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第百四話


「あら、お目覚めになられたようですね。今保護者の方に連絡を入れますね」


「あてて、まだ頭痛がする。けど、さっきより―――ちょっと治まったな」


 母親が病室にやってくる。

 救急車で運ばれたことを聞き、病院まで来てくれたようだ。


「母さん。俺さっきまで学校にいたんだけど、何があったの?」


 母親が呆れて、近くの椅子に座る。


「学校から電話が入って、あんた救急車で病院に運ばれたんだからね。清香ちゃん帰ったら病院に来て、お見舞いするみたいだから安静してなさい」


 陸雄は試合のことを思い出す。


「つ、次の試合が……あうぅ~、頭がボッーとする」


 陸雄が頭を抑える。


「あんた病状がひどいみたいだから、寝ている間に注射打ったばかりなのよ」


「そ、そうなの? いつの間に……」


 陸雄が腕のあたりを見る。

 注射の後があるのか、刺された場所にテープが貼ってあった。

 母親がテーブルに着替えと下着をドサリッと置く。


「順調にいけば退院するのは明後日みたいだから寝てなさい。電話で二回戦は辞退させるように監督さんに連絡入れるわよ」


「明後日!? 二回戦の試合はその日なんだぜ? む、無念!」


 陸雄ががっくりとうなだれる。


(ここで俺抜きで二回戦負けたら、さっきの乾の悪夢より悲惨なことになるじゃん)


「この後診察室に行くんだから、それ終わって、明後日の試合の日になったらテレビ見ておけばいいでしょ?」


「二回戦勝てるよね? 勝たなきゃ俺の野球ライフがマジで終了するんだよ!」


 陸雄が不安そうに母親を見る。


「そんなの知らないわよ! ほら、車椅子あるから、診察室行くわよ」


 陸雄がダラダラと汗を流す。

 

(マジで勝てるよな? 大丈夫だよな? 試合に出て負けるなら納得がいく。けど、不参加で負けるって―――下手したら一生モンのトラウマだぞ!)


 ベッドから起き上がり、車椅子に乗る。

 そのまま母親に押されて、診察に向かった。

 時計を見ると中野監督の練習が始まる時間帯だった。



 放課後練習の始まる前にメンバーがグラウンドに集まる。


「一限の岸田の早退で、担任の先生の話では二回戦終了まで入院だそうです」


 仕事で手が空いてやってきた鉄山先生が中野監督とメンバー達に連絡する。


「そうか、こうなった以上は仕方がない。岸田抜きで試合に挑む。松渡を投手戦で出すことにする」


 中野監督の言葉に星川と九衞が呆れる。


「運ばれたのやっぱアイツだったか。あのバカチェリーは登板すら出来んのか……終わっとんな」


「一言で言えば最悪の展開ですね。それにしても入院ですか。僕の時みたいに長期入院って訳じゃなさそうだし、次に期待ですね。遅刻だけでなく体調管理も出来ないとか、ちょっと見損ないました。最低です」


「まぁまぁ二人とも~。陸雄にも入院の事情があるんだよ~。実はね~」


 呆れる二人に同じクラスの松渡が説明する。

 古川さんがその説明が終わった後で、メンバー達に頭を下げる。


「松渡君の説明の通り―――だいたいは私のせいだから―――ごめん、みんな」


「アヤネマネージャー。気にすることは無い。元はと言えばリクオが朝練に遅刻したのも原因だ」


 ハインは解ってたみたいな顔をする。


「フッ、陸雄は退院するのは明後日みたいだし 次の試合に勝てば三回戦には間に合うだろう。あいつは三回戦までシゴキ倒そう」


「紫崎の言う通りだ。よし、練習開始!」


 中野監督の言葉でメンバーが今日の練習を始める。

 走り込みをするなかで坂崎が灰田に話しかける。


「あ、後でみんなでお見舞いに行った方が良いかな?」


「坂崎。死体に鞭打つな。あいつのことだ―――来ないでくれって言うぞ? それより今日の捕手役を頼むぜ。俺がマネージャーにフォーム教えてもらえる時間はいつも少ないから、今日気合いれて頑張るぞ」


「う、うん。な、中野監督―――凄い怒ってたね」


「コラ! そこの二人! 話しながら走るとは良い度胸だな! ロープで腰に巻いたタイヤを引きずらせて走らせるぞ! 朋也様はこの後投手練習と野手練習を重点的にやるからな!」


 中野監督の大声がグラウンドに響く。


「うげっ! 今日の中野はマジ不機嫌だな。朝練バックレた陸雄のせいだぞ。マジしけるわ。あんにゃろめ!」


 やや九州訛りのイントネーションで愚痴る灰田がペースを上げる。


(灰田君って、学校に馴染んでから時々変な訛り見せるな。本人は気づいてないけど、九州訛りなのかな? 言わないでおこう。投手との信頼関係を築かないと―――)


 口には出さない坂崎が無言で後に続く。



 同時刻。

 陸雄が入院している兵庫の病院内。

 診察が終わり、投薬が終わった陸雄は病室のベッドで横になっていた。


(うーん。だいぶ楽になったけど、暇だなー。部屋にテレビとかあるけど、カードでお金支払わないと見れねーし)


 やることもないので、ベッドにドサリと眠る。

 ノック音が聞こえる。


「岸田さん、面会です」


 看護婦の声が聞こえて、ベッドから起き上がる。


(この時間って、みんな練習中だけど、誰だろう?)


「岸田さん?」


「あっ、すいません。どうぞー」


 ドアを開ける音が聞こえる。


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