No.014 酷い訓練
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部活紹介会が終了し、放課後の喧騒がひと段落したこの日。
緋菜はいつも通りに、ドロ研に顔を出そうと校舎を出た。
彼女は先日助けてもらった事件の御礼も兼ねて、お菓子を用意して来ていた。
手作りのマフィンを沢山詰めた紙袋もるんるんと手の中で踊る。
「おーい、女神さまが会いにきた──」
そんな上機嫌でガレージのドアを開けた緋菜が見たモノは──。
「い〜や〜、たす、助けてぇぇぇええ!?」
「はっはっは! もっとだ、もっと回せ! もっと揺らせ!」
「ちょいや! ちょいや! もっと泣き叫んじゃえ犾森!」
縛られて宙吊りになった凛月と、彼女を回したり揺すったりして高笑いを上げてる幼馴染と先輩の姿だった。
「な、なにしとんじゃぁぁぁぁぁ!!!?」
緋菜は命の恩人が何故か拷問チックな事をされている様子に慌てて助けようと、下手人たちに飛びかかった。
「何してるんだ、二人とも?」
「「や、これには事情がありまして」」
二人の頭をぼかぼか叩いて緊急停止させて正座させた彼女は腕組みをして仁王立ちで睨みつける。
ミナトは若干気まずいそうに事情を話し始める。
「いや、これは訓練の一環でして」
「訓練? なんの?」
「空中での姿勢制御の訓練、です」
そう言ってぶら下がったままの凛月を示すミナト。
天井から縄で吊るされた凛月。
しかし、縄は腰を縛るのみで両手両足は拘束されていなかった。
「空中戦が主体のW.G.P.で多分一番難しいのは飛び方じゃくて、姿勢制御なんだよ」
言いながらミナトが立ち上がって、宙吊り状態の凛月を強く押し出す。
すると彼女はぐるぐる回りながらブランコの様に大きく揺れる。
「当たり前だけど、俺たちは普段地に足をつけて生活してる。だからこそ、足がつかない状況だと好きな方向を向く事すら難しくなる」
実際、揺られている凛月は「あ゛あ゛あ゛あ゛」と汚い声をあげるだけでされるがままになっていた。
「その状態で、向こうのホワイトボードに貼り付けた目印の方を向けるようになれば万々歳ッスね」
訓練の意図を補足したのは、デスクで我関せずと板チョコを齧っていた冬治朗。
ちなみに彼はデスクワークをしているように見えて、イヤホンつけてアニメ鑑賞してただけだったりする。
「手足やこう腰の動きで回転を止めたり、向きを変えたり出来るようになれば一人前だな」
身振り手振りでそう説明するミナトだが、そんな彼を見る緋菜の視線は冷たい。
「こんな拷問みたいなやり方しかないの?」
「ないわ!」
腰に手を当てて背筋を伸ばして、何故か自信満々に夢遊は声を上げた。
「何故ならアタシたちドロ研には!」
「ドロ研には?」
「「「予算が無いから」」」
「世知辛い!」
思わず反射的に返して、悲しみに両手で顔を覆う。
ぶらぶらと無慈悲に揺れる凛月の姿が、無駄に哀愁を誘った。
ミナトも気まずそうに頭を掻きながら答える。
「本当なら実機訓練が一番身に成るんだけど、エンジェノイドって飛ばすだけで許可取りも必要だし燃料費も掛かるし、あと場所も必要だから」
「正直無理ゲーッスよ、ただの公立高校にそのレベルのこと」
「だからこその代替案でコレよ」
再び凛月をぐるぐる回し始める夢遊。
本人は仕方なくとは言っているが、明らかにその表情は楽しげだ。
イジメに大義名分が出来て嬉しいって感じか。
というか、そろそろ凛月の顔色がヤバい。
「あ、あのホントにコレで強くなれるんだよねみーくん?」
「ダイジョブ、ダイジョブ」
「なんでこういう時いっつも胡散臭そうに言うの!?」
凛月の宙吊り訓練は、緋菜がいい加減にしろと止めるまでしばらく続いた。




