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Episode 56. 行方知れずの王女(前編)

「もう一つの道??」

ローズが首を傾げていると、

「そうだな!この話をするには昔、この国で起こったことから話さねばなるまい!!長くなるがよく聞いてくれ!!」

「はい...」

国王の言葉に多少の胸騒ぎを覚えながらも、ローズはとりあえず肯定の返事をしたのだった。



ジークを含め、皆は事情を知っているのか神妙に国王の次の言葉を待っている。

(マリー?)

そして、それはマリーも同じようだった。

ローズはマリーがどうして知っているのか不思議に思ったが、とりあえず国王の話を聞くことにする。


「時は二十年ほど前の話になる...」

国王の話が始まった。

「その頃、儂はこのリリアと結婚して数年経っていたが、子宝に恵まれずにいた...」

話は子種の話から始まる。

王室にとって子供はとても重要だ。

生まれなければ血統が途絶えてしまう。

国王の一番の仕事は子供を作ることといっても過言ではなかった。

「そこでやむを得ず、側室を娶ることになった...今でもすまないと思っている...」

国王がリリアと呼ばれた王妃の方を見て謝る。

「...いいのですよ!おかげでウィリアムという立派な王子が生まれました...」

王妃がそう言って国王に笑いかける。

「私など...」

ウィリアムという名らしい王子がそっと謙遜した。

「では、王子様はその側室の?!...ごめんなさい!!」

ローズはふと口にしたが、間が悪いと思ったのか慌てて謝る。しかし、

「うむ!そうだ!!事実なのだから謝ることはない!むしろ、それを知っておいて欲しい!!」

国王はむしろ好都合だとばかりに強調した。


「それから数年後、奇跡が起きた!リリアに子が生まれたのだ!!」

国王は少し間を置くと、続きを話し出した。

「えっ?!じゃあ、その方は今どこに?」

ローズが周りを見回すが他に王族らしき人はいない。

「...ある日突然、消えてしまったのだ...」

「えっ?!」

国王が無念そうに言った言葉にローズは驚きの声を上げてしまう。

「消えたって...」

信じられない様子のローズに、

「...それは可愛い女の子だった。しかし、生まれて間もなく、城から忽然といなくなり、どれだけ捜しても見つからなかった...」

「ちょっと待ってください!!王女様でしょ?!必ず誰かが見ているはずだし、王城から抜け出すことも、誰かが連れ去ることも不可能なんじゃ...」

国王の言葉にローズはそう口にする。

どう考えても有り得ない出来事に思えたのだ。

「それは儂も同じだった。子守をしていた女性とともに突然いなくなり、どの衛兵に聞いても見たものはいない...どう考えても変な話だ...」

「結局、原因は分からなかったんですね...」

国王の言葉にローズが呟くと、

「それが、最近になって理由が分かってな!!」

国王がそう口にした。

その時、王子が悲しそうに目を伏せた気がした。

「何が原因だったんですか?」

ローズが聞くと、

「サーシャ...ウィリアムを産んだ側室だが、あやつが自分の味方の貴族を巻き込んで、人攫いの組織を操り、王女を連れ去らせたのだ!!」

「!!!」

国王の言葉に衝撃を受けたローズは言葉も出ない。無言でいると、国王は説明を続ける。

「子守の女性はサーシャが連れてきたのだが、そやつはその組織のものだった...そやつは王女を庭まで連れ出すと、そこからはサーシャ派の貴族の部下が管理するエリアを通って、城外へと連れ去ったのだ!!」

「なんでそんな事を!!」

ローズは理由が分からず国王に問う。すると、

「どうやら、ウィリアムの王位の継承を確実にしたかったようだ...新しく生まれた王女は正妻の子!女で年下とはいえ、反対派の貴族がまつり上げてくる可能性があると思ったようだ...」

「そんな事の為に!!」

国王の説明に、ローズが悲しそうな顔で声を上げるが、

「...王宮にはいろいろあるのだ...今はマシになったが、少し前まで貴族の派閥争いは熾烈を極めていたからの!...儂も頭が痛かった...」

国王はそう言って、溜息を吐いた。

「それでその側室は?!」

そこまで言ったローズだったが、王子を見て顔を伏せてしまう。

「ああ、気にしなくていいよ!母のやったことはしてはいけないことだし、僕も責任を感じている...」

それを見た王子がそう言って軽く頭を下げた。

「あなたが責任を感じることはないのですよ!何も知らなかったのですし、あなたはあなたです!」

そんな王子に王妃が優しく声をかける。

「お継母(かあ)様...」

王子は潤んだ目で王妃を見上げた。

「そうだ!お前が気にする必要はない!...それにサーシャは去年、死んでしまった...流行り病でな...それであの事件に関する手紙や書類が見つかったのだ...」

国王も王子を慰めると、側室の最期について語った。


しばらく重い空気が辺りを支配する。

それを打ち破るように国王は話を再開した。

「話が前後するが、王女が消えて数年後、思わぬ知らせが入った!レオリア...サクラノも傘下に置いておるシェナリーの伯爵だが...」

「えっ?!もしかしてスカーレットのお父さん?!」

『シェナリー』と聞いて、ローズが思わず話に割り込んでしまった。

ローズは『しまった』という顔をする。

しかし、国王は気にする様子もなく答えた。

「ああ!スカーレットのことは知っておるのだな?!...そうだ!その父から連絡が入り、シェナリーにある孤児院に、ちょうどそのころ拾われた赤子がいるという話だった...」

「へぇ~~~」

ローズは呑気に相槌を打っている。

「高価な毛布に包まれ、裏路地に捨てられていたらしい...毛布からバラの香りがしたことからその子は『ローズ』と名付けられたそうだ...」

「へぇ~~...って、もしかしてあたし?!でもそれとこれと何の関係が...ってまさか!!」

国王の言葉に何かを感じ取ったローズは周りを見回すが、皆、相変わらず神妙な顔をしている。

驚いているのはローズだけだ。

「マリー?!もしかしてあなたも?!」

「ごめんなさい...」

ローズの言葉に、ただそう答えるマリー。

そんなローズを止めるようにジークが声を上げた。

「...ローズ君!君の気持ちは分かる。しかし、とりあえず話を最後まで聞いてもらえないだろうか?」

「・・・」

ローズは無言で肯定の意思を示したのだった。


すると国王が説明を続ける。

「シェナリーは人攫いの組織が本拠地としていることでも有名だった。バックに大物がいるらしく、レオリアも手を出せない。それどころか『逆らうと娘を誘拐する』と脅されていたようだ...」

「バックの大物って...」

ローズが何かに思い当たる。

「そうだ...その頃は分からなかったが、サーシャで間違いないだろう...レオリアは娘を心配して剣を教えたそうだ...それが思った以上にハマってしまい、今は冒険者にまでなってしまって、頭を痛めておるそうだが...」

国王が苦笑いをする。

「ふふふ。スカーレットが剣に目覚めたのはそれが原因なのね!!でも、おかげで地獄の軍勢を撃退できたんですよね?」

ローズがふっと笑顔になってジークに聞くと、

「そうだな!縁とは不思議なものだ...」

ジークはそう言って、頷いた。

「あっ!でもあたしたちは英雄になれたけど、スカーレットやミランダさんたちには何もあたらないの?」

ローズが思いついたように聞くと、

「もちろん、働きに見合った十分な報酬は出すので安心していい!!レオリアも微妙な気分だろう!!」

国王の言葉に、

「良かった!」

ローズはホッとしたようだった。

「少し、話が逸れたな!!まあ、あの組織も素性が分かり、バックのサーシャもいなくなった今では壊滅寸前だと聞く。儂からも掃討の命令を出したしな!!」

「ああ、そういえばそんな話、シェナリーのギルドで聞いたような...」

国王とローズはそんな会話を挟み、本題へと戻っていくのであった。


「人攫い...高貴な家の娘だったらしい少女...拾われた時期...そして...黒髪黒目...」

国王がローズの髪と目を見ながら言う。

「それを聞いた儂はいてもたってもいられず、すぐにシェナリーに向かいたかった...しかし...」

「しかし?」

ローズが繰り返すと、

「明らかに派閥争いのにおいがした!儂がそれに気づけば下手をしたらその娘が殺される可能性もある...儂はすぐには動けなかった...」

国王が悔しそうに顔を歪める。

「結局、定例のシェナリー視察の時期が来るまで数年、待たねばならなかった...」

国王はその時の苛立ちを吹き飛ばすかのように、軽く首を左右に振るのだった。


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