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Episode 49. 激闘は終わった

「...私たち、勝ったの?」

実感のこもっていない言葉で呟くマリー。

「...そうみたい...」

そう答えるローズも呆然とした顔をしていた。

やがて、

「うっ!...うっ!...」

マリーの目から涙が流れ出す。

「ど、どうしたの?もうサタンはいないのよ!!...あらあら、可愛い顔が台無し!」

ローズはそう言ってマリーの涙を指で拭ってあげる。

「だ、だって...『ローズちゃんが死んじゃう』って思って...一生懸命、神様にお祈りして...そしたら何か見える世界が変わって...」

マリーは心に溢れてくる言葉をそのまま口に出す。

それは脈絡のないものだったが、ローズには伝わっていた。

「...あたしも同じよ!『マリーを守りたい』って思った...もう神様に祈るしかなくて...そしたら急に全てが変わったの...もしかしてあれが...『無敵の境地』...」

ローズはサタンを淡々と攻撃していたことを思い出す。

(あの時、あたし、サタンを倒そうと思ってなかった...ただ、降りかかる火の粉を...)

そんなことを考えていると、

「私たち、生きてるんだよね?!...もうサタンはいないんだよね?!」

マリーの念を押す声が聞こえる。

「そうよ!!だから安心していいの!!...あっ!あたしは急いで報告に行かないと!...サタンが『地獄の扉を開いた』って言ってた!!何も起こってないといいけど...」

そう言ったローズが走り出そうとするが、

「えっ?!」

その手をマリーが取って引き留めた。

「...離れないで!...私も一緒に...行く...」

「うん...」

潤んだ目で見つめるマリーの言葉にローズは頬を染めながら頷くと、二人仲良く手を繋いで山を下り始めるのだった。


☆彡彡彡


一方、山の麓では、

「あれ?...地獄の扉が...」

順調に地獄の魔物を倒していくジークたちだったが、魔物が現れてくる黒い渦のようなものが消えてしまった。

キャサリンがそれを見て、声を上げる。

「これは...サタンが倒されたのか...いや、諦めて地獄に戻ったという可能性も...」

ジークはその理由を考え始める。

「でも誰が?」

ミランダが疑問を呈すると、

「きっと、ローズたちですわ!!あの子たちならサタンを追い払ったとしてもわたくしは驚きません!!」

スカーレットが明るい声で答えた。

「そういえば、いつまで経っても来ないね!!山頂から転移したのならとっくにここに来てると思うけど...」

ネルソンもスカーレットと同意見なようだ。

「...全く!!あれほど逃げろと言ったのに...」

ジークはそう呆れたようにぼやく。

合理的に考えてそれ以外の可能性がないことを悟ったのだろう。

「おしゃべりは魔物を全て倒した後だ!!まだ、残っているぞ!!」

ダイアンが言うと、

「そうだな!もう新しい魔物は出てこない。最後の一踏ん張りだ!!いくぞ!!」

「「「「「「はい!!」」」」」」

ジークの掛け声と共に、皆は最後の力をふり絞り、残りの魔物たちを掃討していくのだった。


☆彡彡彡


「はぁ!...はぁ!...」

山の麓で7人の冒険者が仰向けに寝転んで乱れた息を整えていた。

やがて、息が整うと、一人、また一人とその場に座り込む。

「ハイ・ヒール!!」

すると、ワカクサが皆の傷を癒やし始めた。

「ボ、ボクも!!」

キャサリンも手伝おうとするが、

「キャサリンさんは長い戦いで魔力を使い果たしているでしょう?...ここは私にお任せください!」

ワカクサはそう言って、皆の傷を一人で癒やした。

「ありがとう...」

照れくさそうにお礼を言うキャサリン。

「いえ、皆さんの戦いぶりは凄まじかったです。さすが王国一は伊達じゃないと感心しておりました」

ワカクサがいつも通り淡々と話すと、

「そうですわ!!わたくし、あまりお役に立てなくて...不甲斐なく感じております...」

スカーレットも悔しそうに俯いた。

「いや、君たちが来てくれなかったらアークデーモンの魔法で壊滅的なダメージを受けていただろう!それにスカーレット君もよくやってくれた!十分な働きだよ!!」

そんなスカーレットをジークが慰める。

「そんな...」

スカーレットが照れるが、

「そうよ!!あなたたちが来てから魔物の殲滅スピードが上がって、戦いが楽になったわ!!ありがとう!」

ミランダもスカーレットにお礼を言う。

「...少しでもお役に立てたのなら...うれしいです...」

すると、スカーレットはそう言ってはにかんだ。


しばらくして、ジークが、

「しかし、シェナリー殿のお嬢さんが何故ここに?」

そう言って、スカーレットにここに来た理由を聞く。

「はい!お父様が古の戦いに関する新たな古文書を手に入れたようで、ジーク様のお役に立てればと持参して参りました!」

スカーレットがカバンから古文書を取り出すと、

「ははは!役に立ったのは古文書ではなく、スカーレット君とワカクサ君だったな!!」

それを見たジークが笑う。

「しかし、よく気づいたわね?!」

ミランダがどうしてここで戦っていることに気づいたのか聞いた。

「サクラノへの道中で、山の麓の方からただならぬ気配を感じたものですから...」

スカーレットがそう口にすると、

「さすが、お嬢様です!...道を歩いていると突然、『何かイヤな予感がする』と仰って、走っていかれたのです!私は追いかけるのに必死でした...」

ワカクサがその時の状況を補足する。

「なかなかいい勘をしている!!...いい冒険者になりそうだな!!」

ジークがそう言って、スカーレットを褒めた。

「...恐縮です...ジーク様にそう言っていただけるなんて...」

スカーレットがはにかんでいると、

「ローズといい、スカーレットといい、有望な冒険者が次々、出てくるわね!!私もうかうかしてられないわ!!」

ミランダが真剣な顔になる。

「もう!ミランダさんったら...ところでローズたちはどこにいますの??別行動をしていたんですのよね?」

スカーレットが照れているのを誤魔化すように聞くと、

「ああ、ローズたちなら...」

ミランダが説明しようとした、ちょうどその時、

「あれ?スカーレットじゃない!!...それにジークさんと...ミランダさんたちも!!...どうしてここに?!」

山の上の方からローズの声が聞こえた。次いで、

「えっ!!みんないるの?!...良かった!...でも、手、離さないとね...」

「うん...」

マリーとローズの残念そうな声が皆のもとに届いた。


☆彡彡彡


皆が車座になりローズの説明を聞いている。

「そしてサタンは黒い穴に消えていったの...」

「そんなことが...」

ローズの説明が終わると、驚きのこもった声でジークが呟く。

「ええ!何とか、サタンを地獄に追い返すことができました!...地獄の扉は閉じて、そこから出てきた魔物はジークさんたちが全て倒してくれたんですね?!」

ローズが自慢げに答えると、

<ビシッ!!>

「痛!!」

ローズの頭にデコピンが決まる。

「全く!!死にそうになっておいてその態度はなんだ!!...『無敵の境地』に目覚めたから良かったようなものの...『すぐに逃げろ』と言っただろう...」

そう言ってジークが溜息を吐いた。

「...ごめんなさい...」

俯いて謝るローズに、

「わ、私が悪いんです!!ローズちゃんの足手まといになっちゃって...」

マリーが庇うが、

「ふう...」

一息つくとジークは二人に笑いかける。

「しかし、成長したな!!二人とも!...正直、サタンに勝てるとは思っていなかった...文献によるとその強さは常軌を逸する!私とミランダ君、二人でかかって五分五分だと思っていたくらいだ!!」

「...はい...」

「えへへ...」

決まり悪そうに照れ笑いするマリーとローズ。すると、

「その『無敵の境地』ってなんですの?わたくし、存じ上げませんが...よろしければ見せてもらえますかしら?」

スカーレットが『無敵の境地』に興味を持ったようで聞いてくる。

すると、ローズは、

「えっとね!相手を意識せずに全てをありのままに...」

そう言って立ち上がるが、戸惑った顔をしている。

「どうしましたの?」

スカーレットが不審に思い、尋ねるが、

「出来ない...」

「えっ?」

ローズの言葉にスカーレットがとぼけた声を出す。

「どうして?!サタンと戦った時は確かに...」

ローズの言葉を聞いたマリーも不安になったようで、

「えっ?!もしかして私も??...ワカクサちゃん!何か魔法使ってみて!」

ワカクサにそう頼む。

「ええ。構いませんが...ヒール!!」

ワカクサが回復魔法を使うが、

「...見えない!!なんで?!確かにサタンの魔力の流れは分かったのに...」

マリーも戸惑っている。その様子を見たジークは、

「ははは。そんな簡単にマスターできるものではないよ!!おそらく、二人の互いを想う気持ちが奇跡を起こしたんだろう...」

そう言って、苦笑いをした。

「そんな~~~~!!」

がっかりした様子にローズに、

「まあ、一度できれば後は時間の問題だ!!のんびりその時を待てばまた使えるようになるよ!!」

そうアドバイスしたジークだったが、

「くっ!くっ!」

ローズは何とかまた、その境地に入ろうとしている。

「やれやれ、無駄だというのに...」

ジークが呟いていると、

「ふふふ。本当にローズはまぐれが得意ね!!それも才能なんでしょうけど...さあ!サクラノに帰るわよ!!」

ミランダはまだ諦めきれない様子のローズを横目に、笑いながら立ち上がり、歩き始めるのだった。


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