No.013 県大会予選(Ⅰ)
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──そしてその日は、遂にやってきた。
突き抜けるような蒼穹と吹き抜ける潮の香りが混じった涼風。
七月の激しい夏の日差しに気温も高いが、それ以上の熱気がその会場には集まっていた。
廃港を再利用した、県内唯一の海上施設。
海に向けて追加設営された座席には、大勢の人々が集まっている。
そしてそんな一般観客席でなく、関係者用という張り紙とテープで封鎖された通路に一人の少女がやってくる。
この場にはやや似つかわしくない、コンサバ系ファッションの少女だ。
彼女はその境界を跨いで渡ると、その先の通路をキョロキョロと周りを見渡しながら進んでいく。
そして、ある部屋を発見する。
「あ、ここだ」
丸いレンズのサングラスをずらして、探していた部屋の番号を再確認した彼女は小さくドアをノックする。
するとドアの向こうから足音が近づいてきて、バタリと開く。
「よっ、緋菜。迷わなかったか?」
部屋から彼女──緋菜を迎え入れたのはミナトだ。
彼女とは対照的にいつもの制服姿の彼の後ろにはドロ研の冬治朗と夢遊の姿もあった。
彼らの居る部屋、その正体は関係者用の控え室だ。
薄暗い簡素な待合室のような内装の控え室。
そこには内装に似つかわしく無い大型スクリーンが壁に立て掛けられており、専用のプロジェクターによって海上の試合会場が映し出されていた。
「上の客席じゃなくてよかったのか?」
「ん、こっちの方が冷房効いてるし。それにウチはあまり詳しくないから、解説役が欲しいじゃん?」
調子良くそんな事を言いながらも彼女はスマホのカメラを起動して写真を撮るフリをして見せる。
緋菜はドロ研の一員ではないが、今日来たのは別に友人枠という訳でもない。
「お前が次書く内容次第で来年変わるから、ちゃんと取材してくれよマスメディア部」
パンパンと両手を叩いて神頼みをするように彼女を拝むミナト。
幼馴染の殊勝なその姿に妙に照れ臭い気持ちになった緋菜は少し顔を逸らした。
「ま、まぁウチもさ流石にあの一件でゴシップは懲りたから、恩返しも兼ねて頑張るよ」
四月の植木鉢を落とされたあの事件。
その事件の真相は、緋菜にある不正を調べられていた女生徒が警告の為にやった事だったそうだ。
犯人であるその子は後に退学になったが、ゾッとするこの一件を期に緋菜も取材の方向性を転換しようとなったのであった。
入り口近くで二人がそんな会話をしていると、緋菜の存在に気がついた夢遊が「よっ!」と手を挙げる。
「七戸、今日はよろしくー」
「はいはーい、ワニ先輩もよろしくー」
パイプ椅子から立ち上がり夢遊が緋菜に駆け寄って、二人はハイタッチを交わす。
「あ、七戸さんココ空けます!」
冬治朗は彼女の到着で座っていた椅子から退く。
「サンキュー!」
「ヒロインの席はやはり主人公のとな──あ痛っ!」
「やっぱり殴るなら分厚い腹じゃなくて、頭だよな。頭は肉付かないからな」
変な事を口走りかけた冬治朗の頭を叩いてミナトは黙らせる。
そして椅子に座った緋菜はキョロキョロと周りを見渡し、一人ドロ研の一員が足りないのに気がつく。
「凛月はここじゃないの?」
「アイツは──」
彼はスクリーンを指差す。
そしてそのスクリーンには、外部の中継用のドローンによって一機のエンジェノイドが映し出されていた。
眩い白とそれを引き立てる灰色に塗り分けられた華奢なその機体の両手には、それぞれエンジェノイドサイズの短機関銃が握られている。
更に背中には一対の大型可変翼とメインスラスター、脚部と腰部には姿勢制御用のサブスラスターが増設されていた。
そして腰の両側に短機関銃の予備弾倉が幾つか装備されていた。
シルエットは鋭角的でかつての面影は薄いが、その機体はドロ研のガレージにあったあのエンジェノイドだった。
「──あそこだ」
その姿を見つめながら、彼はこれまでの事を思い返していた。
わかりにくいとは思いますが、章タイトルの四字熟語の元ネタは「近朱必赤(朱に交われば赤くなる)」です。




