Episode 4. オーガを隠そう
マリーがローズを追いかけること10分余り。
やっと追い付くと、
「これよ...」
ローズが目で大きな魔物の死体を見つめながらマリーに語りかけた。
「まさか...」
「そう、オーガよ...」
そこにはオーガの死体がうつ伏せに倒れていた。背中に大きな刀傷がある。
「これ、ローズちゃんが?!な、なんで?!スライムとゴブリン以外は減点対象だよ?!」
マリーが聞くと、ローズは説明を始めた。
「それが...大きなゴブリンの群れを掃討してたらコイツが出てきて...きっとゴブリンの親玉だったのね!」
「で、でもそれなら正当防衛じゃ...倒したくて倒したんじゃないんでしょ?!」
縋るような目のマリー。しかしローズは、
「そうなんだけど、逃げようとしたオーガについ、致命傷を与えちゃったのよね!背中に切り傷があるんじゃ言い逃れできない...」
そう言って俯いてしまう。
「じゃ、じゃあ、他の冒険者に手柄を譲ったら?お互い口裏を合わせたら...」
「それが...あたし、みんなに嫌われてるから...多分、ギルドに告げ口されちゃうわ!!それにオーガを一刀両断できるのは、あたしか今は遠征に出てるアリサさんくらいしかいないし...」
マリーの案は即座に却下されてしまった。
「そういえばローズちゃん、いくつものパーティに誘われてたのに、全部すぐにやめちゃったよね?!なんで?」
マリーが聞くと、
「だって、どこも新人だからって雑用、押し付けるんだもの!!そのくせ、あたしが大物倒しても、『余計なことするな』って...あたし、頭きちゃって...」
「それで喧嘩別れしたんだね...ローズちゃんらしいといえばらしいけど...」
ローズの返事にマリーが溜息を吐く。
「だから、何とかしてこの事実を無かったことにするしかないのよ!!手伝って!!」
ローズの言葉に、
「そんなの無理だよ!オークくらいならともかくこの巨体だよ!!隠すのも燃やすのもバラバラにもできない!!大人しく事情を説明して減点を最小限にしてもらおう!」
マリーは言うが、
「イヤよ!!その分、仮免卒業が遅れるじゃない!!それにあたしに考えがあるの!」
「ど、どうするの?!」
マリーはローズの考えとやらを聞いた。
「とりあえず、オーガの足元に人一人入れるくらいの穴を掘ってもらえるかしら?そしたら後はあたしが何とかするわ!!」
「何とかって...まあ、ローズちゃんならすごい技使うんだろうけど...でも結構大きな穴だよ!掘れるかな...」
ローズの案にマリーは不安になる。
「お願い!!あたしを助けて!!」
そう言って上目遣いで手を合わせるローズ。それを見たマリーは、
「もう...仕方ないなぁ...」
『イヤ』とは言えないのだった。
「じゃあ、よろしくね!あたしはその間、その辺で狩りしてくるわ!!」
ローズはそう言い残すと、一人魔物退治に出かけていった。
「人一人入れる穴...大変だよね...でもローズちゃんの為なら!!」
後に残されたマリーは一人気合を入れていた。
「さて、使えるものがあったかな...」
そう言いながら背負い袋の中身を確かめる。
「これしかない...」
あったのは薬草を掘る為のスコップだけだった。
<ザクッ!ザクッ!...>
「・・・」
無言で穴を掘り始めたマリーだったが、すぐに無理なことに気づく。
「これじゃ、一日かかっちゃうよ!!何か方法は...そうだ!!」
マリーは魔法を唱え始めた。
「『武器強化』!!」
するとスコップは大きなシャベルに姿を変えた。
「重い...」
穴を掘る道具はできたがマリーには扱えない。
「そうだ!...『筋力強化』!」
すると、シャベルを自在に扱えるようになる。
「よし!これなら!!」
マリーは一生懸命に穴を掘り始めた。
そして1時間後...
「できた...」
掘れたはいいがマリーは疲労困憊で倒れ込んでしまった。ちょうどその時、
「ゴメン!遅くなっちゃった!なかなか魔物が見つからなくて遠くまで行っちゃったわ!...ところでどう?穴は掘れてる?!」
ローズが走りながら帰ってきた。
「あっ!ローズちゃん!ちょうど今、掘れたとこ!これでいい?」
マリーは疲れた体を無理に起こすとローズに笑いかけた。
「うん!いい感じ!!ありがとう!マリー!!」
「えへへ...」
その言葉にマリーは疲れも忘れうれしくなってしまう。
「で、どうするの?」
ローズに聞くと、ローズは穴の中に飛び込んだ。
「こうするのよ!!」
そう言うと、剣を腰の位置に構える。
「んんん...」
ローズが体に力を溜めている。気が膨れ上がっていくような気配を感じる。
そしてローズの気が最大限に達しようとした時、
「ハッ!!」
ローズが目にも留まらぬスピードで剣を突き出した。
衝撃波かと思えるほどの凄まじい風圧が穴の先の土壌へと叩きつけられる。
続いてローズの剣が追い打ちをかけるように土に突き刺さった。
<ドガッ!!...ドドドドド...>
もともとあまり固い地層ではない土が吹き飛ばされる。
そして脆くなった土壌はオーガの体重を支えきれずに崩れ落ち、オーガを飲み込んでしまった。
「ふぅ...」
一息つくローズ。それを見ていたマリーは、
「すごい!!オーガが土に埋まっちゃった!!ローズちゃん、ホントにすごいよ!!」
ローズの大技に興奮しきりだった。
「よいしょ!」
穴から出てきたローズはマリーに言う。
「この穴、埋めといて!そしてオーガの埋まった地面も目立たないようにならしといて!」
「うん!!」
そう言うとまた、魔物退治に出かけていくのだった。
☆彡彡彡
その日の帰り道。
「今日はマリー、大活躍だったじゃない!!あれだけの穴を一人で開けて、後の土ならしも完璧で!!」
ローズがうれしそうにマリーに話しかける。
「そんなことないよ!ローズちゃんの技がなかったらオーガは隠せなかった...ギルドで助けてもらった時もそうだけど、本当にすごいね!!ローズちゃん!!」
マリーが尊敬の目でローズを見つめる。
「ま、まあ、それほどでもないけど!!でもパーティに誘った時、言ったでしょ!『冒険にはいろいろな役目がある』って!!」
ローズが満更でもない顔をする。ついでに苦し紛れに言った台詞を持ち出したのだが、
「やっぱりローズちゃんはすごい!!そこまで考えてたなんて!!...大変だったけど、私、ローズちゃんの力になれたんだよね!!それがとってもうれしいの!!」
そう言ってマリーは満面の笑顔を見せた。
(そう言われると多少の罪悪感が...)
ローズはチクリと胸が痛んだのを感じ、なんとか別の話題を探そうとする。そして口にした言葉が、
「あら?何かしらこのにおい...」
「!!!」
それを聞いたマリーが慌ててローズから離れた。
「どうしたの?マリー...」
赤くなって恥ずかしそうにしているマリーに、ローズが不思議そうな顔をすると、
「わ、わ、私、穴掘りでいっぱい汗かいて...ゴメンね...嫌な思いさせちゃったね...」
マリーは申し訳なさそうに俯いてしまった。
「ふふふ!」
それを聞いたローズが笑い出す。
「や、やっぱり女の子らしくないよね...嫌いになった?」
マリーが悲しそうな顔をする。
「そうじゃなくて!!...汗ならあたしもいっぱいかいてるわよ?マリーはそれであたしを嫌いになるの?」
ローズの問いに、
「そ、そんなことない!!ローズちゃんのだったらどんなにおいでも!!」
そこまで言って、マリーはいろんな意味に取れることに気づいて真っ赤になってしまった。
しかし、ローズは、
「そうでしょ!あたしも汗のにおいなんかで嫌いになったりしないわよ!!それに...あたしが感じたのは甘いいい香り...きっとその髪に挿した花のせいね!!」
そう言って笑った。
「あ!これ...」(ローズちゃんに気づいてもらいたかった...)
マリーは胸がポカポカしてくるのを感じる。
「もっと、嗅ぎたいわ!近くに寄って!」
「うん...」
そっとローズに寄り添うマリー。
ローズは花に顔を近づけると、
「とってもいいにおい!それに綺麗な花ね!マリーに似合ってるわ!!」
(私、幸せ...今日は大変だったけど、ローズちゃんとパーティになれて良かった!!この幸せがいつまでも続きますように!!)
マリーは目を閉じ、そっと頭をローズにあずけるのだった。