第四十話
ハインは気づいたのか、音楽雑誌を置いて顔を向ける。
陸雄が話しかける。
「よっ! ハインは相変わらずロックとヘビメタが好きだな」
「クラシックもよく聞くけどな。どうした?」
「いやー、小学校の頃にチームメイトだった奴が日本にまた来てくれて嬉しいかなーってさ。同じ学校で帰れるこの時間を大切にしたいねぇ」
「―――屋上でのトモヤの説得に乗せられて野球部に入ったが、甲子園は一緒に目指してやる」
「わかってるって、一緒に下校するだけじゃなく甲子園にも行こうな。乾と勝負がしてぇしさ!」
「―――ジョウはやっぱり強豪校に入ったのか?」
「ああ。なんでも兵庫の名門中学に入ったとかで、それから連絡取らなくなってさ。俺も勉強と練習あっから会ってねぇんだよな。ハインはアメリカで野球続けてたの?」
「ジュニアハイスクールでもベースボールは続けた。ホームのシスターに二ホンでの受験勉強もあるからっという理由で、三年生の六月には辞めたけどな」
「ハインの姉ちゃんって、確か大学生でアメリカの教会で働いてるんだっけ? 写真で見たけど、名前がロゼ・ウェルズさんだっけ? 会ったことないけど、凄い美人だよな」
陸雄は小学生の頃に、ハインの住んでいる親戚の家に遊びに行ったことが何度かある。
その時に見たハインの家族写真を思い出していた。
「シスターは俺がベースボールを続けることに賛成してくれた。ファーザーには反対されたけどな」
「えっ? 野球続けさせてくれなかったのか?」
「ああ。仕事の都合でオレをまた二ホンに預けさせてくれた時は、ベースボールを続ける気はなかったんだがな」
「―――そっか。でも、なんだかんだで野球やってくれたのは嬉しいよ」
「―――お前との約束があったからな」
「……えっ?」
「おーい、お前ら。みんなの買い物終わったから、帰るぞ」
灰田の声で、ハインは陸雄より先に書店を出る。
(ハイン―――ありがとうなっ!)
陸雄は嬉しそうな笑顔をハインの背中に向けて、ハインに続く。
※
「じゃ、俺様たちはここで帰るから―――明日の朝練ちゃんと来いよー」
駅に向かう前に、地元の松渡と九衞、そして一人暮らしの灰田は帰っていく。
それぞれのメンバーは帰る前に全員のアドレス交換を終える。
そして連絡や雑談用のネットのメンバー同士の総合コミュニティに加入し終えた。
「はい、お疲れ様です! また学校で!」
「ば、バイバイ!」
「またなー!」
星川と坂崎、陸雄と紫崎、ハインは駅に向かう。
「じゃあ、俺とハインに坂崎はこっちの電車だから―――またな」
紫崎はそう言って、駅の構内でハイン達とエスカレーターに乗る。
陸雄と星川は手を振って、見送る。
「おう! 朝練気合い入れようなー! じゃあ、星川君。帰ろうぜ」
「はいっ!」
陸雄と星川も別の電車のホームに向かう。
エスカレーターを昇り終えると、陸雄達の乗る電車がちょうど来ていた。
二人はさっさと電車に乗る。
空いていた椅子に座り、雑談する。
「そういや、星川君はここから何駅くらいのところに住んでるの?」
「僕は六駅先の場所に住んでますよ」
電車が動き出す。
「ああ、結構遠いんだね。俺んちってここから二駅だからさ。そういうことなら、スマホで無料で出来るお勧めの野球ゲーム教えようか?」
「ああ、もしかしてアレですか? 最近家庭用からスマホ版に移植された『開幕!ファミプロ燃え野球』シリーズですよね?」
「そうそう! あれ面白いよね! 家庭用のプレステあるなら今度ネット対戦しない?」
「いいですよー。帰りにアドレスにオンラインアカウント送りますね。陸雄君はあのゲームのどのモード好きですか?」
「プロ球団を優勝に導くドリームペナントモードかな。星川君は?」
「僕は監督になって選手を育てる栄光ナインモードをやり込みますね」
「あははっ、あれ面白いけど長いよねー」
二人は車内で雑談を楽しく過ごす。
話が盛り上がってきたところで、陸雄は目的の駅に着く。
陸雄は席から立ち上がる。
「じゃあ、俺ここで降りるね」
「はいっ! ネット対戦待ってますよー」
陸雄が電車から降りて、星川に手を振る。
星川も手を振り、電車が動く。
車内の星川は先ほど購入した野球雑誌を読み始める。
(さてと―――勉強教えてくれる清香と母さんの夕飯待ってるから、早く帰るかー。あいつらと高校生活と野球をするんだよな。なんか楽しいんだよなー。おおっ、いかんいかん、テンション上がってしまった)
陸雄は嬉しそうに、駅の階段を降りていく。
※
一方、紫崎たちは車内で捕手の講義をしていた。
坂崎に少しでも捕手を理解してもらうために紫崎が薦めた。
紫崎からは打者や野手としての意見。
ハインからは捕手視点での考えで盛り上がっていた。
坂崎はスマホでメモをしながら、講義を受ける。
坂崎は三駅先の駅で降りる。
「ふ、二人とも。あ、ありがとう! ちゃ、ちゃんと覚えて置くね。ま、またね!」
「カイリ。これから毎日空いた時間で教える。十月からの正捕手はお前だ。頑張れよ」
坂崎は頷いて、駅から階段に降りていく。
電車で見送った紫崎とハインは椅子に座りながら話を続ける。
「そういえば、ハインと俺は同じ駅だったな。かつては敵でありながら、今は味方なんだから―――奇妙なもんだな。積もる話もあるし、今後はじっくり話すか」
「ああ、今聞きたいこともある」
「なんだ? 言ってみろ」
「ジョウはどこの高校にいるんだ?」
「乾か、風の噂じゃ―――」
電車が揺れながら、ガタンガタンという音が聞こえる。
その音の中で、紫崎が高校名を告げる。
ハインが高校名を聞いた時に、紫崎に答える。
「……それが確かなら、その事はリクオにはまだ話さない方が良い」
「俺もそう思っている。あいつには抽選会まで、意識させない方が良いな。焦りで伸びるべき箇所が伸びなくなっては本末転倒だからな」
「そうしてくれると助かる」
「フッ、味方だった奴が今度は敵で複雑か?」
「―――代わりに兵庫で全国に行ったお前がいる。少年野球時代から伸びる選手だとは思っていた。話を聞く限り、オレの目に狂いはなかった。だから、不利なわけじゃないさ」
「ハハッ! お前のお墨付きか。嬉しいねぇ。ハイン……実はその高校には―――」
ハインがじっと見る。
紫崎が口をゆっくりと開く。
いつになく真剣な表情だった。
「―――寮生でレギュラーになっている俺の兄貴もいる。そして―――」
紫崎が続けて言った言葉で、ハインは表情を少し変える。
関心とその高校の野球の情報に―――やや厳しい表情になった。
「なるほどな。だったら大会で当たるといいな……」
紫崎が無言で頷く。
目的の駅について、会話が終わる。
二人が電車を降りる。
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