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第四十五話

 メンバーが改札前に視線を合わせるとハインと紫崎が私服でやって来る。

 紫崎とハインが改札から出た所で、残りのメンバーが全て揃う。


「じゃあ、九衞―――紫崎と星川を頼んだぞ。俺はハインと坂崎を家まで案内すっからさ」


「まかせろチンピラ野郎。だが、その前に坂崎にミットとグローブ買ってこさせろよ。野球をするうえで大事な事だからな? 解ったか?」


「分かってるって、ハイン。来たばかりでなんだが―――坂崎にミットとグローブ買いに行くの付き合ってくれねぇか?」


「カイリのか? 解った。良いミットを選ばせてやる」


「じゃあ、九衞。俺らは買い物行くわ。スーパーにも寄った後で、家に泊まらせるから―――中野にメールで全員集まって移動したって、送っといてくれ」


「おおっ! じゃあ、メッセ送ったら―――紫崎と星川は俺様の家まで一直線で向かわせる」


 灰田達が手を振って、広間から離れていく。


(こいつ野球のこと除けば、こういう所は素直だな)


 灰田がふとそんなことに気付いて―――二人を連れてスポーツ店に向かう。

 九衞がスマホでコミュニティにメッセージを送ると、紫崎と星川を見る。


「よっし! じゃあ、二人とも俺様の家まで着いてこい。迷子になっても見捨てるので、そのつもりでな」


「わかりました。道覚えておきますね!」


「あっ! そうだ! 紫崎、後で俺様の家の近くのコンビニでアイス買って来いよ!」


「フッ、五日間のアイス代だけ、余りの金額も含めて今やるから自分で買って来い」


「紫崎―――お前、結構ドライだな」


 九衞達が雑談しながら、広間から離れていく。



 暗くなり始めたばかりの夜。

 普段なら練習終わりの時間だが―――合宿前日ということもあり、坂崎とハインは灰田のアパートに泊まっていた。

 新品のミットとグローブを買った坂崎は、新品特有の皮の良い匂いを堪能していた。


「し、新品のグローブとミットって、いい匂い……こ、これからずっと相棒なんだよね? な、なんか良いなぁ……ジーンとくる」


 一方、ハインと灰田は寝巻のジャージに着替えて、夕食の準備をしていた。

 スーパーで買った袋を見て、灰田がハインに呆れる。


「ハイン。お前、スーパーでお菓子と揚げ物買い過ぎだぞ。どんだけメンチカツやコロッケと海老天ぷら―――それにチョコレートにオレオが好きなんだよ? 1500円くらい突破してたろうが! お菓子代削って、節約しろよな」


「ソーリー。二ホンのスーパーは久しぶりだったから、な。ところでトモヤ―――この炊飯器っというのは、米を入れた後に水をどれぐらい入れれば良いんだ?」


「そこにある湯沸かし器に入っている沸騰して冷えた水を、米と水の差がちょうど人差し指の第一関節が浸かるくらいに入れとけ」


「入れたぞ。これで待てば良いんだな?」


「バッカ。水入れたら、フタしてそこの無洗米ってボタン押すんだよっ! そのままだと永遠に米が出来ねぇぞ!」


「うーむ、二ホンのライスはパンのようにオーブンですぐには出来ないのだな……」


 ハインが炊飯器のボタンを押す。

 ピッーっという電子音にビクッとする。


(ハインって、日本での一人暮らしとか出来ねぇんだな。節約とか生活の知恵が、捕手と比例して無さすぎるじゃねぇか。実家暮らしにしちゃ酷過ぎんぞ)


 灰田が皿を洗い終えて、食器棚に置く。


「は、灰田君。て、テレビ付けて良い? きょ、今日見たい映画があるんだけど……」


「坂崎。その前にテーブルに俺が洗ったお椀とか皿と箸を並べとけ。後そっちの箱から、インスタント味噌汁の具と味噌の袋を出しとけ」


「う、うん。あっ、デスクトップパソコンの隣に野球の本とかブルーレイやDVDとかたくさんあるね」


 坂崎が食器棚からお椀などをテーブルに置きながら、関心する。

 その間にハインが袋からお菓子を取り出し、開封して一口食べる。


「デリシャス……やはりオレオは良い」


 ハインが笑顔になりながら、指先をペロッと舐める。


「デリシャスって―――つうか、行儀悪いぞ、ハイン。夕飯前にお菓子食うなよ」


「は、灰田君。ご飯食べてる時にテレビ付けて、映画見ても良い? あと野球の本とか映像見てみたい」


「好きにしろよ。明日、練習は朝五時だぜ? 夜更かしできねぇから、ほどほどにしとけよ」


 水を入れた湯沸し器が沸騰する。

 坂崎はそれを持って、テーブルの上に置かれたお椀に味噌汁の具材と味噌を入れる。

 最後に、味噌の入った容器にお湯を注ぐ。


「あ、ありがとう。あ、そうだ。あ、あのハイン君……」


「どうしたカイリ?」


 両手に持ったメロンパンとチョコレートを交互に食べるハインに、坂崎は真面目な表情をする。


「配球について色々教えてくれないかな?」


 ハインがチョコレートをカリカリ食べながら、頷く。

 灰田がテーブルの上に、揚げ物のパックと炊けたばかりの米をお椀に盛る。

 アパート前の自販機で買ったペットボトルを三人分置く。

 食卓に夕飯の準備が終わる。


「その前に飯出来たぞ。冷蔵庫にミートボールもあるから、足りねぇなら、そこにある電子レンジ使って食べろよ。味噌汁と白米はおかわり自由だからな」


 三人が手を合わせる。


「「いただきます!」」


「うむ、メンチカツとコロッケは久しぶりに食べるが―――相変わらずジューシーだな」


 ハインが嬉しそうに揚げ物をご飯と一緒に食べていく。


「は、ハイン君。は、配球について……」


「わかっている。教えよう」


 ハインが醬油瓶を海老天ぷらにかける。

 灰田が「あんまりかけると腎臓悪くなるぞ」っと注意する。


「まず実践において、正解という配球はまず存在しない。配球はケースバイケースで、正解は無いんだ。答えはバッターのその時の心理状態にある」


 ハインが味噌汁をズズッと吸う。


「アウトコース、インコース、変化球、高低、緩急を別々に分ける。そして全部まとめて、総合的に見るとどういう配球が今ベストなのかを投手の調子と共に考えるんだ」


 坂崎は講義を聞きながら、茄子の天ぷらをご飯と一緒に食べる。

 ハインの講義は続く。


「バッテリーと日々コミュニケーションを取り、投手の考えも理解して配球することだ。食事が終わったら、三人の投手の特性と持ち球、得意なコースを分析していくぞ」


「う、うん。ありがとう。遅くならない程度に覚えていくよ」


「ハイン。投手側にとっても大変ありがたい講義だが―――食事中の箸の持ち方なんとかしろ」


「ソーリー。トモヤ―――そろそろオレオとチョコレート食べても良いか?」


「それはデザートにしろ。それと歯磨きしっかりして、風呂入れよ。―――ったく、野球と学業以外はだらしない選手なんだから……」


(灰田君とハイン君は投手と捕手でもあるから、こういうコミュニケーションも大事なのかな? 僕も色々話して、投手を理解しないと……)


 坂崎はご飯を食べ終わり、食器を洗いながらふとそんなことを考えていた。


(そうか! バッテリーも野球も勝つということは、その人を深く知るなのかも!)


 坂崎が気づいた時には、ハインは洗面所で歯磨きをしていた。

 食べ終えた灰田が風呂を沸かす。

 この日、三人は夜八時半まで配球や投手の考えなどを勉強した。




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