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第五十二話

「―――えっ? 紫崎の兄貴がいる高校?」


 驚く陸雄達に、紫崎は頷く。


「「へぇー!」」


 九衞以外の周りの一年が顔を合わせて驚く。

 ハインは知っていたのか、驚かずに―――その高校を分析するようにじっと見る。


「私、去年の試合見てたから解るよ。紫崎君のお兄さんは先発投手で、去年の県大会の決勝で完投したんだよ。去年の兵庫県の春と夏の甲子園連続出場校だよ」


 古川が視線を合わせて答える。


「去年の春と夏の甲子園出場校―――すげぇ!」


 陸雄が握りこぶしを作る。


「チェリー。そいつらとやり合える錦先輩もすげぇってこと忘れてないか?」


「九衞君―――僕はそんな大した選手じゃないよ。成長なら君たちが今後伸びていくと思う」


「謙遜はいらねぇっすよ、錦先輩。このバカチェリーが俺様と先輩の日々の練習の凄さを忘れてんっすよ」


(ケッ! 謙遜一つでもイラっと来るぜ。あんなインタビュー動画見てると余計にイライラするな。あんな練習すげぇのにプロの道を諦めやがって!)


 錦を見て、灰田が舌打ちする。

 錦はそれを知りながら―――知らないふりをする。


「それはそうとして~。周りの高校も僕らと同じくらい視線を感じるね~」


「ハジメ。こっちはシード校じゃないとはいえ、ニシキ先輩は注目されてる。兵庫県の全ての高校野球部がニシキ先輩を三振に抑えれば、甲子園でどんな打者にも自信がつくと思ってるからだろう」


「それならさ~。なおさらハインのリードで、僕ら投手陣も注目させたいねぇ~」


「ああっ―――甲子園行きの全国から選ばれた49校の一つになろうぜ! 兵庫県最強高校を証明しよう!」


 陸雄の言葉と共に、館内で放送が流れる。


「皆様、そろそろ抽選会を始めたいと思います。主将および選手の皆様は会場にお集まりください」


 館内の放送から、出入り口に各地の高校の選手たちがゾロゾロと入ってくる。


「リクオ。ツバキが説明した芝原咲高校の現キャプテンは―――甲子園で八番打者として活躍していた」


 ハインの隣に座った陸雄が興味深げに、その話題に載る。


「へー、ハインやけに詳しいじゃん。一年でレギュラーの甲子園経験ありか……羨ましい奴だな」


「それだけじゃない。お前にとっても驚くべき人物がキャプテンだ」


 ハインが前列の席に戻っていく一人の選手の横顔を指差す。

 陸雄がハインの指差した選手を見て、ハッとする。

 視界に映ったのは―――覚えのあるくせ毛の短髪の男だった。


「あれは―――乾っ!」


 声をあげた陸雄が席を立つ。

 その時に校内放送で歌が流れる。

 流れる歌は『栄冠は君に輝く』だった。


「おっ、高校野球始まったって感じだな!」


 灰田が楽しそうに席から身を乗り出す。

 乾の存在に、思わず席から立ち上がったまま冷や汗をかいた陸雄を―――ハインとは反対側の隣の席に座っている紫崎が肩をポンと叩く。


「フッ、陸雄。驚くのは解るが、落ち着けよ。高校野球は始まったばかりだぜ?」


「紫崎……乾がキャプテンだってこと知ってたのか?」


「ああ、兄貴も含めて同じ高校だってこと知ってたさ。俺と兄貴の対決―――そしてお前と乾との甲子園をかけた対決を俺は望んでいる」


「タカシのブラザーの事は、電車で本人から聞いていた。リクオ―――高校野球でジョウと当たるといいな」


 紫崎の下の名前を言うハインを見て、また座る。

 館内放送曲が流れ終わる。

 周りが押し黙り、独特の緊張感に包まれる。


(ああ、始まっちまったんだ。これが俺の人生初となる―――)


 自身が望んでいた高校野球がここに始まる。


「それではシード校と主将の方々は校名札と到着番号札を持って会場前にのクジを引きに来てください。各主将の方々は一列に並んでください」


 会場内の照明が当たった司会が説明すると、選手たちがマスコミのカメラのシャッター音の中―――ゾロゾロと階段を上り列を作る。

 今まで黙っていた駒島はグウスカといびきを立てて寝ていた。


「おい、キモデブ! 起きろよ!」


 灰田がユサユサと駒島の脂ぎった体をゆする。


「メンソーレ。徹夜でエロゲしてたから寝てるのサー。キャプテンは二次元以外興味ないから、他校のマネージャーに興味がないサー。あるワードを言えば起きるサー」


 各高校のマネージャーの盗撮を終えた大城がそんなことを話す。


「沖縄マントヒヒ! さっさとそれ言って、そのキモデブ起こせ!」


「…………」


 灰田の中傷にイラついたのか黙りこくる。

 大城は陰険な負独特の嫌な空気を作り出してくる。

 

「おい! コラ! 殺されたくなかったらさっさと起こせ!」


 九衞もキレ気味に怒鳴ると、大城は貧相な体をガタガタと震わせ―――妥協したかのように頷いた。


「メ、メンソーレ…………解ったサー。…………めーがねー! めーがねー委員長ー。乱れ乱れて風紀が荒ぶーる!」


「んっ? うん! どこにワシ好みのメガネ美少女委員長がおるのだ!」


 駒島が涎を垂らしながら、起き上がる。


「番号札持ってクジ引いてきて欲しいサー」


「うむっ! トレーディングカードでもガチャでも激レアを引ける―――ワシの豪運に期待するが良い!」


 そう言って、校名札と番号札を中野監督から受け取る。

 駒島はのんびりと欠伸をしながら―――アウェー感を出しつつ、会場の主将達の並んでいる列に並んだ。

 大城は挙動不審に周りをチラチラ見ている。


「どうした?」


 中野監督が駆け寄ると大城はビクッとして、スマホを隠そうとした。

 うっかり落として、松渡が拾う。


「あっ、これ盗撮じゃないか~」


「メンソーレ! あの他校のマネージャーのパンチラ動画を撮ったばかりだから、トイレで景気づけにオナニーしたいサー。ネットにも上げるから消さないでくれサー」


「このバカ者が! 試合の前に出場停止になったらどうする? 人としてもダメだぞ! 犯罪だからな! もうするなよ!」


 中野監督が大城を怒鳴る。

 会場内では静寂が求められるので、声を抑えて大城は怒鳴られた。


「じゃあ、松渡君。これから公式試合の相手が決まっていく大切な時間の中で、すっごく悪いんだけれど―――検問に引っかかりそうな画像と動画を全部消しておいてね」


 古川が大城を見て、嫌そうに話す。

 松渡がスマホを見て、頷く。


「はい~わかりました~。うわっ、凄いあるな~、数ギガくらいあるんだけど~。消すの時間かかりそうだな~。全部エロ関係なら機能使って、まとめて消そうかな~?」


「メ、メンソーレ! 後生サー!」


 全てのエロ画像が消されて、大城が死んだような目で放心状態になる。

 何もしゃべらなくなり、下を向いている。


(大切な時間なのに何やってんだか……)


 陸雄がため息をつく。



「大森高校―――」


 駒島がカメラの撮影人の横で、クジの箱に手を入れる。

 引いた番号を見せる。


「十五番―――大森高校、十五番!」



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