Episode 26. トロルロードとの戦い
「ここにトロルロードがいるのね!!入口に護衛が2匹か...」
ローズはトロルロードの屋敷の入口を覗き込みながら状況を確認していた。
「どうする?またエアボールで相手の気を引く?」
マリーが集落の入口で使ったのと同じ手を提案するが、
「ここまで来たら、真正面から行くわ!!もう相手に気づかれても大丈夫でしょ。手っ取り早くいくわよ!!」
そう言うと、ローズは堂々と屋敷の入口へと歩いていく。
「ギ?」
「ギギギ!!」
2匹のトロルはまだ状況が飲み込めていないようだったが、とりあえず侵入者を排除することにしたようだ。
2匹同時に襲いかかってくる。
「ギァァァ~~~~!!」
トロルたちは雄叫びと共に同時に2方向から棍棒を振り下ろす。
<ド~~~~~~ン!!>
ローズのいた地面に大きな穴が開いた。
「ギ?」
しかし、そこに死体がないのをトロルたちが不思議に思っていると、
「遅いわね...こっちよ!!」
トロルの後ろから声が聞こえた。
<ズバッ!!>
「ギャッ!」
鋭い斬撃音と共に、1匹のトロルが崩れ落ちた。
背中から袈裟懸けに斬られ、一撃で絶命したようだ。
<ズズ~~~~~ン!!!>
轟音と地震のような振動が響き渡る。
「ギッ?!」
もう1匹が後ろを振り向くが、そこにローズの姿はない。
「こっちよ!!」
また、背中から声が聞こえる。
<ズバッ!!>
「ギェェェ~~~~!!」
大きな悲鳴と共に、もう1匹も絶命した。
「さあ!もう侵入者に気づいてるはず!!逃げられる前に行くわよ!!」
「うん!!」
ローズとマリーはトロルロードの屋敷に突撃した。
「ギギ??」
屋敷の奥ではうずたかく積まれた藁のベッドの上で巨大なトロルがくつろいでいた。トロルロードだろう。
侵入者に気づいても特に動く様子はない。
「ギッ!」
トロルロードは傍に控えていた1匹のトロルに顎で指図する。
『侵入者を排除しろ!』と言っているようだ。
「ギギ...」
そのトロルはあまり乗り気ではないようだ。
訴えかけるような目でトロルロードを見ていたが、
<ド~~~~~~ン!!>
トロルロードが苛立たしげに、手で地面を殴りつける。
地面が大きく振動した。
「ギッ!!」
その様子に恐れをなしたのか、そのトロルはマリーたちに襲いかかってくる。
見れば、トロルとしては体のサイズが小さく、武器も持っていない。
どうやら、トロルロードのお世話係のようだった。
「ふう...可哀想だけど...」
その様子を見たローズが呟く。
「ギ~~~~!!」
両手を合わせて殴りかかってくるトロルに、
「こっちも仕事なのよね...」
そう言うと、ローズは避けようともせずに剣を横薙ぎに振るった。
<ズバッ!!>
「ギ...」
トロルはローズに触れることもできずにその場で息絶えた。
<ズズ~~~~~ン!!!>
轟音と共に藁や埃が舞い上がり、視界が一瞬、悪くなる。
視界が晴れた時には、トロルロードが立ち上がり、こちらを見下ろしていた。
「オマエラ、ナカナカヤルナ!」
トロルロードが片言の言葉をしゃべる。
「あら?人の言葉が分かるのかしら?」
ローズが恐れる様子もなく聞くと、
「オレヲホカノヤツトオナジニスルナ!カラダモアタマモベツモノダ!!」
トロルロードが苛立たしげにそう言った。
「なるほどね!トロルにしてはよくできた集落だと思ってたわ!頭の出来も規格外ってことね!!」
ローズが納得したように言う。
「ソウダ!オレハチガウ!!オマエモタオシテニンゲンモシハイシテヤル!!」
トロルロードはそう言うと、壁に掛けてあった鉄の金棒を手に取った。
「ふん!いくら出来が良くてもトロルはトロルよ!!かかってきなさい!!」
「グワ~~~~~!!!」
ローズの挑発に、トロルロードはその大きな金棒を振り下ろした。
<ズズ~~~~~ン!!!>
地震のような轟音と振動が屋敷を揺らす。
丸太を組んだだけの簡単な作りの為、ガタガタ揺れて今にも崩れそうだ。
「カタチモノコサズツブレタカ!」
トロルロードは地面に空いた穴を眺めているが、後ろから、声が聞こえた。
「ふぁぁ~~~~あ!遅すぎてあくびが出るわ!!...これを食らいなさい!!」
<ボボボッ!!>
ローズがそう言って、背中から剣を振るうが、音がおかしい。
いつもの鋭い切断音ではなく、まるで何かを潰しているような鈍い音だ。
「何これ?!」
ローズがその感触に顔を顰める。
「イタイ!!ナニヲスル!!」
トロルロードは痛そうな顔をするが、効いているようには見えない。
「くっ!脂肪が分厚くて、クッションになっているようね!!『斬撃に耐性がある』って聞いてたけどここまでとは...」
ローズは眉間に皺を寄せる。
「グワッ!!」
トロルロードが再び、金棒を振り下ろす。
「こんなもの!!」
ローズは簡単に避けるが、また、攻撃してもほとんどダメージを与えられないのは、火を見るより明らかだった。
「マリー!!武器を強化して!!」
ローズの指示に、マリーは魔法を唱える。
「武器強化」
ローズの剣が光り、切れ味が増した。
「せ~~~~~の!!」
ローズは全体重をのせて、脂肪の薄そうな肩へと斬りかかる。
「グギャ~~~~~!!!」
悲鳴を上げるトロルロード。
それなりのダメージは与えることが出来たようだった。
しかし、トロルロードの戦意が落ちた様子はない。
「まだね!!もう少し!!もう少し力が足りないわ!!」
ローズは考え込む。
「ゴメン...私のバフが弱いから...」
マリーが落ち込むが、
「いいえ!あたしのパワーがまだ足りないのよ!!達人ならトロルロードくらい一撃で倒せるはず!!気にしないで!!」
ローズはそう言う。
「でも...」
マリーが心配そうな顔をする。
そうは言っても、決定打がないのは事実だった。
その時、トロルロードの様子が変わった。
「カワイ~~~~~イ!!」
そう言いながら地面に這いつくばり、マリーの姿を眺め出す。
「キャッ!!」
マリーは思わず、胸を隠してしまう。
全身をジロジロ見られ、恥ずかしさで顔が赤くなる。
「ちょっと!!何してるのよ!!」
ローズが引き離そうとするが、トロルロードはビクともしない。
「チイサクテワカラナカッタガ、オマエカワイイナ!!オレノヨメニナレ!!」
そう言って、手を伸ばしてくる。
「キャ~~~~~~!!」
マリーは悲鳴を上げて逃げ出してしまった。
「ナゼニゲル!!マテ!!」
その後をトロルロードが追いかける。
それを見たローズは、
「...お前ごときが...」
ワナワナと肩を震わせながら、怒りを噛み殺していた。
「マリーに触るな~~~~!!!」
<ザン!!>
まるで噛み殺した怒りを一気に解放したような、強烈な一撃がトロルロードを襲う。
その威力は凄まじく、先程までとは比べ物にならない。
トロルロードの分厚い脂肪を貫通して、大ダメージを与えていた。
「ギャ~~~~~!!」
苦しそうな悲鳴を上げるトロルロード。
ダメージの大きさゆえか、地面に這いつくばっている。
ローズはトロルロードの上に乗ると、何度も斬りつける。
「マリーと話すな!!」
<ザン!!>
「マリーを見るな!!」
<ザン!!>
「大切なマリーを汚してみろ...」
ローズが剣を大きく振りかぶる。
「絶対に許さないからな~~~~!!!」
<ズバ~~~~ン!!>
「ウギャ~~~~~~~~!!!」
凄まじい斬撃音と共にトロルロードを深く深く傷つける。
それは致命傷となり、断末魔の叫び声と共にトロルロードは動かなくなった。