第九百二十五話
「北鄭高校―――三番―――センター、作島君―――」
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
作島が右打席に立つ。
三塁側ベンチの石津監督がサインを送る。
作島が頷いて、マウンドの灰田を見る。
「灰田―――九州の同じリトルのチームから、こうして甲子園で打席勝負することになるとはな」
作島が嬉しそうに笑う。
マウンドの灰田も気持ちは同じだった―――。
「来い灰田! ガキの頃のように抑えるか―――打ち抜くか―――勝負しようぜ!」
作島が大声を出して、構える。
「俺が熱くなって殴った年上のあいつ―――高校野球で一番手強くて大きい選手になって帰ってきた。再会の挨拶はこの夢の舞台でボールとバットで交わしてやる!」
灰田もそう言って、闘志を燃やす。
冷静なハインが少し間を置いて―――サインを送る。
頷いた灰田が構える。
マウンドとバッターボックスの二人が集中する。
「いくぜ―――作島!」
灰田がクイックモーションで投げ込む。
作島がジッと観察する。
手からボールが離れる。
回転せずに不規則に揺れながら打者にボールが近づく。
「これが灰田のナックルボール! 手を出さないと二番打者の先輩に言われたけど―――」
作島が構えたままナックルボールを目で追う。
ボールが真ん中に揺れながら飛んでいく。
作島がスイングせずにボールが揺れながら通過する。
(トモヤのナックルボールを打てる位置に投げさせた。こっちのリードで犠打にして相手が打つと思ったが―――振らないか―――)
ハインのミットにボールが収まる。
「―――ストライク!」
球審が宣言する。
スコアボードに111キロの球速が表示される。
ハインが返球する。
灰田が捕球して、息を吐く。
「いい緊張感だぜ。作島と真剣勝負で打席対決が出来るんだ。もう二度とこんな機会はない」
灰田が汗を流して、そう呟く。
作島が嬉しさで笑顔を見せて、構え直す。
「俺は今こうして灰田と真剣勝負してるんだよな。一打席だけの勝負かもしれない。本気の勝負だ―――」
作島と灰田がそれぞれ構える。
ハインがサインを送る。
頷いた灰田がクイックモーションで投げ込む。
作島がジッと観察する。
手からボールが離れる。
回転せずに不規則に揺れながら打者にボールが近づく。
(また、ナックルボールか―――打てそうだが―――)
作島が見送る。
ボールが回転せずに不規則に揺れながら内角高めに飛んでいき―――。
ハインのミットにボールが収まる。
「―――ストライク!」
球審が宣言する。
スコアボードに107キロの球速が表示される。
(ツーストライクでも振ってこないか―――今ここでトモヤのナックルボールは多様出来ないな)
そう思ったハインが返球する。
灰田が捕球して、笑う。
「やっべぇなぁ―――チームプレイの野球なのに俺は今楽しくてしょうがないぜ」
そう呟いて、ハインのサインを灰田が待つ。
(後のことを考えるとこの打席ではトモヤのナックルボールは使えない―――ここは―――)
ハインがサインを送る。
頷いた灰田が構える。
作島が緊張と高揚で胸が高鳴り―――。
「さあ、勝負はここからだぜ! 灰田!」
嬉しさのあまり叫んで作島が構える。