第十四話
「お前、家に帰らなくていいのか?」
「あ、ああ。じゃあ俺も帰るわ。ブレザーじゃランニング出来ないしな。清香も帰ってるだろうし、一人で電車使うか」
二人が帰る中で、階段前でアップバングショートの同じ新入生らしき男とすれ違う。
「んっ? もしかして坂崎?」
「えっ……り、陸雄君?」
呼ばれた高校生の少年が、トレーを持つ手が動揺で少しだけ落ちそうになる。
「ああ、やっぱな。坂崎海里だろ? 同じ高校だったんだな!」
「なんだよ、知り合いか? 野球……やってるようには見えないけど、足腰と手首がそれなりだな」
「ああ、紹介するよ。俺と同じ中学で、卓球部だった坂崎海里。三年の時はクラス違ったけど、一、二年生は同じクラスだったんだよ!」
「へぇ、卓球ねぇー。よろしく、同じ一年生の灰田だ。クラスが違って残念だな」
「よ、よろしく……り、陸雄君。そ、それと灰田君」
坂崎がどもりながら自信なさげに話す。
中学で二年間同じクラスにいた陸雄には、そんな坂崎に慣れていた。
「ああ、悪い。これからそっち飯だよな。邪魔したな」
「い、いや。いいよ。ど、どうせ一人でゲームしながら、食べるだけだし……それに……」
「それに?」
坂崎が俯く。
二人は何事かと顔を合わせる。
「こ、校内パンフに卓球部無いから、帰宅部になるために卓球を辞めようかなって……」
「そっか。そりゃ残念だな……」
「おいっ! 陸雄!」
灰田が袖をつかむ。
「へっ? な、何?」
「卓球の球は野球の球より小さい。球威に慣れれば、捕球するだけの観察眼と反射神経はある。勿体ねえだろ?」
灰田がそう言いながら、ため息をつく。
陸雄は察する。
「あ、そういうことか。でも、本人まだ野球やるって決めたわけじゃねぇしさ」
「あのなぁ、他人の事情気にして野球部が再始動できるかよ。なぁ、坂崎。野球部入らねぇか?」
灰田が坂崎をじっと見る。
「え、えっと、か、考えてみる。ダイスで『1』が出たら入るよ」
「……陸雄、坂崎って変な奴なのか?」
灰田が呆れ顔で陸雄を見る。
「いや、坂崎はTRPG好きなんだよ。ネットでよくやるらしいから……」
「テーブルトークアールピージィーだぁ? そんなん振らなくても入れよな。勿体ねぇぞ。今まで積み上げたものを崩すのは一瞬で、しかも簡単なんだぞ? 卓球で鍛えた体が、野球以外でやらないと泣くぜ?」
「灰田。本人が戸惑いながら野球してると、試合で肝心な時にミスするだろ? 悪いな坂崎。気にすんなよ」
「じゃあな。ダイスの結果で入りたきゃ入ってくれ。ブルペンキャッチャーくらいなら出来そうだしな」
「明日学校でな~」
「う、うん。さ、さようなら……」
陸雄と灰田は階段を降りていく。
坂崎は隅の窓際の席に座る。
「や、野球部……入れるかな? だ、ダイス神さん、お願いします」
坂崎はブレザーの胸ポケットから二十面ダイスを取り出す。
そして二十面のダイスをトレーの中に向かって、振る。
コロコロと音を立てて、ダイスは止まる。
その数字に坂崎はハンバーガーを掴む手を止める。
「で、出ちゃった……」
坂崎はダイスの示した『1』の数字を見て、入部を決意した。
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