No.007 起動(Ⅰ)
「取り敢えず、あたしたちは普通に作業進めてるから自由に見て回ってね。あ、浪岡は彼女に着いてガイド役しな?」
「──りょうかい」
まぁ、下手にうろちょろしてやばい物触らせても駄目だしなとミナトは納得する。
彼は凛月に向き直り、尋ねてみる。
「じゃあ、何か気になることとかある?」
「えーと、じゃあまずこのロボットって何?」
その発言で、まずはそこからかとミナトは思った。
この現代でこのロボットを知らない人間の方が少ない筈なのだけれど、彼女はその少数派に所属していたらしい。
山奥の集落で暮らしてたんだから、触れる機会もなかったのかもしれないとミナトは思った。
「前にも言ったかもしれないが、コイツはエンジェノイド。全長約三メートルの空を飛べる機能を持った人型ドローンだ」
そう言いながら、スマホを取り出して何かを検索し始めるミナト。
彼はスマホを操作しながらも、滔々と説明を続ける。
「一昔前に実用化された亜重力生成装置に神経系補助動作システムとかが組み込まれてる」
「亜重力せいせ、え?」
「亜重力生成装置、な」
ミナトはスマホから一枚の画像を画面に映して、隣の凛月に見せながら説明を続ける。
「機体の頭部にある装置で、作動するど頭上に擬似的な重力を生み出す力場を生成するんだよ」
彼の提示した画像は、どこからか拾ってきたわかりやすい図解であった。
機体の頭上に目に見えない小さな球体状の力場が作られ、そこから半径一メートル以内の空間に球体の方へ引っ張られるように擬似重力が発生しているのがわかる。
「これを使うことで、エンジェノイドの落下速度が非常に遅くなる。出力次第ではホバリングができるくらいにな」
そう言いながら画面をスワイプして、次の画像を見せる。
今度の画像は図解ではなく写真だった。
実際に稼働しているエンジェノイドの頭部の写真で、その頭上には天使の輪のような物体が浮いていた。
「え、何これ!?」
「亜重力証輪っていって、擬似重力が生成されると現れる光みたいなモノだな。これがエンジェノイドの由来になってるんだ」
彼の言う通り重力力場の中心になる球体は目には見えないが、その球体の外周に直径二十センチほどの輪が発生する。
ちなみにこの輪の正体については、未だ解明されていない。
「ちなみにコイツは競技用の機体だ」
ミナトの説明にへぇと感嘆を漏らす凛月。
「競技用ってことは、ほかにも種類があるの?」
「他だと災害救助に使われたりもしてるな」
単独で飛行し人体とほぼ同じ動作を無人遠隔で行うことが出来るエンジェノイドは競技以外だと災害現場での働きが主流であった。
「最近は消防や自衛隊に専用の部隊が設立されたりもしてるな」
そこまで聞いて、ある事に気が付いた凛月。
彼女は恐る恐るといった風に、ミナトに質問する。
「──兵器転用とか、されてたりする?」
「いや、それこそまさかだ」
そう言って彼女の考えを一笑に伏すミナト。
だが、ある意味では凛月の発想は最もと言えた。
目の前のエンジェノイドの外観は、機械の延長線上にある工業用ロボットというよりアニメに出てくる兵器としてのロボットに近いある種のヒロイックさがあった。
「これ一機作るより、ミサイル一発作る方が安いさ」
ようは費用対効果。
エンジェノイドは兵器として見るなら無駄が多すぎる。
人を殺す為だけなら人型である必要は無いし、人の代わりに戦わせるには高価すぎる。
ただ、彼女の着眼点は悪く無いとミナトは感じた。
何故なら、目の前にある競技用エンジェノイドは戦う為の存在だったからだ。
それはそうと、ミナトは話を再び戻す。
「それでコイツの操作方法なんだが、コントローラーを使うんじゃないんだ」
次に説明するのは亜重力生成装置と一緒に話した神経系補助動作システム──ようは操縦方法についてだ。
「じゃあ、乗るの? あ、でも乗る程のスペースが無さそう」
ちらっと目の前のエンジェノイドを見て、実際に搭乗して操作するタイプではないと推理する凛月。
首を傾げる凛月を見て、ふとミナトは口元に手を当てて数秒考え込む。
「凛月、良かったら実際に動かしてみないか?」
そう言ってミナトが指差した先にあったのは、このガレージにはにつかわしく無いゲーミングチェア。
そしてソコに置かれた謎のヘッドギアだった。




