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第百六話


 古川が補足説明をする。


「ですが―――サウスポーであり、それに加えて制球力は悪くないです。さらにアンダースロー投法は独特でタイミングが取りづらいので、打席では注意が必要です」


(中野監督もそうだけど、古川マネージャーって、色んな変化球覚えてるから凄いよな~。中学野球で覚えたって言ってたけど、もし彼女が男性だったら大森高校は錦先輩と合わせて今以上に有名になってたんじゃないかな~? というかウチの高校、女子野球部無いからな~)


 古川の説明の中で、松渡は関心する。

 隣に座っている九衞が松渡を小突く。


「九衞、なに~?」


「現段階でチェリーはまだお前を越える投手にはなっていない。事実上の一番投手(エース)はお前みたいなもんだ。頼りにしてるぞ」


「任せてよ~。なんだかんだで陸雄の事を期待してるんだね~」


 松渡が流し目で意地悪そうに微笑む。


「いやらしい顔すんなよ。このことクソザコチェリーには言うなよ。チンピラ野郎も投手としてはそこそこになってきたが、まだ試合で完投できるレベルじゃない。お前だけが頼りだ」


「二回言わなくても解ってるよ~。中野監督が睨むから、説明聞こうね~」


 中野監督が話を始める。


「相手の監督はどうやら戸枝以外の投手をあまり育ててないようだ。二回戦に向けて単に仕上げる時間が無かったのかもしれないな。この試合では戸枝に完投させる気だろうが、他にも強力な一年生打者がいる」


「中野監督。その一年生って誰です? ここ最近の練習では基本以外に戸枝君対策ばかりが中心でしたよね?」


 星川が挙手して、話す。


「まぁ、待て星川。今から古川が説明する」


 中野監督が星川に一言注意する。

 古川の番になり、ノートを見て話す。


「オーストラリアから留学したジェイク・ウィンタース君です。一年生でポジションはセンター。打率の高いバッターで一回戦でホームランこそ無いものの、フェアギリギリまで伸ばすヒットを四打席全て当てています」


「一回戦の試合映像は家で見た。私の推測だが、ジェイクは選球眼を持っている―――松渡でも厳しいだろう。歩かせても良いから他を抑えておけ。投手よりも打者が強いチームだ」


 中野監督が松渡とハインを交互に見て話す。

 ハインがコクリと頷く。

 松渡はそれでも抑えると瞳に静かな闘志を宿している。

 両者を見た後に、一息ついて中野監督が話を再開する。


「最後に試合では相手の出方を伺う。後攻を取れれば、理想的だ。私もサインをいくつか出す。サインの種類はダミーも含めて全部覚えてるな?」


 メンバーが頷く。

 バスが駐車場に止まる。


「よし! 全員降りろ! 試合が始まるまで軽く運動しておけ!」


「「はいっ!」」


 メンバー達が声をあげて、バスから順に降りていく。



「くしゅん!」


 陸雄が病室でくしゃみをする。


「今頃試合が始まる頃かな? なんか、気のせいかもしんないけど、俺いなくても二回戦勝てそうな気がしてきたな」


 朝に看護婦に配膳された朝食を食べ終わり、昼の投薬と注射を終えた陸雄は安静していた。


「そろそろ清香来る頃だな。はぁ、勉強道具置いていくんだもんなぁ。暇だから、そればっかだもんなー」


 陸雄はベッドに設置されている机の前で、教科書を読みながら退屈そうにボンヤリとしている。


「……俺マジでチームに必要とされているのかな? なんか心配になってきたなぁ。俺は本当に一番投手(エース)だよな? マウンドの主人公なんだよな?」


 ノックの音が聞こえる。


「あっ、清香? いいよー! 入って~。なぁ、清香。俺って本当に主人公なん……」


「失礼します。岸田さん。検温の時間です」


 清香ではなく体温計と書類を持った看護婦だった。


「あっ、はい。なんか、すいません」


 勘違いした陸雄が申し訳なさそうに頭を掻く。


「はぁ、なんかカッコ悪いな最近の俺…………」


 しみじみ思いながら脇に体温計を差す。



 試合前の市民球場前。

 大森高校の近くに西晋高校の野球部が集まっている。

 キャプテンらしき男がハイン達の前にやって来る。

 やや茶髪のツーブロックの髪型の少年が帽子を脱ぐ。

 紫崎とハインも帽子を脱ぐ。

 知り合いの戸枝だった。


「よお、久しぶりだな。ハインに紫崎。元気そうじゃん!」


「フッ、戸枝先輩も相変わらずですね」


「先輩とか敬語はやめれ~! 昔試合した俺達の仲じゃんか。ここは俺ら流の挨拶でいいじゃん」


 戸枝は紫崎とハイタッチする。


「久しぶりだな。ツヨシ。ピッチャーなのは変わってないんだな」


「おおよ! ハインも捕手続けてくれて嬉しいぜ」


 二人がガッチリ握手する。



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