表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
927/987

第九百二十七話


 一塁側ベンチの古川がスコアブックを書きながら―――腕を組む中野監督に話す。


「向こうはナックルボールには手を出さない作戦みたいですね」


「朋也様のナックルボールの球数制限を知らないとはいえ、ナックルボールをあまり出すのは野手交代で指に響く」


「こっちの投手のローテーション作戦と状況が変わりましたしね」


 古川がスコアブックを書き終え、中野監督に顔を向ける。


「朋也様の先発としての登板は三回までと思ったが、ナックルボールの多様で早めの交代になるかもな」


 中野監督がそう返答して、ハインにサインを送る。


(ナカノ監督もオレと同じ考えか―――リードにナックルボールを三回が来る前に有効活用するしかないな―――)


 ハインがミットを上に上げて、中野監督のサインに応じる。

 マウンドの灰田がそのハインのサインに気付く。


(ナックルボールをガンガン使うか―――中野も俺にそれを使わせなきゃヤバい相手だってことか―――)


 灰田が汗を流して―――マウンドの地面に一滴落ちて、水滴が乾いてく。


「北鄭高校―――四番―――キャッチャー、辻内君―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 三塁側スタンドが四番専用の曲を流す。

 辻内が右打席に立つ。


「さて、先発投手の手の内はわかった。ナックルボーラーに見えるが、カーブもストレートの制球もネクストバッターサークルからだが―――」


 辻内が言葉の途中で構える。

 三塁側ベンチの石津監督がサインを送る。

 頷いた辻内がマウンドにいる灰田を見て、呟く。


「良い投手のようだな―――今年の兵庫の代表校なだけはある」


 そう言い終えて、マウンドの灰田を見る。

 ランナーの作島と浜渡がリードを小さく取っていく。

 ハインがサインを送る。

 頷いた灰田がクイックモーションで投げ込む。

 辻内がジッと観察する。


「だが、我々も―――」


 灰田の手からボールが離れる。

 辻内が呟く。


「去年と今年を合わせて、石川県代表校だ―――」


 回転せずに不規則にボールが揺れながら内角高めに飛んでいく。

 辻内がフルスイングする。

 バットの軸上にボールが当たる。

 カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ、


「去年の優勝校を―――侮るなよ!」


 言い終えて、バットをスイングし終える。

 打球はレフト方向に飛んでいく。

 レフトの錦が後方に走っていく。

 ランナーの浜渡と作島が走り出す。

 辻内がバットを捨てて、一塁へ走っていく。


「ニシキ先輩! ふたつだ!」


 ハインが声を上げる。


(トモヤのナックルボールを初見であんな高くまで打つとは!)


 ハインが冷や汗を流す。

 フェンス手前でボールが転がり、フェアになる。

 錦がすぐに追いついて、ボールを拾う。

 浜渡がホームベースを踏み上げ―――。

 北鄭高校に1点目が入る。

 錦が二塁へ送球する。

 弾丸のようにボールが飛んでいく。

 セカンドの陸雄が塁を踏んで捕球体制に入る。


「アウトになってたまるか!」


 作島が二塁へスライディングする。

 辻内がその間に一塁を蹴り上げる。

 その後に陸雄のグローブにボールが入る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 作島のスパイクが二塁に触れるのが僅かに早かった。

 陸雄の野手用のグローブが捕球の強い振動で震える。

 ランナーは作島が二塁、そして辻内が一塁のまま残る。

 三塁側ベンチの石津監督が考え込む。


(辻内はまだ力半分って感じね。今日はやや不調か―――後半に期待するしかないわね)


 陸雄が灰田に送球する。


「灰田! 1点だけくれてやれ。こっから先は抑えればこっちの攻撃で取り返せるって!」


 陸雄がそう言って、捕球した灰田を見る。

 灰田が無言で頷いて、キャッチャーボックスを見る。

 陸雄が灰田の背中を見て、考え込む。


(灰田が楽しそうにしてやがる。真剣ではあるが、投手特有の投げたいって気持ちが俺には解るぜ)


 陸雄がフッと笑って、構える。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ