No.002 再会(Ⅱ)
「ち、近い近い近い近い!!」
三者三様で状況が飲み込めていない中、最初に行動を起こしたのは緋菜であった。
絡まり合い密着しあっている二人の元に、全力で走ってきた。
硬直したままのミナトと少女を力任せに強引にひっぺがす。
「ちょっと待ったアンタ誰よ何者よ!」
そして二人の間に身体ごと割り込むと、ミナトを庇うような姿勢で威嚇するように声をあげる。
ミナトはシャーとでもいいそうな彼女の雰囲気に、何となく蛇かなんかを幻視した。
「ひぃぃっ、あ、あのご、ごべ、ごべんばざい」
一方女の子は、可哀想なくらい狼狽えていた。
人間、基本的にどんな状況でも自分より狼狽えてたり動揺していたりする人間が近くにいると案外冷静になれたりするモノである。
それは、ミナトとて例外ではなかった。
他二人がわたわたしている分、冷静さを取り戻すことに成功した彼は首を動かしてさっと部室の様子を見る。
そして最後に、件の少女をよく見てみる。
野暮ったい苔色のジャージに暖簾のような前髪──というか全体的に癖毛で毛量過多な全く垢抜け無い感じなもっさい髪型。
かろうじてわかる顔の輪郭から多分本来は割りかし可愛らしい顔立ちをしていそうな感じがするなと、そこまで考えた時でミナトは「あっ」と声を上げた。
「え、何?」
突然声を上げたミナトを訝しげに見る緋菜。
そんな彼女を無視して、彼は少女に話しかける。
「もしかして、君は」
「もしかして、貴方は──」
そこまで言ったところで少女の方も「あっ!」と声を上げる。
「凛月?」
「みーくん!?」
「え、何知り合い?」
ほぼ同時にお互いにお互いの名前を言った二人に、驚いた緋菜。
実際、名前を言い合った二人自身も少し驚いた様子だった。
「ひ、久しぶりだ、ね?」
「だなー、前会ったのいつだっけ?」
「しょ、小学生の時だったかな」
懐かしいな、と朗らかに会話をする二人。
その様子を見て緋菜は二人の関係性──もとい少女の正体に感づく。
「ミナト、この子がもしかして」
「あぁ、そうだな」
こほんと咳払いをすると、彼は緋菜に向き直って少女のことを紹介する。
「この子の名前は、犾森凛月。さっき話てた親戚の子だよ」
「は、はづめま、はじめまし゛ッて!!」
緋菜に対してペコペコと頭を下げる少女──もとい凛月。
それに対して緋菜は、彼女の姿を上から下までじっと観察する。
視線を上下に二周くらい動かした後、最後にちらっと瑛士の顔を見た緋菜は満面の笑みを浮かべる。
「うん、はじめまして凛月ちゃん!」
緊張する凛月の手を取ってにこやかに挨拶する緋菜。
彼女の好意的なリアクションを受けて嬉しそうに凛月も手を握り返してぶんぶんと声にならない声を上げて頷く。
(あいつ今、絶対値踏みしただろ)
こんな子が一緒に暮らすのなら、まぁ許そう。
そんな緋菜の考えが見えた気がしたが、敢えて指摘はすまいとミナトは口をつぐんだ。
まぁ、それはそれとして。
「ところで、お前は何故ここに居たんだ? 校門のところで待ってる手筈だったろ」
そもそもの疑問はソコだ。
何故凛月は、このガレージに居たのか。
普段は鍵だってしている筈なのに。
「あ、えーとさっき着いたけどみーくん見当たらなくて」
凛月はバツが悪そうに両手を所在なさげに遊ばせながら、宙に視線を漂わせる。
「そしたら、その注目されちゃって居心地悪くて」
確かに見慣れない少女が校門前に突っ立ったままなら、下校中の生徒からの注目はあるのだろうとミナトは頷く。
「その、爺さまからみーくんが学校の倉庫でロボット?の何かをやってるって聞いてたから。で、校門からココが見えて、もしかしたらって」
「なるほど、ガレージに俺がいるかもと思ったんだな」
ミナトの問いに凛月はコクコクと頷く。
つまり、そもそもミナトが居眠りしなければよかった話だった。
その事実に、彼は少し渋い顔をする。
だが同時に、ミナトはここで一つ疑問を覚えた。
「いやでも、鍵かかってなかったか?」
対してふるふると黙って首を振る凛月。
思わずミナトの眉間に皺がよる。
「エンジェノイドがあるんだぜ? いつも鍵をちゃんと──」
そこまで言いかけて、彼はある事に気がつく。
倉庫の中が、妙に散らかってる。
工具やパーツ、食べかけの菓子に何かのゴミ。
そもそも彼はさっき暗闇で躓いたのだか、本来は積まずくようなモノは床に散らばってないのである。
扱うモノがモノだけにいつも自分から片付けを徹底しているなのに。
そこまで考えて、ミナトある可能性におもいいたった。
「──あンの、ちんちくりんがッ!」
片付けをしない、雑かつウッカリの常習犯のとある先輩の存在を思い出してミナトは思わず怨嗟の声をあげる。
同時に彼と同じ先輩の顔を思い出した緋菜も、あちゃーといった風に天を仰いで右手で顔を覆う。
「あー、ワニちゃん先輩か」
「次会ったらタダじゃおかねぇ」
「あ、え、で、ででも!」
鬼のような形相で物騒なことを言うミナトに、話題を逸らすように努めて明るい声色で話す凛月。
「す、すごいねこのロボット。カッコいいね!」
明らかに話題を逸らそうと、場を和ませようという意図がバレバレな話題を振る。
凛月自身も若干無理があるかな、逸らせられるか怪しいな、ぐらいに感じる無理矢理感。
だが、しかし。
「──だ」
「だ?」
「だろぉ!? カッケーだろウチの!!」
対するミナトの機嫌は、驚くほど良くなっていた。
パッと手を広げて先程からガレージに鎮座してあるこの場の主を示す。
その表情は先程までとは打って変わって、眩いばかりの無邪気な笑顔だ。
「コイツはな、エンジェノイドっつーんだよ」
彼の言葉に合わせて、凛月も改めてその機体を見上げる。
ガレージ中央に片膝を着いた状態で佇む鉛色の巨人。
人型ではあるが身体のパーツの大きさというか比率は、人体とは少し異なる。
手足は比較的華奢で、代わりに頭部は人体比率より少し大きめ。
目の様に配置してある二つのカメラアイとそれらを保護するバイザー状のパーツ。
背中には航空機を思わせる翼が畳まれた状態で生えており、腰の後ろには二機推進装置らしきモノが設置されている。
その姿は、紛れもなくロボット──それも空を飛ぶことを目的とした姿をしていた。
だが、その姿は胸部にある動力源らしき装置や機体四肢のフレーム、色取り取りの配線が剥き出しになった見るからに未完成といった風貌であった。
まるで死に体、もしくは骸骨とも言える様子ではあったが凛月の印象は少し違った。
「こんな凄いのが学校にあるなんて、都会は進んでるね!」
「「いやまぁ、ウチは都会でもないけど」」
即座に、そして同時にミナトと緋菜が否定する。
実際この高校周辺は街中に見えはするが、一歩郊外へ踏み出せは、そこには田畑や山々が広がった光景がある。
「え、でもギャルいるし」
「もしかしてギャルってウチのこと?」
「いつの時代の言葉だよ」
今日日聞かないワードが出て疑問符を浮かべる緋菜。
ギャルという言葉自体を知らないと思われる緋菜に、ミナトは一応フォローを入れる。
「ギャルって、なんかこう美少女的な意味の死語だよ」
「あ、そうなの? じゃあやったー!」
そのままハイタッチしようと手を上げる緋菜だが、凛月は多分意図を理解していないのか腕を変に上げようとしたりしていた。
なんか意外と緋菜と凛月は仲良くやれそうだとミナトはひっそりと胸を撫で下ろす。
二人が仲良くできそうで何より、ではあるが。
「まぁ、それはそれとしてだな」
ここでミナトは凛月の腕をがしっと掴む。
「ふぇ?」
突然の彼の行動に、間の抜けた声を漏らす凛月。
側から見ると少々乱暴にも見える行動を取ったミナトだか、その表情は笑顔だった。
──笑顔だったが、目は一切笑ってなかった。
「取り敢えず、勝手にガレージに入って俺の宝物であるエンジェノイドにベタベタ触ろうとしたよな?」
「あ、えっと」
「ソコはまぁ、ケジメつけないとなぁ?」
「──ひっ!」
静かな怒りを燃やすミナトの気迫に、凛月は怯えた声を上げた。




