第九百二十四話
打者が構え直す。
(相手の打者はカーブを狙っていたのか―――なら次は―――)
ボールを受け取ったハインが少し考え―――。
灰田に送球する。
ピッチンググローブで捕球した灰田がフッと息を吐く。
顔に汗が流れながらバッターボックスを真っ直ぐ見る。
ハインが座り込み―――。
打者が構える。
ハインがサインを送る。
(マジかよ? もうそこでそれ投げんのかよ? 解ったぜ、ハイン。お前のリード―――)
灰田が驚きつつも頷く。
ボールを握る手を変える。
(信じて投げるぜ―――!)
そのままクイックモーションで投げ込む。
手からボールが離れる。
回転せずに不規則に揺れながら打者にナックルボールが近づく。
「これは―――? ナックルボールだと! だが、打つ!」
打者が驚きつつもスイングする。
揺れるボールが真ん中より下の位置に飛んでき―――。
バットの軸上にボールが当たる。
カコンッと言う金属音と共にボールが高く浮き上がる。
浜渡が走らずに浮き上がるボールを見る。
センターの九衛が前進して、フライ体制に入る。
「点が取れる状況で初見だからと言って、振りすぎなのよ!」
三塁側ベンチの石津監督がそう言って、悔し気に握りこぶしを作る。
九衛がフライを処理する。
「―――アウト!」
主審が宣言する。
二番打者が悔し気に去っていく。
「まずはワンアウトだな。チンピラ野郎」
九衛が声援と演奏の中で聞き取れない声で灰田に送球する。
高く飛んだボールをマウンドの灰田が捕球する。
観客席の柊が安堵する。
「去年の甲子園の優勝校とまだ一回表とは言え、私たちの野球部健闘出来てる。勝てるかも!」
柊がそう言って、タオルで汗を拭く。
ネクストバッターサークルの作島が立ち上がる。
「灰田のやつ、ウチの先輩を進塁させないとは―――腕を上げやがったな」
作島がそう言って、二番打者と言葉を短く交わす。
「あのナックルボールは思ったよりも揺れが大きい。投げてきたら手を出さない方が作島の場合は良い―――浜渡を本塁まで帰してくれ」
「解ってますよ。先輩はあそこでカンカンになってる石津監督に上手く説明してきてくださいね」
二人のやり取りが終わり、作島が打席に移動する。