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Episode 57. 行方知れずの王女(後編)

「儂はシェナリーに泊まった晩、リリアとジークのみを連れて孤児院に向かった...国王がすることではないが秘密保持の為にはそうするしかなかった...」

国王の話が続く。

「そこで見た、女の子...その子には確かにリリアの面影があった...」

「・・・」

ローズはそっと王妃に目を移す。

(確かに似てるかも...)

そんな事を思っているうちにも話は続く。

「しかし、だからといって何が出来るわけではない!何しろ物的証拠がない。状況証拠だけでは孤児を王族に加えるには説得力があまりにも乏しかった...」

国王は無念そうに目を閉じた。

「儂に出来ることは時折、ジークに様子を見に行かせることくらいだった...『剣が好き』と聞いた時はうれしかったな!!儂も冒険者をしていたくらいだからな!!」

そう言った国王に、

「もしかしてあの剣も?」

ローズが孤児院で中古の剣をもらったことを思い出す。

「いや、あれは私が用意した!孤児院にあってもおかしくないものを探すのは意外に難しかったよ...」

そう言ったのはジークだった。

「あたし、ジークさんに見守られてたんですね...って、もしかしてドラゴンの骨について話していたのって!!」

ローズはふと、孤児院で院長先生が冒険者らしい男性と話しているのを盗み聞きしたことを思い出す。

「ああ!私だ!!院長が王妃様が護身用に持ってらした変わったナイフに興味を持ったようで、後で聞かれたのだ!!まさかそこにローズ君がいたとはね!!私から気配を消すとはなかなかだ!!」

ジークはそう言って笑った。

「じゃあ、あたしがサクラノの冒険者学校に行かされたのは...」

ローズがハッと気づく。

「そうだ!私がちょうど、冒険者を引退してサクラノの装置の見張りをすることになったので、私の目の届くところがいいだろうと、サクラノの冒険者学校を院長に推薦したんだ!!」

ジークの説明に、

「...そっか...あたし、嫌われてたんじゃなかったんだ...また、孤児院に行ってみようかな...」

ローズが長年のわだかまりが解けたかのようにスッキリした顔で言う。するとマリーが、

「ねっ!!私の言った通りでしょ!!...今度は二人で行こうね!!」

そうローズに笑いかけた。

「あっ!!じゃあ、マリーが知ってたのって孤児院で聞いて...でもよく話してくれたわね?!」

ローズがマリーに聞くと、

「どうやら、私が『ローズちゃんと一緒に冒険してる』って聞いて、王様がつけた護衛だと思ったらしいの!!...こんな頼りない護衛なんておかしいよね!!」

そう言って笑うマリーに、

「そ、そんな事ないと思うけど...マリーって実は戦闘での機転とかすごいし、頼りになるのに...でも、ならなんで話してくれなかったの?!」

ローズがフォローしたかと思ったら、今度は頬を膨らます。

「それは、私がただの冒険者仲間だと分かって、慌てて口止めされたの!!...院長先生って意外とそそっかしいんだね!!」

マリーはおかしそうにふふふと笑う。

「そっか...そんなことがあったんだ...」

ローズが納得していると、

「それに...話すとローズちゃんが遠い人になっちゃいそうで...」

「マリー...」

そう言って、目を伏せたマリーにローズはどう答えていいものか分からなかった。


「でも、なんで今になってそんな話を?!証拠がないからどうしようもないんじゃなかったんですか?!」

ローズが話題を変えようと、国王にわざわざそんな話をした理由を聞くと、

「一つはお前を目の前にして、話すのを止められなかったから。もう一つは...」

「もう一つは?」

ローズが繰り返すと、

「今がお前を我が子として迎える絶好のチャンスだからだ!!」

「ええぇぇ~~~~~!!」

国王の言葉にローズが大声を上げてしまう。

「な、なんで??...だってあたしは...」

ローズが戸惑っていると、

「今、国民は世界を救った新たな英雄に酔いしれている!!さらにその英雄が行方知れずになった王女だと聞いたらどう反応すると思う??」

国王がそう尋ねてきた。

「・・・」

ローズは答えない。答えが分からないからではなく、それがローズにとって望ましい事ではないからだろう。

しかし、国王の言葉は止まらない。

「熱狂的に迎えるに違いない!!そうなれば、もはや状況証拠で十分!!まだ残っているサーシャ派の貴族も反対できまい!のう!大臣よ!」

「はっ!仰る通りにございます!!」

国王の言葉に大臣も同意した。

「だからお前が心配することは何もないのだよ!」

国王は安心させるようにローズに話しかける。すると、

「じゃ、じゃあ、最初に話した『もう一つの道』って...」

ローズがその意味にやっと気づく。

「そうだ!!王女として王宮に戻ってきてくれぬか?!」

国王がハッキリと断言した。

「そ、それは...」

ローズは困ったように口を濁す。

「もちろんお前が冒険をしたがっていることは知っている!!本格的には難しいかもしれないが、多少は目をつぶってやろう!!」

それを見た国王は、懸命にローズを説得しようとする。

「でもマリーは...」

ローズが逃げ道を探すようにそう言うと、

「ああ!その娘なら...そうだな!!信頼のおける貴族の養子にしてやろう!!それなら親交を深めても問題はあるまい!!」

「えっ?!それってマリーが貴族に?!」

国王の言葉に先程までとローズの態度が変わる。すると、国王はチャンスとばかりに、

「ああ!!もちろん!!なんなら王宮に部屋を用意してやってもいい!!」

そう言って畳みかけた。

「・・・」

黙り込むローズ。ブツブツ呟きながら何かを考え出す。

「マリー...貴族...側室じゃなくて正妻に...チャンス...」

誰も意味が分からなかったが、国王は無言でローズに考える時間を与えている。

ローズは必死に葛藤していた。

「・・・」

隣で目で訴えてくるマリーに気づかないほどに...


そして、しばらくの後、ローズが出した答えは、

「申し訳ありません。返答は後日ということでお願いできないでしょうか?マリーの気持ちを確認しないと...」

「そんな必要ないよ!!」

<ガタン!!>

ローズは返事を保留しようとしたが、隣から聞こえてきた声と音に驚いて目をやる。

そこではマリーが椅子から立ち上がり、今にも泣きそうな顔をしていた。

「マリー?」

ローズが出来るだけ優しい声で話しかけるが、

「王女様なんてすごいじゃない!!ローズちゃんは自分のしたいようにしたらいいよ!!私の気持ちなんて確認しないでいい!!」

泣きそうな声で叫ぶマリー。

「そうじゃないの!!あたしはマリーのことを...」

そんなマリーをローズは必死で落ち着かせようとする。しかし、

「私はローズちゃんと冒険できればそれで良かったの!!貴族になんてなりたくない!!」

「マリー!それだったら...」

ローズが興奮しているマリーに何か言おうとしたが、マリーに遮られる。

「...私、ローズちゃんも同じだと思ってた...冒険が好きで...私も...きっと必要としてくれてるんだって...」

そう言ったマリーの目から一筋の涙が流れる。

「もちろんそうよ!!だから...」

しかし、ローズの言葉はマリーには届かなかった。

「...幸せになってね!...さよなら...」

傷心のマリーは涙でそう言うと、晩餐会の部屋から飛び出していった。

「マリー!!」

慌てて追いかけるローズ。

その様子を呆気に取られて見ていた国王だったが、

「いかん!!王宮は広い!!無闇に走り回ると迷子になるぞ!!誰か追いかけろ!!」

「はっ!!」

そう命令すると、一人の高官が二人を追いかけようとする。しかし、

「やめなされ!!」

ジークの張りのある声に追いかけようとした高官が止まった。

「しかし...」

まだ心配そうな国王に、

「今は二人だけにしておいてあげてください...あの二人なら迷子になっても何とかするでしょう。それよりも大切な話をこれから二人はしようとしているのです...」

ジークは扉の外を眺めると、真剣な眼差しでそう言うのだった。


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