第三十九話
「いや~、初めての練習は一日通してきつかったな! みんな、コンビニ寄るか?」
夜の時間が始まったばかりの帰り道。
陸雄はメンバーにそう言う。
「何言ってんだよ、チェリーエース! 中野監督に言われたろ? 真っ直ぐ帰れってよ。家に帰るまでが野球部練習だろうが」
「九衞、お前真面目か? これから週に六日は一緒にメンバーで帰るのに、それは味気ないだろー。つーか、俺はチェリーエースじゃない。大森高校の明日を担う期待の一年エースだ!」
「リクオ。今日の練習の後半コントロールが落ちてたぞ。ボール球が無駄に多い。球速を維持しろとまでは言わないが、分割意識して投げろ」
「うっ! すまん、ハイン。古川さんにも言われたけど、今日一番効いたわ」
「がっはっはっはっ! 期待の一年エース(笑)がコントロールガバガバじゃ四球祭りで自滅の炎上だな!」
「なんだと! 慣れない練習で、ちょっと疲れが出ただけだつーの!」
「陸雄~。あれは横で投げてる僕が言うのも何だけど、ハインのミット凄い動いてたよ~。投げ込み多かったけど、坂崎の時に後逸もあったじゃん~」
「埼玉名門シニアのはじめんにも言われてやんの~! お前終わっとんな!」
「て、てめぇ……! ちょっと野球が出来るからって~!」
「ん~? 大丈夫だよ~、チェリー君! 俺様と錦先輩がたくさん点取ってあげましゅからね~! ベンチのイメトレでたくさん三振の山取れるといいでちゅねぇ~! ププッークスクスッ♪」
「―――こ、殺す! 殴るのは出来ないが、三振取りまくったら激辛ペヤング死ぬほど食わして泣かせてやる!」
陸雄が九衞に絡んでいると、後ろで坂崎がフラフラと歩いている。
星川が坂崎を支える。
「坂崎君、大丈夫ですか? バッグは投げる肩とは反対側で持った方が良いですよ」
「あ、ありがとう。そ、そうするよ。こ、これから週に六日は練習なんだよね?」
「フッ、日曜だけ一日中勉強が出来るな。まさかとは思うが、抽選会前の中間テストとその後の期末テストで赤点を取る奴は出ないだろうな?」
紫崎が嫌味な声で話す。
「「―――げっ!」」
灰田と陸雄がギクッとする。
九衞が紫崎の話に身を乗り出す。
「中間試験は五月中旬で、期末試験は六月下旬だもんな。―――で、地方大会は六月中旬から七月下旬で終わり。試合開催中に期末テストで赤点取ったら―――肝心の甲子園前にスタメンから外されて、補習で試合どころじゃなくなったりしてー。カワイソウになー」
九衞が口に手を当てて、陸雄と灰田を見る。
「あぁ~! 忘れてた~! 平均点取んなきゃ、マウンドに上がらせてもらえないー! 乾との約束が紙切れ数枚で終わるー!」
陸雄が肩をガックリと落とす。
「星川、お前中学まで真面目に勉強してた?」
灰田が過去の家庭教師付きの受験地獄を思い出したのか、恐る恐る星川に尋ねる。
「やだなぁ、灰田君。普通しますよ?」
星川は悪意のない笑顔で答える。
それを聞いた灰田は、陸雄と同じようにガックリ肩を落とす。
「よし、お前ら! コンビニではなく、今から駅前のあのデカい書店行くぞ! 参考問題集を買わなきゃ、平均点は取れない!」
灰田が握りこぶしを作って、熱弁する。
「あっ、良いですね。僕、本屋で今月の『月刊さざめけ! 高校野球!?』買いたいんですよね」
星川の言う野球雑誌は、現代の高校野球関連のニュースや情報などが掲載されている高校野球連盟公認の雑誌だ。
プロ野球選手目線での練習法や理論なども掲載されている。
たまにプロ球団の引退した有名監督のボヤキ集なども収録されている。
「俺は参考書買って、勉強しないと実家の親父に殺される。なぁ、ハイン。英語教えてくんねぇ?」
「わかった。トモヤ。それなら毎週日曜に俺の住んでる親戚の家に来るか?」
「おお、助かるぜ! 持つべきものは友だな! なぁ、今度の日曜にユニフォーム買ったら、みんなで勉強会開かねぇか?」
「僕は家事があるから遠慮しておくよ~。あっ、空いた時間に勉強してるから大丈夫だよ~」
「フッ、俺は一人でも出来るのでな。留年だけはするなよ?」
「ちぇ! 紫崎とはじめんは冷たいな。坂崎と星川はどうすんだ?」
「僕は数学と科学がちょっと心配なので、よければハイン君の家で教えてもらえませんか?」
「わかった、ツバキ。その代わり古文と漢文を教えて欲しい」
「いいですよー。毎週日曜日に家に来ますね」
「俺様は常に文武両道の完璧球児なので、バカな君たちに特別に教えてあげよう。ただし、金髪の家には心が穢れるから行きたくない。教えてほしくば俺の家に日曜だけ来い。星川は金髪に教えてもらえ。余った奴は俺様が熱を入れて、教えてやる。チェリー、お前来るか?」
「だからチェリーって言うなよ! 陸雄って呼べ! 俺は勉強はいいよ―――幼馴染にいつも教えてもらってるからさ。坂崎代わりに行って来いよ」
坂崎が遠慮気味に話しかける。
「こ、九衞君。ぼ、僕歴史の授業がどこ覚えて良いか分からなくて…………」
「いいだろう。毎週日曜に菓子パンを奢ってくれるなら、世界史でも日本史でも政治経済の科目でも教えてやろう。ただし、後期からは歴史の選択科目は俺と同じ科目を取るように―――いいな?」
「う、うん。あ、ありがとう九衞君! か、科目の時はメールで送るから、ちゃんと取るよ」
メンバーが話しているうちに、駅前の活気づいている街に着く。
その街の中には、話していた大型書店があった。
※
「お前ら、本買いたい奴はさっさと並んで買えよ。暇な奴は買い物が終わるまで、雑誌でも読んでろ」
灰田の一言で、全員が駅前の書店に入る。
松渡は料理の本と英語、数学の参考書を持ってレジに並ぶ。
紫崎は灰田にお勧めの参考書を紹介している。
待っているハインは音楽雑誌を立ち読みしている。
星川は灰田に話していた野球雑誌を持って、レジに並ぶ。
坂崎は日本史と世界史の問題集に、趣味のTRPG紹介雑誌を持ってレジに向かう。
九衞は現役高校生アイドルを中心とした芸能雑誌を読みながら、付録の折り畳みのポスターを見て―――買うかどうか考えている。
そんなメンバーを見ながら、陸雄は本屋の前で考え込む。
(みんなに合わせて本屋入っちゃったけど―――清香が勉強教えてくれるし、参考書も買ってきてくれるしなー。野球雑誌は星川君に貸してもらって、読むとして、どうしようかな?)
陸雄はとりあえず漫画コーナーに向かう。
(おっ! 週刊少年マガヅーンで連載してる野球漫画のダイヤモンドのエースの最新刊出てるじゃん! 主人公が雑草魂持ってるカッコいい投手なんだよなー。今ある小遣いで買えるかな?)
漫画本の表紙を見ながら、陸雄が財布を確認する。
(あー、清香から貰った食事代と母さんに貰うユニフォーム代考えたら全然足りねー。仕方ないから、ハインの所でも行くかな?)
陸雄がハインの所に寄る。




