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鋼翼蒼路のジュブナイル  作者: 宇奈木 ユラ
第一章 順風"不"帆のボーイミーツガール
11/20

No.010 起動(Ⅳ)

▽▲▽


「さて、ミナトたちは頑張っとるかなぁっと」


 少し鼻歌混じりに、機嫌良さそうに正面玄関を出る緋菜。

 手元のスマホで軽くSNSをチェックしながらミナトがいるであろうガレージの方へ歩き出そうとした時、彼女は異変に気がつく。

 なんか、妙に騒がしいような。

 この新入部員獲得の為に各部活がハッスルしているこの時期の放課後は、まぁ大体騒々しいのだけれど。

 どことなく、騒がしさの系統が違う。

 強いていうなら、悲鳴みたいな。

 

「うん?」


 何となくの違和感を感じた緋菜がふと顔を上げると──。




 ──昨日ガレージで見たばかりの巨大ロボが、緋菜に向かって全速力で走ってきていた。


「でぇええエッ!?」


 あまりに非現実的で非日常的な光景に、そしてその重量感からくる圧倒的な身の危険を前に緋菜が絶叫する。

 それはもう、自動車が自分めがけて突っ込んでくるのに等しい恐怖だ。

 そして残念なことに彼女はごく普通の少女であり、危機に対して冷静な対応が出来るタイプの人間ではない。

 事実、この瞬間に驚きと恐怖で脚がすくんでしまっていた。

 緋菜の視界が、まるで映画のようにスローモーションに映る。

 まるで死の間際の走馬灯のような瞬間。

 よく見ると爆走するロボの後ろに、慌ててソレを追いかけるミナトと夢遊の姿がある。

 二人の鬼気迫る表情が、ことの重大さを否応なく緋菜に伝えた。


(あ、ウチ死ぬのかな?)


 本気で死を覚悟する緋菜。


(でもここで死んだら、ミナト悲しむかな)


 緋菜がそんな事を思った次の瞬間、ミナトの叫び声が耳に入った。




「──緋菜ッ、()()!!」



 ミナトの放った叫びは、緋菜が想像していた台詞とはかけ離れた内容だった。

 緋菜は反射的に、ミナトの言葉通りに上を向く。

 彼女の視線が、今まさに自分の頭上に衝突する寸前の植木鉢を捉えて──。


 ──瞬間、地面を削りとるような大きな音が響く。


 両膝を地面に擦り付けるようにして、巨大なエンジェノイドが寸前で急に慣性を殺す。

 緋菜の目の前で急停止したその機体の両腕が、両手が。

 彼女に直撃する寸前だった植木鉢を掴み取っていた。

 周囲に沈黙が降りる。

 下校中にたまたまその場に居合わせた無関係の生徒たちも、走って追いついて来たミナトたちも、そして被害者になりかけた緋菜自身も。

 数秒、誰も言葉を発せなかった。

 だが、その沈黙はすぐに破られた。


「──お」


「「「「おぉぉおおお!!!?」」」」


 周囲の生徒たちから自然と拍手と歓声が巻き起こったのだ。


「あれドロ研の奴だろ? 動いてんの初めて見たわ!」


「いやカッコよ!」


「え、てかいやなんで鉢?」


「おい、アレ誰かいなかったか?」


「ちょっと校舎の中見てくるわ!」


 沸き立つ周囲の生徒たちはさておいて、息を切らしてミナトは緋菜に駆け寄る。


「だッ、だ、大丈夫か?」


「あ、あぁ、うんヘーキ」


 まだ少し上の空、といった様子で緋菜は話す。


「あ、あはははは、びっくりした」


「ホントな!?」


 ミナトは心の底からの安堵と共に、振り返って一仕事を終えた人騒がせな機体を見上げる。


「おま、お前、おまえぇぇえ!!」


 彼の剣幕にエンジェノイドがびくっと肩を震わせる。

 そしてさわたわたと挙動不審に頭や手を動かして、何かを弁明しているかのような動きを始める。

 その巨大さ、力強さに似つかわしくないまるで小動物のような、気弱な少女のような仕草であった。


「もしかして、コレ動かしてるの凛月ちゃん?」


 緋菜の言葉に、エンジェノイドはぶんぶんと首が取れかねない勢いで首肯する。


「体験入部の一環、みたいな感じで乗せてみたんだよ。シャッター開けて、ちょっとそと歩かせようとしたら突然走り出しやがって」


 額に手を当てて、安堵の溜息を吐くミナト。

 彼からしてみたら生きた心地はしなかったろう。


「まぁ、うん。緋菜を助けてくれたのはありがとう──と言いたいが、二度とこんな無茶苦茶やるなよ! 事故になったらどうするんだ!」


 ミナトの怒声にシュンと身を縮めるエンジェノイドもとい凛月。

 ちなみに先程から一言も言葉を発しないのは、エンジェノイド自体にスピーカーなどの発声装置がついていないからである。

 しかし、ここに来てようやくちゃんと冷静になれたミナトは状況を再確認する。

 凛月は、シャッターが開いた瞬間に遠くに緋菜を発見。

 そして、校舎の上階窓から緋菜目掛けて落とされる植木鉢を見て走り出した、と。

 止まる時は、わざと両膝を強く地面に擦り付けて接地面を増やして摩擦を強くして急停止をかける。


「改めて確認してみると、凄いな」


 状況把握能力に判断力、そして即座に行動に移せる反射神経。

 おまけに機転も効く。


「なぁ、凛月」


 そこまで考えて、ミナトは機体に──その中にいる凛月にこう提案した。


「エンジェノイドの操者として、俺たちとワルキューレグランプリ出て見ないか?」












 閑話休題(それはソレとして)


「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ! そ、装甲にダメージがッ! フレームに負荷がっ! 関節部に砂と雑草がぁぁぁぁぁ!!!?」


 ミナトがかなり重要な話をした側で、メカニックの夢遊は悲しみの慟哭を上げていた。

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