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第四話

「お正月には一度帰るから、その日だけは大丈夫だよ」


 その言葉を聞いて、安堵する。

 何も一生いなくなるとわかった訳ではないからだ。


「本当?」


「その日は必ず有休取るから嘘じゃないぞ」


「う、うん。わかった。僕、明日の試合絶対勝つからね! 遠くに行っても、試合見ててよ」


「はっはっはっ! いいぞ! 陸雄に生きがいを見つけられて、安心しているよ。野球続けなさい。勉強もしっかりやるんだぞ? 友達も清香ちゃんも大事にしなさい」


「―――うんっ!」


「二人とも~! ご飯できたわよ~」


 母親の声でテーブルに着く。

 この日の食卓は陸雄には試合への緊張よりも、父親への単身赴任からの寂しさを忘れずにはいられない時間だった。



 夏の公式試合の日。

 明後日に東京に行く父親の声援を前に、陸雄は勝ちたいと言う気持ちが誰よりも強くあった。

 それは同時に―――マウンドを譲らないピッチャーならではの我の強さも生まれている。


「リクオ。レギュラーの初試合だからって緊張するな」


 バッテリーとして、ハインがフォローを入れる。


「う、うん……」


 陸雄は汗が流れて、喉が渇いていた。


「ちょっと素振りに行って来る。リクオも準備運動しておけ」


 ハインはそう言って、乾のいる場所に移動してバットを貰う。

 やがて陸雄のことは気にせずに、素振りに集中した。


(喉乾いたなぁ。お父さんの前で言いたいけど、買って来る間に試合始まっちゃうし……どうしよう?)


「なんだお前―――試合する前から汗ビショビショじゃん」


 そんなことを考えていると、横から聞きなれない声がかかる。

 振り向くと、相手チームの陸雄と同い年のくせ毛のある少年が話しかけたようだ。


「ううっ、喉乾いてて―――飲み物忘れたんだ。ママがお金渡すの忘れちゃって……」


「なら俺のアクエリアス一本やるよ」


「いいの? 僕、お金持ってないよ」


「投手が一回から弱ってると、打つ気がしねぇから気にすんなよ」


「ありがとう。ええと……」


紫崎(しざき)っていうんだ。お前は?」


 紫崎と言う少年はそう言って、スポーツドリンクを渡す。


「僕、陸雄―――捕手のハインとバッテリー組んでいるんだ」


 アクエリアスをガブガブと一気に飲み干す。


「ハインは知ってるぜ。打率なら乾も強いけど、あいつも飛ばすからな」


「リクオ。整列するぞ―――」


 ハインの声で周りの選手が集まりだす。


「じゃあ、試合で打つか打たれるか―――どっちが強いか勝負だ!」


「―――うんっ!」


 そう言って、二人も整列する。


「「お願いします!」」


 それぞれのチームが帽子を脱いで、大声で一礼する。

 陸雄の初試合が始まる。



 試合が五回表になった頃。

 ベンチにいる陸雄に監督が声をかける。


「岸田。肩は温まってるか?」

 

 乾とハインのチームの応援をしている陸雄は、その声でピタリと黙る。

 やがて、それが自分への登板だと気付く。


「―――は、はいっ! 試合前のキャッチボールで温まってます」


「投手交代だ。この回から最後まで投げるんだ」



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