表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/32

 西暦二〇××年八月十日、僕らは列車に飛び込んだ。


 駅のホームに立っていた時、構内放送が響いた。「まもなく列車が到着いたします。黄色い線の内側までお下がりください」スマートフォンから顔をあげる。人の多く混みあうホームの中でも、みなきちんと列を組み、これから乗り込む列車を待ち構える。


 長い髪が見えた。


 あれは同じクラスの女子だったか。いつも斜め前に座っている姿に覚えがある。さらさらとした長い髪はつややかで、それ自体が光を放ち輝いているように見える。笹目木塔子だ。青のストライプのシャツと、白く長いスカート。彼女の私服を初めて見た。

 列車を待つ列には並ばず、ホームに立っている。人混みを避け、揉まれるうちに知らず僕は彼女に近づいていた。


 長い髪が揺れた。


 自分から飛び込んだのか、誰かに押されたのか、笹目木塔子は長い髪を引き連れて、線路の方へ落ちていく。その様子が妙にゆっくりと見えて、僕は彼女を追いかける。

「ささ」

 最後まで言い切れないまま手を伸ばす。笹目木塔子の白く長い腕をつかむ。折れそうだ。どこか遠く思考の端でそう思う。同時に彼女の腕を引っ張った。けれど駆け出した勢いにふらつく足では思ったように力は入らず、笹目木塔子と同じように、線路へと体が傾いていく。


 ホームに列車が入る。僕は目を見開く。笹目木塔子も同じだろうか。

 ホームに列車が入る。僕らに近づいてくる。運転手の顔は見えない。

 ホームに列車が入る。


 そして僕らは列車に飛び込んだ。夏休みも半ばだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ