No.017 県大会予選(Ⅲ)
『第五回W.G.P.U18県大会予選第一試合が開幕します』
地元テレビ局のアナウンサーによる開幕の挨拶が、凛月の元に届く。
会場中の視線が、海上カタパルトに並んだ凛月たち四機に注がれる。
『第一試合出場校の紹介をいたします』
そして凛月の最初の敵たちの紹介が始まった。
『一番、公立志田山高校、浦町千紘さん。搭乗機は、レオニーズ・ワン』
まず最初に紹介されたのは、滑走路一番左の機体だ。
スポーツカーを思わせる光沢のある青く曲線的な装甲に所々黄色や黒のラインが走ったかなり見た目にこだわりを感じる。
目につく武装としては左手にアサルトライフル、右手に幅が広いデザインの積層防盾。
メインスラスターは腰部に集中し、主翼はやや小型。
そのレオニーズ・ワンは紹介に合わせて、まるでアニメの主役機体のようなカッコいい射撃ポーズを取ってみせる。
操者は、なかなかにお調子者のようだ。
『二番、国立正海工業高等専門学校、桂木奏さん。搭乗機は、ブリッツ・ティーガー』
次に紹介されたのは、レオニーズ・ワンの横にいる機体。
先程のレオニーズ・ワンをスポーツカーと表するなら、彼の機体はさながら戦車だ。
深緑と土色の迷彩柄の角張った追加外装に背部にマウントされた六連ミサイルポッド、ロングレンジライフルを持ったミリタリー色の強い外観。
大型のスラスターを四つと追加のプロペラントタンクも増設されて、増加した重量を補う工夫がされてあった。
そして彼は紹介のアナウンスに対して何のリアクションも返さず、黙って前を向いたままだった。
レオニーズ・ワンと真逆の方向性を持った彼は、操者の性格も真逆だったらしい。
『三番、私立伊藤学園、諏訪沢織葉さん。搭乗機は、シグナルイエロー』
次に紹介されたのは、県大会の優勝候補の一角である伊藤学園の機体だった。
その機体は、危険信号というネーミングにぴたりと当てはまる攻撃性を全面に出した姿をしていた。
派手な黄色をメインカラーに、黒を差し色にしたその体色はスズメバチを連想させる。
武装は右手に大型のアサルトライフル、左手に流線形の積層防盾と、盾裏に二機の小型ミサイル。腰部にチャフグレネード、予備の弾倉。
背中に大型のスラスター、肩や両足にそれぞれ一対の副翼。
そのシグナルイエローの操者は軽くライフルの銃口を上に上げて、観客席に手を振るように見せた。
『四番、県立東第二高校、犾森凛月さん。搭乗機は、ガラテア:Re』
──そして最後に。
ドロ研の三人から"理想の彫像"という名前を新たに付けられた白と灰の機体の紹介がされる。
それに合わせて、凛月は観客席に向かって大きく手を振ってみせた。
エンジェノイドの操者となってまだ三ヶ月、公式戦はおろか飛行すら今日が初めてという初心者とは思えない程の緊張感の無さ。
彼女のその様子は、他の操者たちの目にはどう映ったのか。
──取るにたらない雑魚、記念受験感覚の馬鹿。
公式戦に未だ出場記録の無い高校と、その操者。
侮られない筈がなかった。
彼らは、凛月を眼中に入れることをやめた。
ライバルが実質他のブロックより減ったことを幸運だったと思うことにした。
『それでは──準備』
アナウンスと同時に、四機はそれぞれ亜重力生成装置を起動させる。
遠心力で何かが回転をする様な、徐々に速くなる耳鳴りの様な甲高い起動音が一瞬だけ凛月の耳に入る。
甲高い起動音は一定の速度に達した瞬間、パキリと氷が張る様な音に変化する。
その変化と同じタイミングで身体が浮き上がる感覚と、それぞれの機体頭上に青白い輪が──亜重力証輪が生成される。
「よし」
亜重力が無事生成され、機体に掛かる重力が軽減されたことを確認した凛月たちはそのままカタパルトでスタートに備える。
四機の目の前にホログラムスクリーンが展開され、大きく「10」の数字が提示される。
──テンカウントだ。
数字の進行と同時に、ようやく凛月にも僅かな緊張が訪れる。
数字が「0」になった瞬間、カタパルトから強制射出され試合が始まるのだ。
静かに、カウントの電子音のみが海上に響き渡る。
観客席も、そして操者たちにも緊張が張り詰める。
「ご、よん」
凛月は、はやる鼓動を抑えながら小さくカウントを呟く。
「さん」
スタートは、しくじれない。
「にい、いち──」
さぁ、ここから先は凛月だけの戦いだ。
「──ぜろ」
瞬間、ガラテアを乗せた装置の拘束が解かれ、加速。
彼女たち四機は、空へと投げ出された。




