Episode 32. ローズの奮闘
時間は少し遡り、マリーたちとドラゴスケルトンとの戦いが始まった頃。
<ガン!!...ガン!!...>
屋敷の広い空間に硬質な音が響き渡る。
「くっ!!なんて硬いのかしら!!生身のドラゴンとは大違いね!!」
ローズはドラゴスケルトンになかなかダメージを与えられないでいた。
ローズの剣は基本的に技で『斬る』剣だ。
もちろん、大男顔負けのパワーもあるし、それを十二分に剣に伝える技術もある。
しかし、それはあくまで『斬る』為の原動力なのだ。
ドラゴスケルトンの骨はアダマンタイトに匹敵する硬さがある。
斬撃には滅法強い。
ただし、脆さという弱点があるのでハンマーなどの重量を活かして叩き潰す武器には弱いのだった。
「もう!!2、3回、斬りつければ割れると思ったけど...純粋に重さとパワーが必要なようね...ただ、この剣で力任せに叩きつけると...」
ローズの持っている剣は業物とはいえ、ミスリル。
それでも技でアダマンタイト並みの硬さにも対抗することができた。
しかし、純粋にパワーで叩きつけるとなると、どうしても素材の硬さが効いてくる。
ドラゴスケルトンを倒す前に大事な剣が折れてしまうだろう。
「重さ...」
その様子を壊れた木材でできた陰から見つめていたマリーが呟いた。
ローズの助言で巻き添えを食わないようにそこに隠れていたのだ。
マリーの身体能力ではドラゴスケルトンの動きに対応することは出来ない。
むしろ、攻撃対象になることでローズに余計な仕事を強いてしまう。
その為、心配ではあったが、ドラゴスケルトンに見つからないように息をひそめていた。
<ガン!!...ガン!!...>
それでもローズは攻撃の手を止めない。
ドラゴスケルトンの注意を自分一人に引きつける為、そしてきっと駆けつけてくれるであろうスカーレットたちを待つ為だった。
<ブン!!>
ローズの死角から勢いよく尻尾が叩きつけられる。しかし、
「ふん!こんなもの!!」
前のドラゴン戦で動き方の極意を習得したローズにとって躱すのは容易かった。
しかし、いくら攻撃を躱しても、ダメージを与えられなければ勝つことはできない。
アンデッドは疲労を知らない。いくらローズが優れた持久力を持っていても、いつかは根負けするだろう。
「私の魔法でどうにか出来ないかな?!ローズちゃんに重い武器を...」
マリーの頭にまず思い浮かぶのは、『武器強化』。
しかし、斬撃武器に武器強化を付与しても、切れ味が増すだけで、武器が重くなるわけではない。
それが普通だった。しかし、
(ちょっと待って!!前に私、スコップをシャベルに変えなかった??)
マリーはオーガを隠した時のことを思い出す。
(もし、あれと同じことが出来れば...ローズちゃんの武器は重く、大きくなる!!)
マリーは必死でその時に魔法を使った感覚を思い出す。
(確か...魔力をこう流して...それと、ドラゴン戦でローズちゃんにかけた武器強化との違いは...)
普通、魔法使いは魔力の流れを制御しているわけではない。
呪文を唱えれば勝手に魔法が発動するのだ。
魔力の制御は詠唱で無意識に行うもので、意識など出来るはずもなかった。
しかし、マリーは、
(あの時はこう...あの時は...こう!...違いは...)
冒険者学校時代に初級以外の魔法を使えるようになろうと、連日、練習した成果だろうか?魔力の流れを僅かだが意識することが出来た。
『エアボール』という、誰も使ったことがない魔法を初見で出せたのもそれが理由だろう。
(こうなって...こうだから...こう...こう!)
マリーは無意識に行っている魔力制御を必死で意識化しようとする。
(...だんだん分かってきた!切れ味を増すときはこう!そして巨大化するときは...こう!!!)
マリーはついに武器巨大化の魔力の流れに辿り着くことに成功した。
「武器強化!!」
マリーが呪文を詠唱する。すると、
「えっ!!」
ローズの武器が2倍以上に大きくなった。
「くっ!!」
あまりの重さにローズはバランスを崩す。
その隙を狙って、ドラゴスケルトンがその大きな足で踏みつぶそうとしてきた。しかし、
<バキ~~~~~ン!!>
硬質な何かが砕け散る音。
<ズシ~~~~~ン!!>
見ると、ドラゴスケルトンが前足の一つを失い、その場に倒れ込んでいた。
埃が舞い散り、一瞬、視界が失われる。
その埃が晴れた時、そこには重い大剣を斜め上に振り上げた姿のローズがいた。
「ありがとう!マリー!!これならいけるわ!!」
ローズが前足を失い動きづらそうなドラゴスケルトンに襲いかかる。
<バキン!!...バキン!!...バキン!!...>
その重さを活かして、どんどんとドラゴスケルトンの骨を叩き折っていく。そして、
「これで...終わり!!」
<バキ~~~~~ン!!>
ドラゴスケルトンが頭だけになった。すると、ローズはマリーの方を見て言う。
「これでマリーの浄化魔法でも浄化できるんじゃない??試してみて!!」
「うん!!」
マリーはローズの側に駆け寄り、魔法を唱えた。
「ピュアリファイ!!」
ドラゴスケルトンが光の粒子に変わり、天に召されていった。
「やった!!すごいよ!ローズちゃん!!私たち、ドラゴスケルトンを倒したんだよ!!」
マリーがローズに抱きつく。
「もう!!胸が当たるから無闇に抱きつくのは...」
ローズは赤くなるが、
「でもその気持ちは分かるわ!!アンデッド最強と言われるドラゴスケルトンだもの!!これであたしたちに倒せないアンデッドはいない!!」
そう言って、誇らしげな顔をする。
「さすがローズちゃん!!最強の冒険者になるんだもんね!!」
マリーがうれしそうに言うと、
「あら、マリーがいなければ倒せなかったわ!!いつもながら的確なサポートね!これからもずっと...」
「うん!!」
ローズの言葉にマリーは笑顔で頷くが、
(そういう訳にもいかないか...今はいいけどそのうちマリーは...)
ローズは将来のことを考えてちょっとブルーになるのだった。
そんなことを考えていたローズはふと、マリーがもじもじしているのに気づく。
(ん?何かしら...何かして欲しそうな...ん?そういえばさっき胸が当たった時の感触。やけにリアルだったような...まるで下着を...えっ!!)
そこまで考えてローズは驚きのあまり、マリーを見つめてしまう。すると、マリーは、
「ローズちゃん...」
消え入りそうな声でそう言う。そして、恥ずかしそうに頬を染めていた。
(な、な、な、なんでそんな事を!!じゃあ、あの防具の中身は...)
ローズは想像するだけで体が熱くなってしまった。
(お、お、お、落ち着きなさい!!あたし!!清純なマリーがそんなことするわけが!!...で、でも...い、一応、確かめた方がいいのかしら?)
パニックになりながらもローズはどうするべきか頭をフル回転させていた。
(そ、そ、そ、そうよ!!これはイヤらしい意味じゃないわ!!確認して、もし本当ならこんなことをしないように注意しないと!!マリーの純潔を守るのはあたしの義務なんだから!!)
ローズはやるべきことを決めたようだった。
「マ、マ、マリー!!」
「な、なに?!」
ローズの呼びかけにマリーが緊張した声で答える。
「そ、そ、その...ローブの裾を...捲ってもらってもいいかしら?」
(あ、あたし何言ってるのよ~~~~!!これじゃ変態じゃない!!)
ローズはそう言った自分に自己嫌悪を感じていたが、
「...うん...」
マリーは小さく答えると、自分のローブの裾を両手で掴む。
そして、そのまま...ゆっくりと持ち上げ始めた。
<ゴクッ!!>
ローズの喉が無意識に鳴る。
ふくらはぎから膝へ、そして太ももが徐々に露わになっていく。
それと同時にマリーの顔もどんどんと赤くなっていく。
そしてついに付け根に到達した時、マリーは一瞬、手を止めた。
どうやら心の準備をしているようだ。
それをローズはじっと待つ。
(いよいよマリーの可愛いのが...って下着よ!!きっとこっちははいてるに決まってるわ!!)
ローズはそう思いながらも、そこから目が離せない。
顔を近づけ、じっと見つめていると、マリーがギュッと目をつぶった。
覚悟を決めたようでローブの裾が上がる。
そして見えようかとした時、
「えっ!!」
後ろからスカーレットの声が聞こえた。