Episode 22. 特別な依頼
「やっぱり!!あの有名な『ドラゴンスレイヤー・ジーク』!!まさかうちのギルドマスターが...」
ローズがサクラノのマスターの正体に唖然とする。
「私もジークさんの伝説は知ってるよ!!そうだとしたらジークさんの強さも博識もその剣のことも全て納得がいく...」
マリーもローズの剣を見ながら、しみじみと言った。
ちなみに『古代竜』というのは千歳を超えたドラゴンのことで、恐ろしく強く、賢い。人語も理解するといわれている。
それを倒せるパーティは世界中を探しても、2、3組しか見つからないだろう。
それを19匹も倒したとなれば伝説になっても無理はない。
『ジークは古代竜を絶滅させた』とさえ、言われている。
「ん?『その剣』って...まさかそれ、ジークさんが若い頃に使ってた剣か?!ちょっと見せてくれよ!!」
シェナリーのマスターが食い気味にローズに頼む。
「い、いいけど...でもなんでそんなすごい人がサクラノなんかに?」
ローズが剣をマスターに渡しながら尋ねる。
「さあな!俺も詳しいことは知らねぇ...まあ、面倒な都会のギルドを嫌ったんじゃねぇのか?!俺も中央からの指示と現実との板挟みで胃が痛くなる毎日だよ!!」
そう言いながらマスターは豪快に笑った。
「そうは見えないけど...」
ローズが呆れて言うが、
「まあ、やってみりゃ分かるさ!!ホントに中央のヤツらの頭でっかちの現場知らずときたら...そのくせ口だけは達者ときてる!!」
しかめっ面でそう言うマスターだったが、ローズは興味がないようだった。
「ふ~~~ん」
適当に相槌を打っている。
しかし、マスターはもともと返事を期待していなかったのか、その間、ローズの渡した剣をしげしげと見ていた。
「こりゃすげぇ!!ミスリルの中じゃ最高峰じゃねぇのか?!俺も現役時代にこんな剣と出会いたかったよ!!」
そう言って、軽く剣を振ってみる。その様子を見ていたローズは、
「あなたじゃダメね!剣に振り回されてるわ!!」
そう言ってダメ出しをした。
「ローズちゃん!!」
マリーが慌ててローズをたしなめるが、
「ははは!!さすがジークさんの後を継ごうってヤツだ!!言うじゃねぇか!!」
マスターは気にしていないようで、そう言って楽しそうに笑った。そして、
「ほらよ!嬢ちゃんの言う通り、俺には過ぎた剣だ!大事にしな!!」
と言いながら剣をローズに返してきた。
「ありがと...」
ローズが少し気まずそうに剣を受け取ると、
「そうだ!!ジークさんのお気に入りの成長株にちょうどいい仕事がある!!受けてみねぇか?」
マスターがふと、何かを思いついたようだった。
「依頼内容を聞いてみないと...」
ローズが当たり前の返答をすると、
「そりゃそうだな!!おい!あれ、持ってこい!!」
マスターが奥の年配の受付嬢に話しかける。
「えっ!!もしかしてあの依頼ですか?!あれはミランダさんたちがここに寄ったときに頼む予定では...」
その受付嬢は戸惑っているようだったが、
「構わねぇよ!!ミランダには簡単すぎんだろ!!あれはこれからの有望株の為にあるような依頼だ!いいから持ってこい!!」
マスターの言葉にその受付嬢はしぶしぶ、棚の奥の方から一枚の依頼書を取り出した。
「なになに...『トロルロード』の討伐??」
それを見たマリーが首を傾げる。
「ああ、嬢ちゃんは知らねぇか!!『トロルロード』ってのはトロルの突然変異だ!普通のトロルの2倍以上の大きさになったものをそう呼んでる!」
マスターが丁寧に説明をしてくれる。
「えっっ!!トロルってあの巨大な魔物だよね!!それの2倍もあるの?!見上げるくらいの大きさじゃ...」
マリーは恐れをなしたようだが、
「ドラゴンに比べればどうってことないわよ!!面白そうじゃない!!」
ローズは気にした様子はない。むしろ興味を持ったようだ。依頼書の内容を読み始める。
「なになに。ここから3日ほど北に歩いた所にある丘にトロルロードが拠点を構えている...」
その内容は要約するとこうだ。
一か月ほど前、北の丘に建物や塀が出来ているのに気づいた冒険者がいた。
気になって調べてみると、中にはトロルの群れが暮らしており、他の魔物を奴隷としてこき使ったり、食料にしているようだった。
報告を聞いた冒険者ギルドが斥候を送ると、一番奥に、普通のトロルの3倍はありそうな、巨大なトロルが君臨しているのが発見された。
どうやら突然変異で発生した巨大なトロルロードが他のトロルを従え、集落のようなものを作って住んでいるようだ。
運の良いことにその辺りは人が寄り付かず、トロルたちも人里に下りてくる様子がないので、差し迫った危機はないようであった。
ただ、重大なリスクではあるので、強い冒険者パーティがシェナリーに立ち寄った際に、討伐を依頼することにしたとのことだ。
「えっ!!3倍もあるの?!ローズちゃん大丈夫??」
マリーがその大きさを知って、心配そうにローズを見つめるが、当のローズは、
「確かに図体はでかいみたいだけど、ドラゴンに比べたら可愛いものよ!!それに他にも十数匹のトロルがいるようね!!腕が鳴るわ!!」
逆に燃えてきたようだった。
「ははは!威勢がいいな!!ただ、トロルロードには気をつけろよ!!その分厚い脂肪で斬撃に強い耐性を持つ。嬢ちゃんのような剣士には天敵みてぇな魔物だ!!」
マスターがトロルロードについて注意点を述べてくれる。
「なるほどね...でもこれくらい倒せなきゃ、最強の冒険者になんてなれないわ!!苦手な相手でも倒してこそ本物!!いい訓練になるわ!!」
「こりゃ、頼もしい事だな!!頼んだぜ!!」
ローズの不敵な態度に、マスターはそう言うと楽しそうに笑った。
「じゃあ、明日の朝にでも発ちましょうか?」
ローズはマリーにそう言うと、ギルドを出ていこうとする。
そこに、若い女の声がかけられた。
「ちょっと待ちなさい!!なんでその依頼!わたくしに頼まないの?!」
マリーたちが振り向くと、二人の女の子が立っていた。
前に立つ女の子は、見るからに気品があり、身分の高い人物だと思われた。
ブロンドのストレートを腰まで伸ばした碧眼の美少女で、ローズほどではないが背が高い。
プロポーションもなかなかのもので、人目を引いた。
ローズと同じ剣士のようで腰に高価そうな剣を下げている。
防具は軽装で、これまたローズと同じ魔法のかかっているドレスのようだ。
色も同じく赤だが、淡く、オレンジに近い。少し落ち着いた印象を受ける。
だが一番の違いは、その裾は長く、足首近くまで伸びていることだ。
ローズのがワンピースだとすれば、この子のそれはフォーマルドレスを想像させた。
動きにくいとは思うが、上品さが求められる立場なのだろうか?
目につく装飾は、胸についた大きな透け感のあるリボンくらいだ。
しかし、生地が良い為か、清楚さと上品さ、そして多少の情熱を感じさせる魅力のある装備だった。
もう一人は、やや背の低い女の子で前の子に従うようなポジションを取っている。召使いだろうか。
薄い茶髪でボブカットにしているが、カールしていて可愛らしい。
体型は標準的だろうか。胸は控えめなようだ。
どうやら魔法使いのようでマリーと同じようにローブを纏っている。
おそらくこれも魔法がかかっているのだろう。薄い緑がかった白色で簡素な装飾だ。
どことなくヒーラー系のイメージを受ける。
白で汚れが目立ちそうだが、そこも何かの魔法がかかっているのかもしれない。
見たところ、汚れは見つからなかった。
「おや?シェナリー伯のお嬢様じゃねぇですかい。こりゃ参ったな...」
マスターは少し顔を顰めた。