第四話「隠魔法と王妹」
そこにはまだ少女の姿のエルフがいた。まあ、そうだろう。エルフは歳をとる速度が違うというから。そのエルフが女王、スピカなのだろう。
「カストルくん、こっちにきて」
アルファさんにそう言われ、俺もベッドの方へ向かう。側には側近らしき人がいて、こちらを明らかに警戒しているが、俺がアルファさんの知人ということで下手に何も言ってこないようだ。アルファさんも相当の立場だということだろう。俺がベッドの側に着くと、女王は明らかに衰弱していた。
「アルファ、そこにいるのは誰なのじゃ?」
苦しそうに言った.しかっし、のじゃっ子!どうしてこの世界はこうも色々と性癖をくすぐるのだろうか。つくづく、性癖を歪めていなくて良かったと思う。まぁ、‘歪める’っていうのは違うと思うが。
「お初にお目にかかります、陛下。私はカストル・アークトゥルス。アークトゥルス公爵の第一子です」
俺は自己紹介する.その言葉で陛下はわかってくれたようだ。
「そうか.彼の子か。それでなんの用じゃ?」
「陛下の呪いを解くために、アルファさんに呼ばれたのです。もしも本当に呪いならば私に任せてください」
「ああ。頼んだぞ」
俺はそう言われ、早速鑑定をする。
スピカ・ウォルフ 274歳9ヶ月4日 エルフ 女 リクサンタナ王国女王
スキル
統率人々を従える.人々に慕われる.
操り人形自分より弱いと判断した生物を操り人形にする.
魔法
光
状態異常・病気・毒
???
またか。また説明と違う.奴隷商の時といい、病気が呪いだったり、呪いが呪いじゃなかったり。少なくとも、陛下は呪いにかかっていない可能性が高いだろう。
「陛下、アルファさん、これは呪いじゃないかもしれません」
「それはどういうことなの?」
「アルファさんの鑑定は何が見えていますか?」
「名前と性別、年齢。あとスキルと魔法だよ。あと、病気とか呪いにかかってたらそれも見えるかな。それがどうしたの?」
「私の鑑定ではそれに加えて、なぜか立場と種族、状態異常や呪いにかかっている可能性まで見ることができます。今、鑑定してみたところ、呪いは見えず、状態異常などのところに記述がありました。しかし、そこが正確な名称が記述されていないのです。状態異常を隠すスキルや魔法などありませんか?」
そう聞くと、アルファさんは思い立ったように口を開く。
「陰魔法」
「それはどういう魔法ですか?」
「自分の姿や、相手の姿を消すという物なんだけど、応用でかかっている病気が何かわからせなくすることもできる」
「なるほど」
俺はアルファさんの話を聴きながら片手間に解除を使用する。
「アルファさん、これでどうですか?」
これでアルファさんにも状態異常が見えているはずだ。そう思ってアルファさんを見ているとさっきと同じくまた右目が光った。もしや鑑定をしているとああなるのか?俺もなっているんだろうか。
「カストル君.私にも見えたよ。これは‘肺炎’だ」
肺炎ね。死ぬ可能性もあるか。どうすれば治ったっけ? 俺が対処法を考えているとアルファさんが陛下に話しかけた。
「陛下。陛下は肺炎でした」
「そうか、肺炎か。なら妾は死ぬじゃろうな。なんせ肺炎は不治の病だったじゃろう?」
「そうですね。陛下」
ん? 待て待て待て。治らない? まじで? それを聞いている面々は涙を堪えていた。中には泣いているものもいた。
「これは遺言じゃ。聞いてくれ。次の王はシータにしてくれ。それと__」
俺はそこで止めた。
「ちょっと待ってください。治りますよ? 肺炎」
俺がそういうと2人は明らかにきょとんとした。そして、陛下が話しかけてきた。
「気休めはいいんじゃ。治ったことがないのが事実なのじゃから」
「だから治るんですって。みたところ、まだ死ぬほどの重症じゃないですし。薬を投与すれば治ります」
「ほ、本当に治るの?」
今度はアルファさんが話しかけてきた.
「えっとね。ベポタスチンじゃなくて、そうだ。ペニシリンだ」
「よしじゃあそれを陛下にって、無理だね.そもそもここにないんだかr」
「作成。ペニシリン錠剤」
俺はスキルを発動させてペニシリンを作成しようとする.しかし、作成できなかった.
「ん?おかしいな.作成できない」あ、そうじゃん。俺が昔肺炎になった時筋肉注射してたわ。
「作成.注射器入りペニシリン」
そうすると、今度こそペニシリンが出てきた.
「これを朝昼夕と3回筋肉内に注射してください。そうすれば、治っていきます」
「そうか。妾はまだ死ななくて済むのじゃな」
「ちゃんと治せばですけどね。それとアルファさん、陛下の身辺にいる陰魔法使いを」
俺はそこで言葉を止め、別の言葉を紡ぐ.
「いや、シータ様とシータ様の配下の陰魔法使いをこの部屋に集めてください」
「その必要はないよ。この城内にいる人間で陰魔法が使えるのはシータ様だけだから」
なるほど。王妹が犯人とかいうベッタベタのパターンか。
「ならシータ様をここに連れてきてください。それから、俺がシータ様に何をしても止めないでください。侵入者が厳重な警備の施されているこの部屋に入れるはずがなく、妹のシータ様なら簡単に入れるでしょうから。それと医官も連れてきてください」
俺がそこまで言うとアルファさんは俺の意図を汲み取ったようで、全速力でシータ様がいるであろう場所に向かった。陛下からも「死なない程度なら何をしても良い」との許しを得たので思いっきりやろうと思う。医者に投与方法を伝えておけばその後俺が関わる必要はなくなる。公爵家子息という立場で関わるだけになる。それで十分だ。余計なことに巻き込まれたくない。もう十分巻き込まれているか。そんなことを考えていると、アルファさんが2人を連れて戻ってきた。
「ねえ!何してるの!?離しなさい!」
アルファさんはシータの襟首を掴んでいる。そのまま前に投げ飛ばした。シータさんは倒れ込み、頭を上げた。俺はしゃがみながら言う。
「こんにちは。シータ様。今から貴方を尋問したいと思います。まず初めに質問です。陛下に陰魔法をかけたのは貴方ですか?」
「し、知らないわよ!そんなこと!」
「まず一つ目。今の質問に対して、普通はなんのこととか聞くはずだと思うんですよね。まあ、今はどうでもいいです。鑑定」
俺は流れるようにシータを鑑定する.
シータ・ウォルフ 230歳2ヶ月6日 エルフ 女 リクサンタナ王国王妹
スキル
統率人々を従える。人々に慕われる。
健康体 病気にかからない。
魔法
陰
健康体ねえ。だからこの人はかかってないってことか。
「もう大体調べはついてるのでしらばっくれないでください。今ならまだ亡くなっていないので罪は軽くなるかもしれません」
「ほ、本当に知らないのよ!」
はぁ。仕方ねえ。丁度いい。俺のスキルのモルモットになってもらおう。
「スキル!使役!」
そうすると、シータの青い綺麗な瞳がくすみ、渦巻模様が入った。
「貴方は陛下に魔法をかけた.YES or NO」
「YES」
「何故そんなことをしたか答えろ」
「私は唆されたの。今、お姉ちゃんが死んだら私が王になれるって。名前は確かカンザキ。カンザキがお姉ちゃんを肺炎にかけたから魔法でわからないようにしてしまえ。そうすればお前の姉は死んでお前が王になれるって」
っ! かんざきだと?転生、もしくは転移者か?一体なんのために。俺は自らが気付かぬうちに怪訝な顔をしていたようだ。そばにいたアルファとガンマが少し怖がっているように見えた。俺は顔を少し和らげることにした。
「そうかわかった。じゃあ自分の全力を持ってして10回自分の頬を叩け」
そう言うと、シータは無表情で叩き始めた。恐ろしいな使役。どんな命令でも聞くのか?死ねと言えば死にそうだな。擬似奴隷みたいな感じか。
「聞きましたね。実行者はシータですが、首謀者がいます。なので、あまり罪を大きくしないで差し上げてください」
欲に溺れたモノの末路は俺が一番知っている。だから、シータのことを人ごとだとは思えず、俺は思わず進言してしまった。
「まあ、追って沙汰する」
「あのぉ、私はなぜ呼ばれたのですか?」
ほったらかしになっていた医者が聞いてきた.
「あなたには、陛下に薬を投与していただきます。その要項を伝えるために来ていただきました。バケツ」
俺はそう言って、バケツを作り出し、そこにペニシリンを入れながら説明する.
「このバケツに入っている薬を一日2gほど筋肉内に注射してください。そうすれば、自然と治癒していくと思います」
「何の病気なんだい?」
「教える必要ありますか?」
俺はわざと冷えた声で言う。
「それを教えればあなたは治療をする気がなくなると思います。自分可愛さにね。なので、一応、治療をするときに口を覆っておいてください」
「あ、ああ。わかった」
「納得していただけたようで何よりです。それでは、私は帰らせてもらいます。2人とも、帰ろっか」
俺は2人に告げる。
「「はい/おー!」」
「送らせてくれない?」
「ありがとうございます.僕もここまで啖呵切ったくせに出口がわからなかったんです」
俺がそういうと、アルファさんはどっと笑い始めた。
「様ないね」
「本当にそう思いますよ」
俺たちは笑いながら、城外に出た。
「カストル君。今日は本当にありがt」
俺はアルファさんの言葉を遮って、話し始めた。
「その言葉は、陛下がちゃんと回復するまでとっておいてください。これで治っていなかったら、元も子もないですし」
「そっか。じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
「はい。ではまた」
俺はそう言って歩き出す。すると、噴水あたりでローブを着た怪しげな人物がいた。俺がその人物を怪訝な顔をして見ていると、その男が急に、俺のすぐ右にいた。そして、そのままイータを連れ去っていった。明らかに人間の速さではなかった。身体強化スキルでも持ってんのか?
「あるじ! お姉ちゃんが!」
「ああ。わかってる」どうする! 頭ぶん回して考えろ! 鑑定は間に合わなかった。今からじゃどっちにしろ無理だ。飛んで探すか? いや、魔法の使い方を知らない今、使っちまったらドボンだ。攫ったやつの場所さえ分りゃいい。待て、攫ったやつ? イータの場所でもいいんじゃねえか? なら、姉妹のリンク能力とかねえか?
「鑑定」
俺はガンマに鑑定を使用する。すると、さっきとは違う結果が見えてきた.
ガンマ 9歳7ヶ月24日 半獣人 狐 カストル・アークトゥルスの奴隷
スキル
共感 姉妹と感覚を繋ぐことができ、場所、感情がわかる
魔法
光
共感か。有用だ!
「ガンマ、スキルの発動できる?」
「どうやったらいいの?」
「スキル、共感って言ったらいけるはず」
「わかった。スキル、共感」
ガンマがそういうと、ガンマの髪が緑に光った。スキル発動中は体の一部、使用場所が光るのだろう。
「イータの場所はわかる? もしかしたら、テレパシー的に話ができるかもしれない。試してみて」
俺がそういうと、ガンマは眉を顰め、両手の親指を顳顬に押し付けて、少し時間をおいたあと、言った。
「お姉ちゃんの場所は、多分ここからそう遠くない場所。倉庫みたいかな。お姉ちゃんがそう言ってる」
「了解。今から倉庫を探す。でも今ガンマから目を離すわけにはいけない。だから、おぶわれてくれ」
「ありがと」
そう言って、ガンマは俺の背中に飛び乗ってくる。俺はちゃんと掴まったのを確認すると、リミッターを解除する。そして、高く跳躍し、建物の上に乗った。そこからさらに跳躍し、辺りを見渡す。すると、伝書鳩が飛ぶ倉庫を見つけた。
「あそこか」
俺はそこに目星をつけ、建物に足をつくと同時に、踏み込む。すると、ブチギレていたのもあるだろう。屋根を踏み抜いてしまった。
「ヤッベェ.後で弁償だな」
俺はそう呟きながらも、足は止めない。
「あるじ.怖い」
ガンマがそう言った。何も考えずに飛ばしていたため、ガンマにまで気が向いていなかった。
「ごめん。でも、ちょっとだけ我慢して。あと喋らないほうがいいよ。舌噛むから」
俺はデジャヴを感じつつも走り、その道すがらあるものを生成する。最悪、輩を殺さなければいい.最大限痛めつけて、人格破壊してやるよ。覚悟しろクソ野郎ども……