No.003 再会(Ⅲ)
空の色が少しずつ赤から濃紺、そして黒へと移り変わりそうな時間。
職員室に、ミナトと凛月の二人はいた。
「時間になっても現れないと思ったら」
背中で手を組んで棒立ちする二人に対してデスクに座ってまま腕組みをして向かい合う女性の姿が。
癖っけのある黒いショートヘアにパンツスタイルの黒のスーツを着た、比較的若い女性だ。
ただ、比較的若いということは可愛げがあることとイコールではない。
鋭い眼光に低い声色、そして座った状態でもわかる高い身長に明らかに格闘技経験者であることが伺える引き締まった体躯。
正直、かなり威圧感のある女性であった。
その彼女は大きなため息を吐き、嗜めるような口調で言葉を続ける。
「なんで部室で遊んでるのよ! 何のために貴方に犾森さんの件を任せたと思ってるの?」
その言葉に対し、非常にバツが悪そうな表情を浮かべるミナト。
実はあの後、ミナトによるちょっとした説教が続いていたのだ。
やれ、田舎と違って鍵が空いてるからって勝手にあちこち入るな。
高そうなモノやヤバそうな精密機械にベタベタ触ろうとするな。
まず、知らないモノには勝手に触るな。
──などなど。
そんな内容をくどくど説教をしていたのだが、案の定彼は本来の目的を忘れていた。
その結果がどうかというと、さっきまで説教してた人間が説教されているというこの場面である。
「や、あ、ごめん姉ちゃん」
「Shut UP!」
ミナトの言葉を女性が声を上げて遮る。
「学校では浪岡先生、もしくは真央先生と呼ぶように! 公私混同しない!」
女性──浪岡真央は、そう言って自身の弟であり生徒でもある瑛士を叱責した。
(いや、下の名前呼びは教師と生徒の間柄っぽくないというか、公私の公っぽくないというか)
「返事は!?」
「はい、申し訳ありません真央せんせー」
内心納得をしていない面はあるものの、反抗するメリットもないと取り敢えず表面上従う素振りを見せる。
何となくその内心も見透かしつつも、まぁいいかと本題を続ける。
「おかげで手続きに時間がかかるでしょ、私の残業時間を悪戯に増やしてからに!」
「それはホントにゴメン姉ちゃ──」
「いやわかってないだろがい!!」
とうとう落ちた特大の雷に、怒られた当人であるミナトのみならず隣の凛月も肩をビクッと振るわす。
──というか、職員室に残っていた他の教職員も少し怯えた。
一瞬で静まり返った室内の様子に、流石にやりすぎたと真央は感じてコホンとわざとらしい咳払いをする。
「あーもう、ちゃっちゃとやるぞ! 凛月は今から私と一緒に、ミナトは先に帰りな」
「は、はい」
「りょーかい」
ミナトはそれじゃ失礼しましたー、と気の抜けた挨拶をしてそそくさと職員室を出て行く。
そして閉まったドアの向こうから響くカツンカツンという杖の音が遠ざかるのを、何とは無しに見送った凛月。
「あ、えとまぉちゃ、じゃなくて真央先生」
「ん、何?」
デスクの上の書類を纏めている真央に凛月はさっきから気になっていたある事を聞いた。
「みーくん、足悪いんですか?」
瞬間、真央の手が止まる。
いや、手だけでなく呼吸も一瞬だけ止まっていた。
「前会った時は、杖なんてもってなかったから」
「──それ、アイツ自身には聞いた?」
「ううん、なんかこう言うの聞き辛くて」
真央からの確認を頭を振って否定する凛月を見て、彼女ふぅっと小さく息を吐き出した。
「アイツが悪いのは足じゃなくて──って、これは私が話すことじゃないな」
真央少し考えるように視線を遠く窓の外に漂わせる。
「確かにこんな事は聞き辛いだろうけど、機会を見て自分から聞きな? 今日からしばらく一緒に暮らすんだし、多分避けては通れない筈だし」
その返答に凛月は静かに頷く。
凛月の返答を確認した真央は、視線をデスクに戻して再び書類に手をつけ出した。
そんな彼女の準備が終わるまでの間に、凛月は少しだけ瞳を閉じて考える。
初めての集落を出ての暮らしに、間に合わなかった入学式とこれからの高校生活、そしてミナトのこと。
これから頑張らなきゃいけないことが山積みだと、凛月は小さく気合いをいれた。




