表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/987

第八十一話

「七番―――センター。灰田君―――」


 灰田が打席に立つ。


(中野のサインは? 一球待て―――か)


(こいつに遊び球は要らない。三球三振で仕留める!)


 横田が捕手のサインに首を振り、三度目のサインで頷く。

 そのまま投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 灰田が見送る。

 外角低めにボールが収まる。


「ストライク!」


 球審が宣言する。


(今のカットボールだったな―――なんとなくだが、球が右回転だった気がする) 


 感覚で理解した灰田が―――バットを構え直す。

 横田がサインに頷き、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。


(さっきと同じ気がする―――ここっ!)


 灰田が内角高めのカットボールをスイングする。

 カコンッという音とと共にボールが内野フライに上がる。

 灰田が打席で走らずに止まる。


「ああっ―――ショートフライかよ!」


 灰田の言葉と共にショートがボールを捕球する。


「アウト! チェンジ!」


 審判が宣言する。


「お前達、優勢だからと言って慢心するな。同点だと思って、守っていけ!」


「「はいっ!」」


 中野監督の言葉でメンバーがベンチからグラウンドに軽めに走る。



 五回裏。

 16対0の点差の中でコールドゲームが成立しうるやもしれないイニングになる。

 七番打者が打席に立つ。


(リクオがこのイニングで緊張しているかどうか―――調子を見るか)


 ハインがサインを送る。


(あいよ! じゃあ投げるぜ!)


 頷いた陸雄がボールを握り、セットポジションで投げ込む。 

 内角低めにボールが飛ぶ。

 打者がやや遅れたタイミングでスイングする。 

 球速113キロのチェンジアップが―――芯からややズレたバットに当たる。

 カキンッと言う金属音と共に、七番打者に打たれる。


「くっ! おっそ!」


 七番打者がぼやいた後に走り出す。

 陸雄がセカンド方向に飛ぶボールを取り損ねる。

 ボールは低めに飛び、転がる。


「初球打ち! やっべ! みんな頼む!」


 セカンドやや手前でボールがゴロになる。

 九衞がゴロになったボールを拾う。

 すぐさまファーストに中継する。

 そのまま投げられたボールを星川がグローブを構える。

 速球で打者が塁を踏む前に捕球する。


「アウト!」


 塁審が宣言する。

 七番打者が悔しそうに俯く。


「あっぶねぇ……ナイス九衞。星川君!」


「フッ、陸雄。締っていけよ」


 ショートの紫崎からエールが送られる。


「チェリー! また打たれてもサポートしてやるぞ!」 


 セカンドの九衞も続いて声を出す。


「陸雄君。ここから気を抜かずに練習通りにお願いします!」


 ファーストの星川の声でボールをキャッチする。


「おう! 援護ありがとう! あと二つ!」


 続いて八番打者が打席に立つ。


(まずは緩急を意識させる。ここだ!)


 ハインがサインを送る。


(よーし。コントロール第一っと―――!)


 頷いた陸雄が投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 八番打者がフルスイングする。

 バットがボールより、やや低い。

 121キロの外角高めのストレートがミットに収まる。


「ストライク!」


 球審が宣言する。

 ハインが返球する。

 グローブで受け取った陸雄はすぐに構える。


(リクオ。相手はまだ頭が回ってない。ここらでこいつを試す)


 ハインがサインを送る。


(いいねぇ~。俺もそれ投げたい気分だったぜ!)


 サインに頷くとボールの握りを変える。

 陸雄がセットポジションで投げ込む。

 弾丸のようにビュンッと音を立てる。


「は、早い!」


 八番打者が見逃す。

 内角低めのスライダーが入る。

 136キロの球速が記録される。


「ストライク!」


 球審が宣言する。

 ハインが返球する。

 グローブで受け取った陸雄はすぐに構える。


(リクオ。ここはさっきのよりも、わずかに球速だけ下げろ)


 ハインがサインを送る。


(あいよ。そういうことならそうするよ)


 陸雄がセットポジションで投げ込む。

 八番打者が振り遅れる。

 投げた先は同じコースより下―――内角低めのストレートだった。

 ボールがミットに収まる。

 相手の打者がそのミットを目を細めて見る。

 スコアボードに129キロが記録される。


(やっぱ三振は気持ち良いなぁ)


 陸雄がウキウキする中で、ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「九番―――ピッチャー横田君」


 横田が打席に立ち、陸雄を睨む。


(諦めたわけじゃない。俺は打者としてこいつに勝ちたい!)


 横田がバットを構える。

 ハインがチラリと見る。


(力が入っているな。なら最初は―――)


 ハインが陸雄にサインを送る。

 陸雄が頷き、ボールを握る。

 そしてセットポジションで投げ込む。

 横田が打者手前のボールをスイングする。

 ボールは右に落ちながら曲がっていく。

 

(早い! カーブ!?)


 空振りとミットの捕球音が響く。

 129キロの数字がスコアボードに表示される。


「ストライク!」


 球審が宣言する。

 ハインが陸雄に返球する。


(相手は投手だ。投手なら早い球にはそろそろ慣れてきているはずだ)


 ハインがサインを出す。


(わかったぜ。こういう場面って、少し不安になるから助かるリードだぜ)


 陸雄がセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 ボールは横田の打席前まで飛び続ける。


(早い球に違いない。俺は今この状況で目が慣れている! 今度こそ―――!)   


 横田はバットをやや下にスイングする。

 だがボールが遅い。 

 内角高めのチェンジアップをタイミングが合わずに空振りする。。

 球速はスコアボードに112キロと記録される。


(遅い球だった。タイミングがズレた!? 緩急付けやがって!)


「ストライク!」


 球審が宣言する。

 ハインが素早く返球する。

 陸雄がすぐに反応して、キャッチする。


(おっし! あと一球でゲームセットじゃん! どうするハイン?)


(リクオ―――このボールで決めろ)


 ハインがサインを出す。

 陸雄が元気よく頷く。


(行くぜハイン! これがラストの一球だ!)


 陸雄が一球入魂で投げ込む。

 セットポジションからの肩に力を入れた投球。

 矢のようにボールが飛び出る。

 

(―――早い!? クソッ! 当たれよ!)


 横田がバットをフルスイングする。

 バットはボールにかすめることなく空振りする。

 そして球速135キロの外角低めのストレートがミットに入る。


「ストライク! バッターアウト!」


 球審が宣言する。

 横田は三振で終える。


「終わった…………こんなにも早く夏への試合が―――」


 横田が膝を付く。

 汗と混じり合う涙が、自身の影で覆われた土に落ちていく。

 試合はここで終わりを迎えた。



「ゲームセット!」


 審判の高らかな声の元で試合が終わる。

 16対0。

 ワンサイドゲーム。

 大森高校野球部のコールド勝ちである。

 整列する中で、横田が涙ぐむ。


「君。早く整列しなさい」


 審判が横田に呼びかける。

 列の真ん中に立つ横田は涙を拭う。


「お前、岸田って言ったな?」


 横田が陸雄を見て、話す。


「あ、ああ―――」


「次は負けない! チームのキャプテンとして―――俺は、お前ら大森高校野球部を必ず越えてやる!」


「…………おうよ。名前覚えとくぜ―――横田」


 短いやり取りだったが、試合を続けた者同士の別れ文句だった。

 横田が列に交わる。


「「ありがとうございました!」」


 全員が一礼する。


「よ、横田…………」


 捕手が心配そうに横田に近づく。


「この負けは糧になるはずだ。来年は勝とう」


 横田がチームメイトに檄を飛ばして、整列する。


「「ありがとうございましたっ!」」


 両校が一礼する。

 陸雄達が観客席前に移動する。

 着いたと同時に、一同が帽子を脱いで一礼する。


「「応援―――ありがとうございました!」」


 観客から拍手が降り注ぐ。

 観客席にお礼を言った後に―――選手たちがベンチに戻っていく。


(まずは一つ…………待ってろ乾―――甲子園っ!)


 陸雄がグローブを見つめて、綺麗な飛行機雲の浮かぶ青空を見上げる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ