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Episode 16. 不思議な石

「まあ、見ていなさい!」

マスターはそう言うと、二つの石を少し距離の離れた場所に置く。

そして、一方の石のすぐそばに立つと、目をつむり、何かを念じた。すると、

「「えっ!」」

またマリーとローズの声が揃う。

それもそのはず、マスターはその瞬間に、もう一つの石のある場所に移動していたのだ。

マスターは石を拾うと、机に戻ってきて席に座る。そして、説明を始めた。

「この石は『転移石』と呼ばれていてね。今は失われた古代の文明で作られたもので、一方から一方へと、そばにいる者を移動させる力を持つ!」

「そんな物が...」

マリーは石の持っている力に驚く。

「これはあのドラゴンの死体の側で見つけたものだ」

マスターがそう言った瞬間、ローズが素っ頓狂な声を出す。

「マ、マスター!あの場にいたんですか?!」

とても慌てているようだ。マリーも隣で顔を赤くしている。

(ん?何か不都合なことでもあるのかな?...ああ、そうか。最初はドラゴンに歯が立たなかったから、恥ずかしいのだろう。ローズ君らしいな!)

そう思ったマスターは二人を見なかったことにする。

「ああ、あの後、気になって山の様子を見に行ったんだが、着いた時にはドラゴンの死体があるだけだった。ローズ君たちは帰った後だったんだろう...」

その言葉を聞いた二人は、

「そ、そうですか!!それならいいんです!!あたしたち、やましい事なんて何も!ねぇ!マリー!!」

「そ、そうです。あんなとこであんなことをするなんて...私、そんなはしたない女の子じゃありません!!」

そう熱弁している。

「『やましい』?『はしたない』?何のことだかよく分からないが、とにかく君たちは見ていないから安心していい!」

マスターは首を捻りながらもそう言った。

「と、と、とにかく、あの場にその石があったんですね!!」

マリーは慌てて話を戻した。

「ああ。君たちは『この街にドラゴンが現れた』という話を聞いたことがあるかい?」

マスターが問いかけてくる。

「いえ、初耳ですが...」

マリーが言うと、

「そうだろう!この街にドラゴンが現れた記録はない。なのに突然、ドラゴンがやってきた。私はおかしいと思ってたんだ!」

マスターがそう言うと、

「もしかしてその石!!」

ローズが何かに気づいたように言う。

「そうだ!私は念の為に一つだけ落ちていたその石のそばで転移するように願った。すると...」

「すると?」

マスターの言葉にマリーが相槌を打つと、

「そこは北の国境の近くの山脈にあるドラゴンの生息地だったんだ!」

「「!!」」

二人は驚きの事実に声を失う。

「いきなり、ドラゴンに囲まれた時は私も肝を冷やしたよ!」

そう笑いながら言うマスターに、

「...マスターって一体、何者なんですか...ドラゴンの群れに一人で立ち向かったり、古代の遺物について詳しかったり...」

ローズが聞くが、

「さてね。一人の老いぼれた元冒険者だよ...とにかくそんなことはどうでもいい。それでドラゴンが突然現れた原因が分かったわけだ!」

マスターは話をはぐらかすと、続きを話し出した。

「つまり、その対になっている石の一方がこの近くの山に、もう一方が北の山脈のドラゴンの生息地にあったと?」

ローズが聞くと、

「そうだ!それで偶然、好奇心旺盛な若いドラゴンが近くで転移するように願ったのだろう...」

マスターが話をまとめた。

「でも、なんでそんな貴重な石がそんなところに...」

マリーが疑問に思うが、

「それは分からない。大体、この石自体が古代の文明の産物なんだ。遺跡などで偶然、発見される以外に見つかることはない!」

マスターが言うと、

「へぇ~~!!そんな珍しいものが...すごい偶然ね!!」

ローズが感心している。

「まあ、そういう訳だ。是非、活用してやってくれ!」

そう言ってマスターが転移石を机の上に置いた。

「ちょっと待ってください!!そんな貴重なもの受け取れません!!...っていうか国家規模の財宝なんじゃ...」

マリーが慌てるが、

「だからだよ!偶然見つける以外に手に入れる方法はない!...それに私はこれは偶然じゃないと思っている...」

マスターの言葉に、

「偶然じゃない?」

マリーがそれとなく反復すると、

「突然、現れたドラゴン。それを周囲の予想に反して見事、倒した若き冒険者。そして、そこにあった奇跡的な古代の遺物...あまりにも出来すぎじゃないかね?!」

マスターはそう言う。

「た、確かに...」

マリーも認めざるを得ない。

「二人は神に祝福されているんだ。これからの時代の新たな英雄だと!!」

マスターが高らかにそう言うと、

「ふふふ...」

ローズが突然、笑い出した。

「どうしたの?ローズちゃん?」

マリーが不審に思い、聞くと、

「ゴメン。つい、おかしくて!!『神の祝福』?『新たな英雄』?そんなのどうだっていいわ!!」

ローズが馬鹿にしたように笑う。

「あたしはあたしの道を行く!!神様にだって邪魔させない!!そしてその石もあたしに使われる為にやってきたのよ!!」

そう言うと、ローズはマリーを見て続ける。

「マリー!!あなたの問題はこの石が解決してくれるわ!!一つをあの家に置いて、もう一つで旅先を行ったり来たりすれば、友達とも会えるし、毎日、お風呂にも入れる!!」

そして、机の上の転移石を握りしめて言った。

「マスター!この石はありがたくもらっておくわ!!行きましょう!!あたしたちの新たな未来に!!」

「ローズちゃん...うん...分かった!!私、ついていく!!...新たな未来...楽しみにしてるよ...」

マリーはなぜか、顔を赤くしながらそう答えたのだった。


「ははは!その感じいいね!まるで若い時の私を見ているようだ!!この石の事は秘密にしてある!十分、注意して有効に使ってくれたまえ!!」

マスターはローズの様子を見て楽しそうに笑った。

「「はい!!」」

二人が凛々しく答えると、

「分かっていると思うが、その石のことは誰に対しても秘密にすること!!それと転移の瞬間は絶対に見られてはいけない!!」

マスターがそう言って念を押す。

「そうだね...意外と難しいかも...」

マリーが心配そうに言うと、

「そうね。使うときは十分に周りの気配を察知する必要があるわね!!でも怖がってたら前に進めないわ!!慎重に、でも有効に使いましょ!!」

「うん!!」

ローズの言葉にマリーは覚悟を決めたようにハッキリと答えたのだった。


「それでは、早速、その石を使ってみたらどうだい?これからドラゴンの素材を回収しに行くのだろう?」

マスターが言うと、

「そっか!一つをギルドに、もう一つをドラゴンの近くに置いたら!!」

マリーがひらめくが、

「でも、どこに置くのよ?ドラゴンの近くは木々が茂ってるから何とかなるけど、ギルドは人の目があるでしょ?」

ローズにそう言われてしまう。

「そっか...」

マリーが残念そうな顔をするが、

「それなら問題ない!!使われていない予備の倉庫があるから、そこに置いて運び込むといい。後は私が誤魔化しておこう!」

マスターの言葉に、

「「ありがとうございます!!」」

二人は揃って、頭を下げたのだった。


「ああ、それともう一つ。その石は手に持って転移すると、石ごと持ち帰ることができる」

マスターが思い出したように言った。

「つまり、旅先に用事がなくなったら、石ごと一瞬で帰れるっていうこと?!」

「そういうことだ!」

ローズの問いに答えるマスター。するとマリーも、

「すっごく便利だね!!」

そう言って微笑むのだった。


そして、二人はマスターの案内で予備の倉庫に石の片割れを置くと、ドラゴンの死体のある山へと向かっていった。


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