Episode 19. 旅立ちの日
「可愛いね!新しい防具!!」
翌日、家を出る時に防具に着替えたローズにマリーが話しかける。
「マリーだって!!とっても素敵よ!!」
「ふふふ!」
ローズの言葉に思わず笑みがこぼれるマリー。
二人はこれからシェナリーに旅立つ。
シェナリーはこの辺りを統治している貴族の邸宅がある街で、この近辺では一番、大きな都市だ。
昨夜、いろいろ話し合った結果、シェナリーのギルドは規模も大きく、取り扱っている依頼も多岐にわたるということで選んだ。
ローズは知り合いには会いたくないようだったが、ギルドは孤児院から離れているし、そう会うこともないだろうということで、話がついた。
「とりあえず、お母さんには挨拶しとかないとね!」
マリーが言う。
「そうね!あたしは一人だからいいけど、マリーは家族には話しておくべきね!」
ローズも同意してくれているようだ。
「どうせ、毎日、帰ってくるのに...でも旅先とここの両方で姿を現すのはまずいよね...」
「そうね!転移石のことは絶対に秘密だから、旅に出てる間は外は出歩かない方がいいわね!」
転移石があるから気楽に旅に出られると思っていた二人だったが、秘密を守る為にはそうしないといけないことに気づいたのだった。
「じゃあ、行こっか!!」
マリーは転移石の片割れを家の玄関に置くと、鍵をかける。
二人はとりあえず、マリーの家に向かった。
☆彡彡彡
「本当に大丈夫?」
マリーの母親が心配する。
「大丈夫だよ!ローズちゃんもいるし、ちょくちょく帰ってくるから!!」
マリーが安心させるように言う。
「あなたがローズさんか!どえらい剣士だと聞いている。マリーをよろしく頼んだよ!」
マリーの父親がローズに頼み込んでいた。
「ええ!任せてください!!マリーさんの身はあたしが必ず守ります!!」
頼もしげに答えるローズ。
それに安心したのか、
「じゃあ、行ってらっしゃい!!帰ったら必ず寄るのよ!!」
そう言う母親に手を振りながら二人はマリーの家を後にした。
☆彡彡彡
そしてギルドでは、
「はい。これが二人の経歴証明書になります。封がしてあるので剥がれないようにお願いしますね!!」
ハンナがローズに経歴証明書を渡した。
これはギルドに所属するパーティのポイントやこなした依頼の経歴、違反履歴などが書かれている。
他のギルドに行くときはこの証明書が必須で、これがないとギルドで依頼を受けられない。
きちんと封蝋がされており、冒険者が中身を差し替えられないようにしてある。
剥がれてしまったら、もちろん無効になるのでとても大切な書類だ。
その為、冒険者は経歴証明書を武器や防具よりも大切にするという。
「あのマリーがシェナリーに行くとはね...寂しくなるけど、たまに戻ってくるのよ!!」
ハンナが名残惜しそうにマリーに話しかける。
「うん!しばらく会えないけどハンナも元気でね!!」
マリーの目に涙が浮かぶ。
「やだ、泣かないでよ!私まで泣けてくるじゃない!冒険者は笑顔で!!行ってらっしゃい!!」
ハンナは目をこすると、笑顔を作ってマリーに言った。
「うん!!またね!!」
「また!!」
マリーはハンナとの挨拶を済ませると、ローズとギルドを出ていくのだった。
ギルドを出た二人は、
「この経歴証明書、家に置いておこうか?」
「そうね!大事なものだし、それが一番確実ね!!」
そう言って一度、家に戻ることにした。
その道すがら、
「あ~~~あ!石の事、話してよければこんなお別れしなくて済むのに...」
マリーが残念そうに言う。
「仕方ないわよ!だって、こんな石、持ってることが知れたら、下手したら貴族や王様に取り上げられてもおかしくないわよ!!マスターだって叱責どころか罰を受けることになるかもしれないわ!!」
ローズが諭すと、
「そうだよね...せっかくマスターが気を利かせてくれたんだから、秘密は絶対に守らないと!!」
マリーは改めて事の重大さに気づき、気を引き締めるのだった。
そして、経歴証明書を家の机の引き出しにしまった二人は再び家を出て、街の門へと辿り着く。
「さあ!出発だね!!」
マリーが気合を入れる。
「ええ!あんまり実感ないけどね!!」
ローズがそう言って笑う。
「そうだね。重い荷物もないし、毎日、帰ってくるんだもんね!!これもあの石とマスターのおかげだね!!」
マリーも笑い返す。
「ええ!こんな快適な旅、初めてだわ!!さあ!行きましょう!!」
「うん!!」
ローズの掛け声と共に二人はシェナリーへの道を歩き出すのだった。
☆彡彡彡
旅は快適そのものだった。
普通はテントや様々な冒険道具。食料などを持ち運ばないといけないので、かなりの重量の荷物を運ぶことになる。
それが転移石のおかげで、武器とちょっとした小道具。それに水筒とわずかな食料くらいしか持ち歩かなくていい。
後は必要に応じて、取りに戻ればよいのだ。
時々、魔物に出会うが、ローズが難なく倒していた。
その際にマリーはというと、
(み、見えそう!!...やっぱり見えないか...でもローズちゃんの太もも綺麗...程よく引き締まっていて、それでいて女の子らしい柔らかみもあって...)
その目はドレスの裾に釘付けになっていた。
そして戦闘が終わると、
「ロ、ローズちゃん!!その...とっても...良かったよ...」
真っ赤になりながらマリーが言う。
「あんな雑魚、なんでもないわよ!!マリーも大袈裟ねぇ!!」
ローズが笑う。
(毎回、戦いの度にこんなドキドキした気持ちになるなんて...ローズちゃんにもお返ししてあげたいな!!)
マリーはその方法を考える。
(あ、あの時みたいに全部を見せてあげるのは...ダメ!!こんな人の通る可能性のある場所じゃ!!...ローズちゃんにだけ透けて見える服があったらいいのにな...)
マリーはそんな事を考えてしまう。
(そうだ!ローブを捲って下着を見せてあげたら...)
そう考えたマリーはローズの後をついて歩きながら、ローブをたくし上げていく。
下着が胸まで丸見えになった。マリーは恥ずかしさで真っ赤になってしまう。
(わ、私、こんな所でこんな格好!!こんなの見たらローズちゃん、どう思うかな?!...喜んでくれる??それとも...へ、変態だと思って軽蔑されるかも!!)
その時、ローズが振り向く気配を感じた。
マリーは慌てて服を直す。
「ん?マリー、どうしたの?そんなに慌てて...それに顔が赤いわよ?大丈夫?」
その様子を見たローズは心配そうにマリーに近づく。ローブを捲っていた件は気づかなかったようだった。
「な、な、なんでもないの!!『どうしたらローズちゃんが喜んでくれるかなぁ』って...」
そう言って、恥ずかしそうな顔をする。
「あっ!もしかして戦闘をあたし任せにしてるの気にしてるの?!そんなの気にしないでいいのに!!いい訓練になってるからいいのよ!」
ローズはそう言って安心させるように笑った。
しかし、マリーはそれで納得しなかったようだ。
「...なにか私にして欲しい事ある?なんでもいいよ!!」
とローズに聞いてくる。
「大丈夫!!その時はちゃんと言うから!!...お願いね!楽しみにしてるわよ!!」
「うん...頑張るね...」
ローズの言葉をどう取ったのか知らないが、マリーは頬を染めながらそう言った。
そして、昼も過ぎた頃、
「そろそろ休憩にしましょうか?ちょうどあそこに木陰があるわ!!」
ローズがマリーに話しかけた。