表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/987

第百五話


 顔を向けると私服姿の清香が袋を持って、部屋に入ってきた。

 看護婦が「ごゆっくり」っと言って、ドアを閉める。


「陸雄。もう大丈夫なの?」


 心配そうに清香が近づく。


「あ、ああ。まぁ、先生からは明日も注射打って、健康状態見たら明後日午後に退院しても良いってさ」


 清香が椅子に座る。


「そっか、なら月曜日に学校来れるね。でも明後日って―――」


 清香が言い終わる前に陸雄が俯く。


「ああ、公式戦の二回戦だよ。明後日に退院する俺は出れねぇな」


 清香が寂しそうな表情になる。


「今日私が朝起こさなかったのも原因だよね? ごめんね…………」


 陸雄が顔を向ける。

 今にも崩れそうなしおらしい清香を見て、ドキリとする。


「責任感じすぎだって! 気にすんなよ。俺がいつも清香に甘え過ぎなのが今回の失敗なんだからさ。それに……」


 清香が顏をあげる。


「―――それに?」


「あっ、いや…………」


(バッカ! なんでここで古川さんのパンツ思い出すんだよ! 冗談でも清香が怒る怒る! やばっ! 感触と匂い思い出しちゃった。こ、股間が……)


 陸雄が顔を赤らめて、窓に顔を向ける。


「どうしたの? モゾモゾしてるけど、痒いところでもあるの? シャワー室は別室に行けばあるよ?」


 清香が身を乗り出す。

 陸雄が汗を流しながら、作り笑顔を見せる。


「あはは、まだ頭がすげー痛くてさ」


(バレたらマズいな。よっし、ムカつく奴の顔を思い出そう。真伊已…………真伊已だな。くそっ! あの野郎! 元はと言えばこうなったのもアイツのせいで……何? 俺は関係ないです。貴方の自業自得ですだと? この野郎! 脳内でもつぶらな瞳で睨んでんじゃねーよ! あームカムカする!)


 悔しそうでいて、苦しそうな陸雄の顔に清香が心配する。


「―――きつそうな顔してるけど、先生呼ぼうか?」


「あはは、大丈夫。少し静めれば頭の痛さも引くからさ」


(よっし! 真伊已の奴のムカつく顔を思い出したら、古川さんが怒らせた俺の股間が落ち着きを戻した。ううっ~、清香すまん。いつも思ってねぇけど、年上の現役女子高生の体ってマジでエロいから―――清香も魅力的だけどさぁ。って、何言ってんだ俺!?)


「じっー!」


 清香がジト目で陸雄を見る。


「な、何? どうしたの? 俺、なんか言ったかな?」


「さっき陸雄が凄く失礼な事を考えてたような気がしたんだけど?」


「うっ! んなこと言ってねぇて! ただ仲間が練習してんのに俺だけ休んでるのが申し訳なくってさ。なんか軍隊映画で一人だけトランクから禁止されているドーナツが見つかって、怒った教官の連帯責任の罰で仲間全員の腕立てをドーナツ食べながら見ているデブ軍人の様な気持ちになってさ」


(清香って、時々鋭いんだよなー。はぁ、退院したら中野監督に練習でめっちゃシゴかれるな)


「病気で休むことも練習の内だよ。あと私その映画は残酷だったから、思い出したくない」


「おっ、そうだな。ちゃんと休むよ。ってかゴメン。その映画、中学のクリスマスに一緒に見てたな。今思うと女の子に見せる映画じゃなかったわ」


「わかったならよろしい。次のクリスマスは恋愛映画にしてね。じゃあ、はい!」


 清香がベッドにある机を設置して、教材をドサリと置く。


「えっ? なに、これは?」


「休んでる間の授業の勉強しっかりやるからね! 主治医さんに許可貰ってるから、みっちりやるよ!」


 陸雄の目が少し潤んだ。


「ううっ、安息の場が無い……休むことも勉強なんじゃ?」


「もうっ! 期末テスト近いんだよ! 今日の一限の英語からやるよー」


「マジで今日って厄日なんじゃねーかな……おのれー! 真伊已めー!」


 その後陸雄は病室でグッタリしながら、清香と面会時間ギリギリまで勉強した。



 公式試合二回戦の日。

 松渡達は移動するバスの中で、席に座る。

 駒島は試合が始まるまで寝ると言って、最後尾で寝ている。

 大城は昨日徹夜でエロゲーをしたのか、ゲッソリとしていて横になっている。

 二年のメンバーもこの日ばかりはバスの奥で座って、黙りこくってスマホをいじっている。

 鉄山先生がバスを運転する中で、中野監督が立ち上がる。


「レギュラーメンバーはよく聞け。今日の相手は西晋高校(せいしんこうこう)だ。兵庫県内でもっとも長い間硬式野球部を続けている。監督も野球経験者が基本的に雇われている。一回戦のようにはいかないと思っておけ」


 古川がノートを持って、立ち上がる。


「相手は兵庫県内で古豪の野球校です。以前にデータを渡したと思いますが、キャプテンの戸枝君は投手で二年生です。今大会で少数派のアンダースローの投法をします」


 古川が淡々と要点だけをまとめて説明する。

 駒島、大城以外のメンバーが真剣に聞く。

 二年生達は錦以外顔を逸らして、聞いているのかいないのか分からない状態だ。

 気にせずに古川が言葉を続ける。


「今大会の一回戦のデータも合わせて、戸枝君の最大球速は115キロ。アンダースローから投げる変化球は―――カーブ、シンカー、チェンジアップです」


 古川がノートを開いたまま、説明を終える。

 戸枝の投法を過去の大会で知っている二人は静かに聞く。

 ハインと紫崎だった。


(フッ、あいつは相変わらずアンダースローの投法か。球速はそれほど変わってないようだが、変化球をいくつか覚えたようだな。練習で対策は取ってある。俺も含めたハインや錦先輩、それに九衞以外でも慣れれば後半から打てるだろう)


 古川の説明が終わり、中野監督が言葉を続ける。


「昨日までの練習で、私と古川が投げる打席練習で三つの変化球は嫌と言うほど味わっただろう? 安心しろ。球速は練習相手になった私や古川よりもだいぶ遅い―――その上緩急はあまり無い」


 中野監督が話し終わり、古川に顔を合わせる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ