希子と幸一の年齢差、5歳。
22歳と17歳は、それなりに大きい。もはや78年後、100歳と95歳になると、変わらないが。
「でもね、幸一くん。これ提出しなきゃなんないんでしょ」
有希子の目線の先には、進路希望と書かれた紙がある。でも、そこには何も書かれていない。白紙だ。
「そうだけどさぁ。本当にまだ分かんないし」
幸一はハァッと大きくため息をつき、頭をがしがしと掻く。
「適当に大学名、書いとけば?」
「それをすると、ややこしいんだよ。母さんが」
「確かにね」
有希子は、幸一の母親を思い浮かべる。過保護気味の彼の母親は、幸一の進路をとても気にしている。適当に大学名を書くと、後々ややこしいことになるかもしれない。
「まぁ、でも、私も一応あなたの家庭教師だしね。私の希望としては、そこそこいい大学に行ってほしいんだけど。高いバイト代もらってるし」
「いい大学ねぇ・・・」
幸一の真っ黒の髪の隙間から耳が見えた。そこには、3つ、穴が開いているはずだった。
「・・・幸一くん。穴、増えてんだけど?」
幸一の耳を引っ張る。
「いてててて。ギブギブ」
「君、もう開けないって約束したでしょ」
3つだった穴は、4つに増え、その4つともがピアスで塞がれていた。
「気分転換、気分転換」
「お母さん、泣くよ?」
「いや、すでに泣いた」
「・・・馬鹿だね」
「反省してます。もう絶対開けない」
幸一は両腕を上げて、降参のポーズをする。
「絶対だからね?」
「今度こそ、約束します」
本日も、少年は、悩む。
そして、馬鹿をする。