Episode 12. ドラゴン退治
「えいっ!!」
ローズは一瞬で距離を詰めるとドラゴンの首に斬りかかる。
<ズバッ!!>
「よし!!」
ローズは手ごたえを感じるが、
「キシャ~~~~~~~~!!」
鋭い金切り声とともに、ドラゴンが翼をはばたかせる。
「くっ!!」
強烈な突風がローズを襲う。
その風圧にローズが耐えていると、ドラゴンの喉から何かが上がってきた。
「いけない!!ブレスが来るわ!!」
ローズは慌てて、横へと飛び退く。
<ゴォォォ~~~~!!!>
燃え盛る火炎がローズを追いかけるように襲ってきた。
「こんなもの!!」
ローズが身構えると、寸前でブレスが止まった。
どうやらギリギリで息が切れたようだった。
「さすがに強いわね!!あの刀傷じゃ効いてないみたいだわ!!それにやっぱりブレスは厄介ね!!マリーを巻き込まないようにしないと!!」
ローズがどう攻めるべきか考えていると、
「!!」
何かの気配を感じ咄嗟に飛び退く。
<ズン!!>
見るとさっきまでいた場所に大きな穴が開いていた。どうやら大きな足で踏みつけたらしい。
「危ない!!もうちょっと遅かったら...あの巨体でなんて速さなの!!」
ローズはギリギリ避けることができたが、ドラゴンのスピードに驚いていた。
「休んでるヒマはないわ!常に先手を取らないと!!」
ローズがドラゴン目がけ走り出すと、ドラゴンが体を回転させた。
「!!」
嫌な予感がしたローズは咄嗟にジャンプする。
すぐ下をドラゴンの尻尾が通り過ぎていった。
そして一回転したドラゴンの口は大きく膨らんでいた。
「ヤバい!!ブレスが来る!!」
空中で回避行動はとれない。
ローズがきたる灼熱に見構えていると、
「エアボール!!」
マリーの声と共に圧縮された空気がローズに当たった。
それは鋭利なものではない為、ローズを傷つけない。
強い風圧を感じたローズは、向こう側に押しやられた。
そのすぐ後ろを火炎が通り過ぎる。
「マリー!!ナイスよ!!」
着地したローズはマリーにウインクする。
ローズはなんとかドラゴンの攻撃を躱すことができた。
一方、マリーはというと、
「ヒール!!」
必死でローズのサポートをしているが、力・スピード・特殊能力など全てにおいてドラゴンが勝っている為、手の打ちようがなかった。
「どうしよう...このままじゃ、ローズちゃん、負けちゃう...せめて、攻撃を余裕で躱せれば反撃のチャンスもできるのに...」
そこでマリーは何かひらめいたようだった。
「そうだ!!私の魔法じゃ焼け石に水かもしれないけど、試して損はない!!」
そう言うと、ローズにバフをかけた。
「敏捷性強化!!」
「えっ?!」
ローズはマリーのバフを受けた後、自分の体に不思議な感覚を覚えていた。
敏捷性強化のバフを受けると、対象者は無意識に素早く動けるような体の使い方をするようになる。
普通は効果が切れるとそれで終わりなのだが、天才であるローズは違った。
その無意識の体の使い方の違いを認識し、更にそれを応用してより効率的な体の使い方をする。
(足を地面につく瞬間、体重移動はもっと上方を意識して!!)
すると、今までギリギリでしか躱せなかったブレスを余裕で躱すことができる。
(なるほど!体はこう使うのね!!)
ローズのスピードはバフとは無関係に飛躍的に上昇していた。
「えいっ!!」
「キシャ~~~~~!!」
ドラゴンの首に一撃を入れる。
さっきから全ての攻撃を同じ箇所に叩き込んでいるが、ドラゴンに消耗の様子はみられない。
「くっ!!なんて耐久力なの!!急所の首にこれだけ斬り込んでもまだ効果的な一撃にならない!!」
そうぼやいている間に、ドラゴンが尻尾を振り回す。
しかし、今のローズにとって、避けるのは難しい事ではない。
斜め後方に飛ぶと、その一撃を避ける。
ドラゴンがローズの行き先にブレスを吐くが、ローズは樹を足場にその攻撃を避けていた。
そして、パワー不足の対策を考える。
(そうだ!!パワーにも、スピードと同じことが出来るんじゃないかしら!)
そうひらめくと、マリーに叫んだ。
「筋力を強化してちょうだい!!」
「分かった!!」
それを聞いたマリーからバフが飛ぶ。
「筋力強化」
(きた!!力が強くなる感覚を感じ取って!!)
ローズはドラゴンに一撃を加える。
剣が当たる瞬間に、全ての集中力をもって、体の使い方の変化に注意する。
(!!もしかして、こう?!)
次の一撃はむしろ肩の力を抜く。
剣がその重さで勝手にスピードを増していく。
「いけっ!!」
当たる瞬間に、腹に力を入れると上体を折り曲げる。そして、てこの原理で全体重を剣にかけた。
「グギャ~~~~~~~!!!」
確かな手ごたえと、今までになかったドラゴンの苦しそうな声。
明らかに、ダメージを受けているのが分かった。
「よし!!いける!!もう一本!!」
ローズが、もがき反撃の余裕を失っているドラゴンに剣を振りかざす。同時に、
「武器強化!!」
マリーの声が聞こえる。それと同時にローズの剣が光る。
<ズバッ!!>
「いいわよ!剣の切れ味がアップしているわ!!」
ローズのパワーの強化と相まってドラゴンにかなりのダメージを与えることができた。
「グォォォ~~~~~~~~ン!!!」
ドラゴンがよろめいた。
倒れそうになるが、なんとか踏み堪える。
「よし!!次で決めるわよ!!」
ローズはドラゴンの体を駆け上がり、大きな切り傷のできた首に駆け寄る。
そして最後の一撃を加えようとした時に、ドラゴンが意外な行動に出た。
「キュイッ!!」
苦しそうな声を上げるとドラゴンの尻尾が横に薙ぎ払われる。
そこにいたのは...
「マリー!!」
ローズは叫ぶが、マリーの身体能力では回避は不可能だろう。
もちろん、防御できるだけの強力な魔法も使えない。
ドラゴンは頭がいい。今まで放置しても大丈夫だと思っていた雑魚が戦況に大きな影響を与えたのを見て、先に倒すことにしたのだろう。
「くっ!なら先に倒すのみ!!...いっけ~~~~!!!」
ローズはドラゴンの攻撃の前にとどめを刺そうと、渾身の一撃をドラゴンに加える。
「グギャ~~~~~~~~~!!!」
ドラゴンは息絶えたが一歩遅かった。
<ドン!!>
ドラゴンが倒れる寸前に、マリーの体が宙を舞う。
「マリー~~~~~~~~!!!」
ローズが叫ぶが、マリーは高く弾き飛ばされていた。
「くっ!!」
ローズがジャンプしてその体を受け止める。
<ザザザ~~~!!>
そして滑るようにして、衝撃を殺しながら着地した。
「マリー!!」
ローズは必死に呼びかけるが、マリーの目は閉じたままだ。
「マリー~~~~~~~~!!!」
ローズの目に涙が浮かぶ。
そして強く抱きしめた時、マリーの胸が上下に動いているのに気づいた。
その感触に少し照れながらも、
「マリー?!生きてるの?!」
そう言うと、口元に耳を近づける。呼吸が正常に行われていることが分かった。
次に手を取って脈を測る。正常の脈動だった。
「そういえば、顔にも服にも汚れがついてない...なんで?!」
不思議に思いながらも、ローズは緊張がほぐれたのか、へなへなと崩れ落ちた。
「どうやら、意識を失っているだけみたいね。そのうち目を覚ますと思うけど...」
そう言ってマリーの側で心配そうに様子を見守るのだった。