No.008 起動(Ⅱ)
「凛月、良かったら実際に動かしてみないか?」
「え、えぇ!?」
突然の提案に驚く凛月。
彼女としては、今日そこまでの事をするとは想定していなかったのだ。
「え、勝手に動かしていいの? なんか免許とか要るんじゃないの!?」
「免許はまぁ、要る場合がある」
「やっぱり!」
「けど、基本的には飛ばなきゃOKだよ」
正確には、エンジェノイドを特定の場所以外で飛行させるのには特別な講習を受けて免許を獲得しなければならない。
だが、歩行などの飛行に含まれない動作や地上百センチ以内での浮遊までならそのような縛りは無い、というのが正しい。
「まぁ、一回俺らも適当な動作確認したかったし。大丈夫だよなー?」
作業中の夢遊と冬治朗に確認を取るミナト。
それに対して二人は適当に手を振って答える。
「大丈夫だって」
「ほ、本当に? 私、操作の仕方わからないよ?」
「ダイジョブ、ダイジョブ」
妙に適当かつ胡散臭い笑顔を作ったミナトは、凛月の背中を押しながらゲーミングチェアの方まで移動する。
そしてすぐそばまで来ると、チェアに乗っていたヘッドギアを手に取った。
「はい、ここ座って」
ミナトはやや強引に凛月をゲーミングチェアに座らせ、冬治朗に少し話をする。
「ちょっと一旦動作確認しよう。中身はいけそう?」
「たーぶん、ちょっと動かすくらいなら全然大丈夫かと」
冬治朗との確認を終えたミナトは振り返り、機体を弄ってる夢遊に声をかける。
「おい、ちんちくりん!」
「誰が!!」
むきーっと言いたげな様子でばっと振り向く夢遊。
「凛月に稼働試験がてら試しに動かしてもらおうと思うけど大丈夫そうか?」
「ちょっとタンマ、あと五分で仕上げる!」
「了解。ならその間に簡単な説明を」
そう言いながらミナトは手元でくるっとヘッドギアを弄ぶ。
「さて、実はコレが所謂コントローラーだったりする」
「え、ヘルメットじゃないの?」
「乗らないって」
ミナトは笑って、目の前にちょこんと座る凛月に説明する。
「神経系補助動作システム、ようは一昔前に流行ったフルダイブゲームのシステムの発展系みたいなモノなんだ」
そう言って、彼はかぽっと凛月の頭にヘッドギアを被せる。
とうの彼女は困惑したような表情だ。
「あれ、もしかしてフルダイブって知らない?」
フルフルと頭ふる凛月。
マジかと一瞬驚くミナトだが、そういえばと彼女が以前までいた集落の様子を思い出す。
山の中にぽつんと切り抜かれた一帯に人が住み着いた様な山間集落で、人より鹿の数が多いとか。
更にこの現代でも幼少期に行った時はスマホが圏外だったような──?
「悪かった、そりゃ知らないわな」
「なんか突然失礼なコト思われた気がする」
「気のせいだろ」
こほんと咳払いをして、ミナトは説明を続行する。
「具体的な理論や仕組みを省いて説明するなら、自分の身体を動かすのと同じ感覚で機体を操作出来るシステムって感じかな」
脳から出てる信号を専用のヘッドギアが読み取って、思い通りにエンジェノイドを動かす。
この仕組みがあるからこそ、危険な災害救助活動に用いられ始めたと言っても過言ではない。
「このシステムのお陰で、複雑で細やかな操作も楽に出来る。ただ、実際の身体を動かす様にって部分は欠点もあるんだけどな」
「欠点?」
「要は自分の身体能力が動作にある程度直結するんだ。自分が出来る事しか操作できない。例えば、逆上がり出来ない奴はエンジェノイドでも逆上がり出来ないみたいな」
それが、神経系補助動作システムの長所兼欠点だった。
いくら身体が変わっても、中身は変わらない。
中身にソレを行う技量がなければ、機械の身体であっても出来ない。
だがそれは、生身で出来るのであればどんなことでも可能になるという汎用性の裏返しでもあるわけだが。
「おい、ムカつく後輩!」
「なんだ腹立つ先輩!」
「イケるZE☆」
彼が振り向くと整備を終えた夢遊が、機体から少し離れてサムズアップを送る。
ミナトもそれにサムズアップで返し、もう一度凛月に向き直った。
「案外コレに限っては、案ずるより産むが易しだ」
ミナトはさっとヘッドギア側面にあるスイッチにタッチする。
フォンという独特の起動音が、凛月の耳に入る。
「え、ま、まだ心の準備が!?」
「ダイジョブ、ダイジョブ」
「なんでわざと胡散臭い言い方するの!?」
そして、ワタワタする凛月自身の準備を置いてけぼりにしてシステムが起動する。
──鋼の巨人、その双眸に光が宿る。
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