No.015 県大会予選(Ⅱ)
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「──いやぁ、中々に過酷な日々だったなぁ」
目を閉じて、過酷な訓練の日々をしみじみと思い出すミナト。
しかし隣ではそのミナトを白々しい視線で穿つ緋菜の姿が。
「過酷だったのは凛月ちゃんでしょ、このいじめっ子どもめ」
「え、もしかしてアタシもいじめっ子に入ってる!?」
「当たり前でしょ」
「むしろ筆頭だろ」
「んだとぅ!?」
「ちょっと落ち着くッスよ」
バタバタと騒がしくなる控え室。
とても大事な試合前の空気とは思えないいつも通りの雰囲気だった。
だからこそ、緋菜には違和感があった。
「もしかして、みんな緊張してる?」
「「「───────。」」」
彼女の一言に一気に静まり返るドロ研一同。
案の定のリアクションに、緋菜はくすりと笑った。
「わかりやすっ」
それはそうだろうな、と緋菜は思う。
別に彼らドロ研はめちゃくちゃ薄情な連中とかではない。
むしろ、かなり身内贔屓で情に厚い人柄だ。
そして人情派でありながらそうであることを悟られるのを嫌がる照れ屋たちでもある。
素直じゃない一同の姿は、なかなか可愛らしく緋菜の瞳には映っていた。
「ま、あの子の初陣がいきなり県大会だからね──って撫でるな七戸!」
そっぽを向いてそんな事を言う夢遊の頭をよしよしと緋菜が撫でる。
そんな中、テーブルの上に置かれたミナトのスマホに着信が入る。
「噂をすれば、か」
彼はスマホを手に取らず、置いたまま着信に出て即座にスピーカーをONにする。
『も、もしもしみーくん?』
「おう」
「え、凛月ちゃん?」
そこから聞こえてきたのは、ここには居ない凛月の声。
「凛月ちゃんもう操縦してるんじゃないの?」
「してるさ。凛月、左上空のドローンに手を振ってみて」
『はーい』
するとスクリーンに映った白灰のエンジェノイドが、短機関銃をもったままカメラ目線で右手を振って見せた。
「専用のギアはネットに接続されてるから、まだこうやってコミュニケーションは取れるさ。でもこれが多分最後だろ?」
『うん、あと五分くらいでネットワークとの接続は遮断って言われた』
つまり、これがレースに出る前に凛月と言葉を交わせる最後の瞬間ということだった。
そんな彼女に、仲間たちが順番に声をかける。
「犾森さん、操作性は大丈夫ッスか? 違和感ないッスか?」
『だ、大丈夫です! 行けます!』
今別冬治朗は、仕事の確認をした。
せっかくの初飛行、初レースで自分の仕事ミスで凛月が負けたりした場合、顔向け出来ないと考えたからだ。
「犾森、機体壊さないようにな?」
『が、頑張ります』
大鰐夢遊は、彼女より機体の心配をした。
未だに以前の件を根に持っている──わけでもなかった。
「頑張らなくていいから。念願の初飛行なんだから、楽しんで」
『ッ! はい、大鰐先輩!』
「──凛月」
そして最後に、凛月がこのW.G.P.U18へ出場するキッカケにになったミナト。
彼は静かに、一言だけ彼女に伝えた。
「勝てるよ」
──そして、通信が切れる。
「ちょっとミナト」
緋菜は、彼を非難するように肘で突く。
「なんであんなプレッシャーかけるのよ! 始めての実戦なんだから、勝ち負けなんて」
勝ち負けなんてどうでもよくないか、と。
彼女には来年も、再来年もある。
だから今、勝つ必要はないから、と。
そんな意味が含まれた緋菜のセリフに、「ははっ」とミナトが軽く笑う。
──軽く、一笑に付す。
「お前は凛月のこと、全然わかってないさ」




