第百三話
柊木が心配そうに陸雄を見る。
(清香ちゃんにこのこと伝えないとな)
「じゃあ、私はこれで失礼します。後で病院教えてください」
そう言って、柊木が保健室から出て行く。
保険医が学校用の電話で連絡を入れる。
しばらくして救急車の音が聞こえた。
学校の生徒の何人かが、担架で運ばれる陸雄を窓から見る。
陸雄は苦しそうに目を瞑り、うなされていた。
窓から別のクラスの九衞が偶然見る。
(ん? あれって、チェリーじゃ……ま、いっか。勉強勉強っと)
※
暗闇の中で陸雄達がユニフォームを着ている。
大森高校野球部のメンバーが膝を付いて、倒れ込んでいる。
陸雄がスコアボードを見上げる。
圧倒的な点差だった。
大森高校が芝原咲高校にコールド負けした。
「―――所詮この程度か」
芝原咲高校の乾が、マウンドで膝を付く陸雄に冷酷に言い放つ。
そのまま背中を向けて、離れていく。
「待ってくれ乾っ!」
陸雄が倒れ込んだまま、手を差し伸べる。
乾が振り向く。
冷たい表情だった。
「やはりお前は背番号の重さを知らない選手だ。エースなんかじゃないな。失望したよ」
ガラスが割れるような音と共に陸雄が暗闇に吸い込まれていく。
「陸雄…………陸雄っ!」
暗闇から光が入り清香の心配する顔が目に映る。
どうやら清香の声で起こされたようだ。
「汗びっしょりだよ? 水持ってくるね」
「ああ、夢か―――ありがとう清香。って、ここどこ?」
辺りに背景は無く、闇の中で宙に浮いている。
この世の光景ではなかった。
「それはね……」
清香の制服姿が黒を基調にした傷んだローブに変わる。
「じゃじゃーん! なんと地獄です! 陸雄は古川さんのかけた謎の液体のせいで、死んじゃいました♪」
上空の空間から大鎌が振ってくる。
清香はそれをキャッチする。
「え! ええっー!? ここで終わりかっ!? 乾との決戦は? 甲子園は? 俺のカッコいい成長物語は?」
陸雄がビクビクっとうろたえる。
清香は大鎌を持った死神の格好をしていた。
「ん? そんなのもう無いよ? 陸雄は死んでるんだしねー」
小悪魔笑顔で清香が大鎌を振り上げる。
「じゃあ、最後に陸雄の魂をこの鎌で狩って―――地獄に送り届けますね♪」
「や、ヤメロー! 行きたくなーい!」
陸雄が暗闇の空間の中で藻掻く。
だが、引くことも出来ずに同じ位置にいるだけだった。
清香が振り上げた大鎌を見る。
大鎌の先端の刃がキラリと怪しく光る。
死をつかさどる銀の刃はまさに命を刈り取る形をしていた。
「ていっ♪」
ブンッと大鎌を振り落とす音が聞こえる。
ザシュッと言う鈍い音がした。
陸雄の胸に刃物が深く刺さる。
「あがっ……! こんな、と、こ、ろ……で、終わっ……!!」
言葉を言い切れずに視力が無くなる。
その瞬間―――生物としての意識がプツリッと糸の様に切れた。
※
「うわぁあー!」
ハッとして、意識を取り戻す。
白を基調とした無機質な部屋が目に映る。
どうやら病室のようだ。
陸雄は病院のベッドにいる。
念のため頬をつねる。
痛みが残る。
「良かった~死んだわけじゃない。俺の野球物語は最終回じゃなかったんだ。つうか、夢から覚めたら、それも夢だったとかレアな体験を……って、病院?」
看護婦が部屋に入ってくる。
起き上がった病院服の陸雄を見る。




