戦争後の平和な世界を舞台にした異能力ファンタジーラブコメ
世界は高慢と貧困に満ちていた。多くの先進国で生活する国民は幸せな生活をしてるが、また多くの発展途上国では国民たちは明日食べる物すら満足に確保することが難しい現状だった。そして、多くの発展途上国で生まれた先進国への小さな不満と劣等感は積もり積もってついに爆発した。発展途上国同士が連合を組み世界中の先進国へ宣戦布告をした。
その宣戦布告に対して先進国の多くは聞く耳を持たずその宣戦布告を無視していたがとある事件によって戦争がはじまり、世界は二分された。その事件を沈黙の森事件といい。先進国の国1つを一晩にして陥落させた。
そうして始まった戦争は500年続き、500年戦争として歴史に刻まれた。その戦争で日本は、先進国側の第一線として常に人々のうめき声と爆発の響く島となって居た。発展途上国が連合を組んだフィスリィ連邦は科学力では先進国に劣るが、自然の力を利用した魔術という古くから続く部族たちが受け継いだ力を利用し戦争を有利に進めていった。
しかし、それに対抗するように先進国も連合を組みアフェンディス世界政府という暫定政府が設立され先進国の持つ科学力を存分に発揮し、試験体と実験体と呼ばれる「新人類」が作られた。これにより、五百年戦争では戦力のほとんどが「新人類」と「魔術師」の戦いとなった。しかし、500年戦争は突如、2つの政府が休戦を宣言し500年戦争は終わりを迎えた。それからしばらくたった頃、500年戦争を経験したフィスリィ連邦とアフェンディス世界政府の元兵士たちの中に流れていたある噂がだんだんと世間を騒がせ都市伝説となった。その噂とは500年戦争を終わらせた一つの部隊についてのことだった。
「ふあぁぁ……眠みぃ」
まだ鮮明としない視界に目をこすりながら、歩きなれた通学路を歩く。数年前まで続いていた500年戦争の傷跡はまだ残っているが段々と世界は元の形へ戻っていっている。俺の通っているアフェンディス中央学院は500年戦争中に設立された元軍事学校だが今では当時の実力主義ぐらいしか風習は残ってはいない。学院で重要視されるのは学力と武力であり、言ってしまえば文武両道を行える人間が優秀とされている。AクラスからDクラスまで上から優秀な人間の集まるものとされている。残念と言うべきか俺はDクラス、何かしらが特別優秀な生徒たちのために作られた特設クラスとされているらしいが、そうだったらここまでクラスの人数が集まるわけがない。どうせ落第寸前の救済措置のクラスだろう徹夜明けの体に鞭を打つように学校の門に足を踏み込みかけたとき、後ろから大慌てで走ってくるような音がした。まだ全然遅刻の時間ではないというのにどうしたのだろうか、などとのんきなことを考えていた時後ろから聞き覚えのある声が聞こえた直後、背中に衝撃が走った。
「あーはーよーお!」
「グゥゥゥ⁉ 何しやがるセカイ!」
背中にトラックがぶつかったかのような錯覚を感じた。いつもなら大丈夫なのだが、なんせ今日は徹夜明けである。一晩座り続けた腰にこの衝撃はずいぶん響いた。しかもまだくっついている。
「おい、離れろよ」
「もちろん嫌だけど」
「お前重いんだけど」
「あ、女の子に言っちゃダメなこと言った。罰として私を教室まで連れていくこと」
そういいながらセカイは下を向いたまま腕にさらに力を加えてくる。俺は観念してセカイを4階まである教室まで引きずっていくことに決めた。
教室に着いたにもかかわらずセカイはまだ腰に抱き着いていたまま離れない。セカイに一声かけたが小さな声で唸っているだけで返事をしない。俺は構わず教室の扉を開けた。
「おはよう、志優……それは何?」
と、怪訝な目を俺の腰のほうに向ける。
「ああ、こいつはさっき校門で背中からタックル食らって」
と説明すると微妙な顔をしながら妙に納得したようにうなずいている。すると背中のほうでようやくセカイが動き出した。
「うう、足痛い……あ、託斗おはよ」
「うん、おはようセカイ。また、タックルしたんでしょ? いい加減にしないと奏さんに怒られるよ」
「大丈夫、大丈夫どうせばれないって」
にやけ顔で調子の乗った様子で話しているセカイだがその後ろでは、般若のオーラを全身から出している奏が立っていた。それに気付いた託斗はいつもの笑顔が張り付きだんだんと青ざめている。気配に鈍感なセカイもその異変には気付いたようで託斗に「どうした?」だとか「大丈夫?」と心配している。
「セ~カ~イ~またみんなに迷惑かけて! なにしてるの!」
突如、セカイの背後から大きな雷が落ちてきた。教室はこの声によって一度静寂が訪れた。教室中の生徒たちがこちらに注目する。しかし、奏はそのことを気にも留めずに続けようとした。しかし、その続きは一人の教師によって止められた。
「おい、日ノ宮廊下まで声が届いているぞ。静かにしろ」
奏は一瞬びっくりしたような表情をしたがすぐの表情に戻った。自分が頭に血が上りすぎたことが気付いたんだろう。奏は「すみません」と先生に一言伝えた後、おとなしく自分の席に戻った。ほかの生徒もぞろぞろと自分の席へ戻っていった。
「……よし、これよりホームルームを始める。早速で悪いが、転校生を紹介する。」
その一言で教室はどっと沸いた。学校では随分と珍しいことだからだろう。先生が「静かに」とその喧騒を消すように言ったことでざわめきはだいぶ収まってきた。
「まあ、向こうからの生徒だ。割と有名だからお前たちも知っているだろう」
そういって顔を廊下のほうに向け、「入れ」と一言告げると教室と廊下をつなぐ扉が開いた。そこからは、金髪ですらっとした体、まさに美少女を体現した少女が入ってきた。教室の男どもがガッツポーズをしながら男泣きをしている。女子のほうに声を傾けてみると、「嘘、あの子って」などの声が聞こえてくる。
「初めまして、といってもテレビなどで見た子がある人もいるかもしれませんね、セシリア・リューネイヤです」
その名前に俺は心当たりがあった。確か彼女は奇跡の聖女と言われていたはずだ。500年戦争中に多くの戦地へ幼いころから赴きそのすべての戦場に勝利をもたらしたという。終戦後は多くの被害にあった街や都市に赴き復興の手助けをしていたはずだ。
「私がこの学校に転校してきた理由は……その……」
セシリアは、全員の前でもじもじとしながら恥ずかしそうに頬を染める。その様子でまたクラスの男子どもがまた歓声を上げ、女子が男子たちを見て全力で引いているようだ。もちろん俺は、もっぱら大声で叫んでいる。そのおふざけを加速させるように大きな爆弾を落としに来た。
「わ、わたしはこの学校に運命の人を作りに来たんです!」