二人乗り
時間は午前4時頃――まだ日が昇るには早い
そんな時間に一組の男女が自転車に二人乗りしながら走っていた
「それで、どこに行くつもりなの?」
後ろに乗るアヤカが不機嫌そうに言った
ぐっすり寝ている所を起こされたのだ、そりゃ不機嫌にもなる
そんな彼女とは対照的にケンジは明るい口調で言った
「学校だよ。あそこの屋上からなら朝日がきれいに見えると思って」
彼が漕ぐ自転車は2人が通う高校に向かっていた
小高い丘の上に立つ校舎の屋上は見晴らしが最高に良いのだ
「朝日って…そんなの見るためにたたき起こしたわけ?」
「そうだけど?」
その言葉にアヤカは後ろからどついてやろうかと思った。でもここで少し考える
何の理由もなく朝日を見るなんてことをケンジがやるとはアヤカは思えなかった
突拍子もないことをよくやったりするがそこには必ず何らかの理由があった
今回の行動の理由は何なのか?アヤカは考える
「ねぇ、もしかしてあの映画のあのシーンをやろうとしてたりする?」
「あっ、分かっちゃった?」
思い当たったことを言ってみたらどうやら正解だったようだ
あの映画とはケンジが好きなアニメ映画のこと
読書好きの女の子とヴァイオリン職人を目指す少年の恋愛模様を描いた映画だ
その映画のクライマックスを再現する――それがケンジの目的だ
ケンジのやろうとしてることが分かったアヤカは心の底から呆れた
よくもまぁこんな朝早くからそんなことをやろうと思い立ったものだ
だがしかし、アヤカにはまだ知らないことがあった
ケンジにはもう一つの目的があることを
「でもうちの学校ってかなり高い所にあるけど、登りきれる?」
「多分無理。だから坂に差し掛かったら降りて」
アヤカを乗せたまま上り坂を登る体力はないようだ
「だらしない」と言いつつも可愛そうなのでアヤカは降りることにした
その後もいろいろ喋りながら学校を目指す
自転車を漕ぐケンジのポケットの中では銀製の指輪が一個、輝いていた