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第五十九話

 錦はこれまでの投手の投球をじっと観察していた。

 中野監督がサインを出す。

 ―――好きに打て。

 そのサインを見て―――バットを高く上げる。

 バットをじっと見て―――ゆっくりと構える。


(落ち着け! ただの上級生だ。四番だが―――難しいコースに投げよう)


 ボールを貰った横田が捕手のサインに首を振る。

 二度目のサインで頷く。

 迷わずに投球モーションに入る。


(外角低めだ―――届いても、一塁打がせいぜいだ!)


 投げ終えた横田が安心する。

 その安心が金属音と共に砕かれる。

 ―――錦はどんな球にも対応する。

 九衞が星川と紫崎に話した言葉は常識を破る。

 打球はセンター線に飛び、場外に消えていく。


「やりましたよ! 四点目ですよ!」


 ベンチの星川が喜ぶ。

 二年達が動揺していく。


「マジかよ……俺らの高校が一回表で四点?」


「しかもノーアウトだぜ? ほぼ一年相手とは言え、どうなってんだよ?」


 横田の顔が真っ青になる。


「おかしいよ。こんなのおかしいよ、なんなんだよ、こいつら……」


 悪い夢でも見ているようにスコアボードを横田は見つめる。

 錦はがランニングホームランをし、ホームベースを踏む。

 やがて三点の表記が四点になり―――それを見た横田が固まる。

 弱小野球部。

 横田が試合前にミーティングで説明された言葉は―――絶望の嘘に変貌していく。

 ネクストバッターの陸雄がバットを持って、歩いていく。


「お疲れ様です。錦先輩! 流石っすね! ベンチのやつら楽しそうに喜んでますよ」


 陸雄がベンチに目をやる。

 錦が見ると星川や九衞、松渡が手を振って喜んでいる。


「陸雄君。僕のことは良いから、これからは自分の打席に集中して―――」


「うっす!」


 陸雄が右打席のバッターボックスに立つ。


「よろしくお願いします!」


 大きな声を出して、一礼する。

 ベンチに戻っていく錦を見て、中野監督が驚く。


「なるほど、兵庫トップレベルの打者なだけはあるな。どうやら私はこれだけの選手たちを前に、甲子園に行けなければ無能監督の烙印を押されそうだな」


 ベンチに戻っていく錦と喜びで騒ぐ一年達を見て―――中野監督がニヤリとする。

 スコアブックを書く古川が、中野監督に顔を向ける。


「監督、大丈夫ですよ。ウチの上位打者は既に兵庫で最強を証明したようなものですから―――監督の采配はそれを生かせるし、優秀だと思ってます」


 古川の言葉で中野監督は大笑いする。


「はっはっは! 今はまだ温い方だ。風も強いし、雨も降っていない。私の采配など、この状態では並と言ったところだ」


 中野監督の笑い声で、一年達が注目する。

 打席に立った陸雄にサインを送る。

 きょとんとする星川に、松渡が肩を叩く。


「星川君~。ネクストバッターだよ~」


「あっ! はい! 行ってきます!」


 ウグイス嬢の放送と共に、星川はネクストバッターサークルに座る。


「五番―――ピッチャー岸田君」


(さーて、いよいよ俺の出番ですよっと! 綺麗に飛ばすぜー!)


 中野監督のサインを思い出す。


(流し打ち―――か。俺じゃ流石にホームランはキツイってことかな)


 バットをしっかりと構える。

 横田が厳しい表情をする。

 捕手がサインを出す。

 横田が頷く。


(まずはこいつを―――)

 

 足を上げて、投球モーションに入る。

 陸雄がジッと投手を見る。

 足を踏み込む。


(―――味わえ!)


 指先からボールが離れる。

 真ん中より高めにボールが飛ぶ。

 

(捉えた! ここだ)


 陸雄は即座にスイングする。

 芯に当てたと思ったが、ボール1つ分程度鋭く変化した。


(ん? 感触が微妙……)


 打ち終えた後にボールがレフト線に飛ぶ。


(まさか、あれがカットボールか?)


 気づいた時にはボールが飛んだ後だった。

 レフトが走っていくが、間に合わない。

 そのまま白線の外側にボールが落下する。


「ファール!」


 審判の声で陸雄がガックリする。


「あー、切れたかー。タイミング早かったかな?」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「ご来場の皆様はファールボールにご注意ください」


 ボールを貰った横田が息を整える。


(さて、意識させて振らせるか)


 捕手のサインを見て、首を振る。

 三度目のサインで頷く。

 横田が投球モーションに入る。

 素早く投げる。


(投球がちょっと早い―――投げたボールが俺に近いな―――)


「おっと!」


 陸雄がバットを振らずに見送る。


「ボール!」


 球審が宣言する。

 それは内角球のボール球だった。


(この流れは―――ハインに教わったケースの一つだな。なんとなく次のコースが読めたぜ)


 捕手が返球する。

 横田がグローブでキャッチした後に構える。




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