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第五十一話

 時は流れて―――県大会の始まる目の抽選会の日。

 陸雄達は制服姿で会場に集まっていた。

 各地の野球関係者とその選手たちが会場内に入っていく。


「うわぁ、これ全部兵庫の高校の野球選手だろ? 高校野球って、やっぱすげぇなぁ」


 陸雄が様々な高校生の球児達を見ながら感動する。


「フッ、甲子園に選ばれるのは一校だけだ。観光旅行じゃないんだぞ?」


 紫崎に突っ込まれ、陸雄は頭を切り替える。


「おおっ! そうだな。戦力は錦先輩と俺達一年だけなんだから、気合い入れて優勝しねぇとな!」


 陸雄の言葉に周りの他校の選手が反応する。


「おいっ! 一年だけだってよ! 一回戦で当たりてーなぁ」


「バッカ! あの制服は大森高校だぜ。ほら、例の―――」


 周りが錦を見る。


(錦だけ注目か―――俺らは一年は眼中に無しか……他県とは言えムカつくぜ)


 灰田がギロリと周りを見渡す。

 周りが珍しがって、大森高校を見る。


「おいっ、あいつ―――もしかして九衞じゃねぇか?」


「えっ? 中学野球の? マジで? なんで、錦がいるとはいえ大森高校なんかに?」


「錦と九衞か―――しかも、あの紫崎もいるぜ」


「マジかよ。今年の大森高校って持ってる奴らばっかだな―――今大会のダークホースになるかもな」


 九衞が周りの視線にフフンッと鼻を鳴らす。


「まぁ、俺様にビビる連中がいるとは思ったが―――どうやら予想以上に注目を浴びているようだな。がっはっはっはっ!」


「凄いですね。九衞君と錦先輩。それに紫崎君も有名なんですね! 松渡君も本来なら同じくらい有名なのに……」


 星川の言葉に、松渡は目を細めて答える。


「まー、埼玉と兵庫じゃ距離的にも注目度も低いからね~。マークされない分ありがたいよ~。和歌山の九衞の知名度は―――優勝投手がコメントしてたのもあって、凄まじいけどね~」


「あはは、例外はあるものなんですねー。無名の僕からしたら、羨ましい悩みですよー」


 一年達の会話の中に、脂ぎった老け顏の貧相な体の上級生が割って入る。


「いつまで無駄口を叩いている。今日はワシが直々に来てやったんだぞ。抽選会でクジを引けるのはワシだけだからな! つまりワシこそ大森高校の選ばれたキャプテンであり―――」


「……キャプテン。早く会場の席に座ってくれ。監督は既に会場内にいる」


 駒島の言葉をハインが遮り、駒島は舌打ちして先に会場に入っていく。


「あんなキモデブでもクジは引けるから使えるんだよな。つーか、本来なら錦先輩がキャプテンやりゃ、あいつら要らねーのにな」


 灰田が毒づくも陸雄はなだめる。


「大城……先輩と一緒に他校の選手のデータ全部集めてくれたんだから、大目にみようぜ」


 大森高校の主力メンバーが会場内に入っていく。



 抽選会が始まる前の会場内。

 席に座った制服姿の陸雄達に、スーツを着た中野監督が合流する。


「さて、相手校のデータを馬鹿二人が抑えてくれたおかげで、大まかに説明できるな」


「中野。俺とはじめんに九衞、当たり前だけどハインとかは兵庫県の野球の高校事情はよくわかんねーんだよ」


「そんな朋也様の為にも説明してやる。まずはあっちの席にいる学ランの集団を見ろ」


 古川が説明する。


「あそこは兵庫としては常連の伝統のある西晋高校(せいしんこうこう)野球部です。兵庫県内でもっとも長い間硬式野球部を続けています。監督も野球経験者が基本的に雇われています。兵庫県内の古豪の野球校とも呼ばれています」


「へー、兵庫にずっといるのに知らなかった」


 陸雄が関心する一方で、星川と紫崎が和む。


「陸雄君って、大物かもしれませんね」


「フッ、単に現場主義というか―――実戦で戦った相手にしか関心が湧かないだけだろう」


「なんだよー! 知らねぇもんは知らねぇんだから、別に良いじゃんか! 強い弱いなんてのは実際に試合して見なきゃわかんねぇだろ? あっ! 中野監督。向こうにいる高校は?」


 陸雄が前列のチェックの入ったブレーザーの集団に指をさす。

 はしゃぐ子供を落ち着かせるように、中野監督が答える。


「ここに来る前に私が監督をしていた兵庫県四強の一つ―――赤弐寺高校(あかにでらこうこう)だ。去年までの部員は八十人を超えていた」


「えっ! 兵庫四強! 滅茶苦茶強い高校じゃないですか! ってか中野監督って、やっぱ凄い人だったんだ!」


 陸雄が大人数の赤弐寺高校の生徒たちを見て、驚く。


「岸田。今まで私をなんだと思っていたんだ? 罰として帰りにグラウンド十週な」


「うっ……すいません。とほほ……うさぎ跳びじゃないだけマシか」


「兵庫四強なら私立の香月高校(かげつこうこう)も強いですよね。去年の県大会でもベスト4でしたし……」


 星川が左側の制服を着た集団を見て、話す。

 他県からの外国人選手である一年部員達が―――星川を事情通だと思ったのか、彼を一点に見る。


「星川。あっちのいかにも出来そうなオーラ放ってる高校はどこの高校だ? 俺様の野球シックスセンスにビンビン来るものがある」


 九衞が大人数の学生の一段を指差す。


「さすが九衞君ですね。昨年の甲子園出場校と決勝で戦った兵庫四強でもある―――麻衣已工業高校(まいのみこうこう)ですよ」


「ほう。道理で勝ちに貪欲そうな匂いがプンプンするぜ。ああいう決勝で負けた高校に限って、強くなっていくからな。俺様は一回戦であそこと当たりてぇな!」


「フッ、お前らしいな―――確かにあそこは強いぞ。俺もネット配信とテレビで二回見てたが、かなりやるぞ」


 紫崎の言葉に、九衞がフルフルと武者震いする。


「星川君は兵庫の野球の事なら、なんでも知ってるなー」


 陸雄が関心する。


「いや、お前の地元だろ……それくらい知っておけよ」


 灰田が呆れて突っ込むも、陸雄は「悪い悪い」っと軽く笑う。


「他にも偵察が男性お断りになっている―――スター選手のいる淳爛高等学校(じゅんらんこうとうがっこう)や、今年強力な外国人選手が入ったダークホースの私立の白石高校(しらいしこうこう)も今年注目されているよ」


 古川が視線をそれぞれの二校に目を合わせて、紹介する。


「古川先輩。俺らみたいな一年メインの高校とかないの?」」


 陸雄の質問に、古川はノートを開く。

 あるページに辿り着いた時に―――その質問に答える。


「それなら、今年から硬式になった一年生だけの新説野球部。高天原高校(たかまがはらこうこう)くらいかな?」


「ほ~ん。一回戦はそこと当たりてぇなぁ。高校の試合の感覚を掴みたいしさ!」


「まぁ、野球人生イージーモードのルーキーチェリーじゃ―――そのフレッシュなザッコイ高校で肩を温めていくしかねぇな」


 九衞の言葉で陸雄がムッとすると、サッとハインが抑える、


「よせ、陸雄。レンジはああいう性格だ。ズバズバ言えるやつがいるのは、現実味があって客観的に冷静になれる良い材料だ」


「ハイン、事実って……俺は今日まで練習試合無しで球速と制球力上がったろ? まずは楽な相手から確実に勝ってかねぇと―――だんだん強くなっていく相手の方が燃えるだろ?」


 普段あまり喋らない錦が、その言葉に落ち着いて話す。


「大丈夫だよ。決勝に上がっていく高校はどこも強い。それは揺るぎない事実だよ。普段の練習以外で試合と通して、得る物もあるんだ」


 その言葉に陸雄は驚いて、黙る。

 それは高校野球を一度経験した男の重い言葉だからこそ、真実味と現実味があった。

 練習試合と公式試合を合わせれば錦は数回しか試合をしていないが、今の陸雄達よりも経験があることは確かだった。


(錦先輩は練習試合でも強豪校と当たったことある人だ。そんな人が言うんだからすげぇんだろうな。そこで得る物ってなんだろう? 緊張などが麻痺して、慣れていくとかじゃなく―――きっと言葉に出来ない何かを得るんだろうな)


 そう考えていく中で―――陸雄が大人しくなり、座り込む。


「雑魚と当たりたいって言うチェリーは論外として―――俺としては兵庫四強を一発目からたいらげたいねぇ! チェリーが甘口お子様ランチと一回戦やりてぇなら、仕方ねぇけどな!」


「―――レンジも陸雄をあまり煽るな」


「あ? 金髪。てめぇ、いつから俺に対してそんな口の聞き方が……」


 不穏な空気になりそうだったので、坂崎が割って入る。


「ほ、星川君。あ、あの高校は? す、凄い人数多いし、みんな眼光が凄い! ちょ、ちょっと前に、高校野球のテレビで見たことある選手が気のせいかいるんだけど……」


 その言葉で九衞とハインはその高校を見る。

 そこからは、ただならぬオーラがあった。


「気のせいなんかじゃありませんよ……坂崎君。あそこは兵庫四強の中でも現在ずば抜けてトップに君臨している―――去年の優勝校の芝原咲高校(しばはらさきこうこう)です。テレビで見たのは、ネットでも配信されている決勝試合でしょう」


 星川が冷や汗をかいて、答える。


「そして、そこは―――俺の兄貴のいる高校だ―――」


 今まで押し黙っていた紫崎が口を開く。




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