No.004 ドロ研(Ⅰ)
ミナトと凛月。
二人が久々の再会を果たした翌日。
「──ってなコトが昨日あってな」
「へー、それは災難スね?」
昼休みのガレージには、二人の男子生徒の姿があった。
二人はガレージの隅にパイプ椅子を二脚寄せて座り、昼食を取っていた。
その一人はオレンジの帽子とスカーフがトレードマークであるミナト。
彼は膝の上に乗せたレジ袋から、今朝のうちに買っておいたコンビニの菓子パンを取り出して齧りつく。
そんなミナトの対面に座るのは、非常に大柄な男子生徒だ。
身長は190センチ超え、体重は100キロオーバーの全体的に丸いシルエットをした力士のような巨漢。
短く刈りそろえた髪もあって清潔感はあるものの、そこに居るだけで圧迫感のある男だった。
「なんかラブコメの導入みたいな事起こってますねぇ、パイセン」
「何がラブコメだ」
「テンプレだと七戸さんが負けヒロインッスかね?」
そんな緋菜が聞いたらブチキレそうなことを宣うこの男の名前は、今別冬治朗。
ミナトと同じ二年生でありながら彼を先輩と慕う、部活仲間である。
「僕としては、ドタバタラブコメみたいな展開を所望します。ほら、ヒロインも三人いますし」
「阿保吐かせ!」
しょうもない事をいう冬治朗に、ミナトは傍らに立てかけて置いた杖を取ってその先で軽くどつく。
しかしながらその程度の攻撃は冬治朗の肉鎧に阻まれて有効打にはならず、彼はヘラヘラ笑いながら特大のおにぎりを頬張っていた。
その様子を見て、こりゃ無駄だと悟ったミナトは再び食事を再会しようと口元に食べかけのパンを持って行こうとしてある事にふと気がつく。
「あ、いや待て三人って誰だ」
「はい?」
「お前、ヒロイン三人って言ってただろ」
先程までの話の流れ的に、三人の内二人は緋菜と凛月のことだろうとわかる。
だが、残り一人は一体誰のことを指しているのだろうか。
正直、ミナト自身には全く心当たりはなかった。
──これはつまり。
「え、まさか俺の知らない所でモテ期来てるのか!?」
「んな訳ないじゃないッスか、現実見て下さい」
ゲシゲシと無言で冬治朗を突くミナト。
「むしろパイセンはめっちゃ浮いてますよね」
「うぐっ」
「僕と七戸さん以外に、同学年の友達居ないじゃないッスか」
冬治朗の容赦ない言葉に、ミナトは胸を押さえて苦しみ出す。
「いやまぁ浮いて、浮いてな──浮いてるよなぁ」
ミナトら残念ながら彼の言葉を否定することがどうしてもできず、がっくりと項垂れる。
「俺だってなるべく仲良くしようとはしてたんだよ。けど大体みんな露骨に避けてくるじゃん」
彼自身は別にコミュニケーション能力に難があるタイプでも、性格が非常に悪いとかいう訳でもない。
確かに、ミナトがクラスや学年に馴染めてないのは周囲が彼を避けているからというのが最大の要因だった。
「仕方ないッスよ、これも有名税だと思いましょう」
項垂れるミナトの肩を軽く叩いて慰める冬治朗。
ここだけ見るなら良い友人にしか見えないのだが、続いて余計なことを言ってしまうのが彼の悪いところでもあった。
「ちなみに、最後のヒロインはワニ先輩ッス」
「けっ!」
「わぁ、露骨に嫌そう」
唐突に出たこの部活最後のメンバーの名前に、ミナトは瞬時に嫌そうな顔を示した。
「そもそもアイツには昨日の件も含めて言いたいことが山ほど──」
「はいどーん!」
両手をワナワナと振るわせて怒りを表現するミナトだがその瞬間、ガレージのドアが勢いよく開かれ、否蹴り飛ばされる。
突然の大きな音に、思わず小さく飛び跳ねる二人。
そんな彼らを他所に、蹴り開けられたドアから悠々と入ってくる小柄な人影が。
「あれ、いたんだオメェら」
そこにいたのは、両手に山ほどのお菓子を抱えた一人の中学生くらいの少女。
色素の薄いふわふわした髪と青みがかった瞳に童顔。
制服のブレザーは上着の代わりに派手なビビットカラーのパーカーを羽織り、腰元にはじゃらじゃらと大量のキーホルダーがぶら下がっている。
150センチにも満たない華奢で小柄な体躯は、まるで人形のよう。
しかしその表情や仕草、そして口調からはまるで可愛らしさを感じない。
そんな彼女を見たミナトは、露骨に顔面を歪める。
「あ、あんだミナトその顔は? 先輩に向かって失礼じゃねーのか、うん?」
非常に高い、それでいて舌足らずな幼い声色でまるで不良のような物言いをするこの少女。
「あ、ワニ先輩お疲れッス!」
その正体はこの部活唯一の三年生にして部長の大鰐夢遊であった。




