表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/987

第百三話


 柊木が心配そうに陸雄を見る。


(清香ちゃんにこのこと伝えないとな)


「じゃあ、私はこれで失礼します。後で病院教えてください」


 そう言って、柊木が保健室から出て行く。

 保険医が学校用の電話で連絡を入れる。

 しばらくして救急車の音が聞こえた。

 学校の生徒の何人かが、担架で運ばれる陸雄を窓から見る。

 陸雄は苦しそうに目を瞑り、うなされていた。

 窓から別のクラスの九衞が偶然見る。


(ん? あれって、チェリーじゃ……ま、いっか。勉強勉強っと)




 暗闇の中で陸雄達がユニフォームを着ている。

 大森高校野球部のメンバーが膝を付いて、倒れ込んでいる。

 陸雄がスコアボードを見上げる。

 圧倒的な点差だった。

 大森高校が芝原咲高校(しばはらさきこうこう)にコールド負けした。


「―――所詮この程度か」


 芝原咲高校(しばはらさきこうこう)の乾が、マウンドで膝を付く陸雄に冷酷に言い放つ。

 そのまま背中を向けて、離れていく。


「待ってくれ乾っ!」


 陸雄が倒れ込んだまま、手を差し伸べる。

 乾が振り向く。

 冷たい表情だった。


「やはりお前は背番号の重さを知らない選手だ。エースなんかじゃないな。失望したよ」


 ガラスが割れるような音と共に陸雄が暗闇に吸い込まれていく。


「陸雄…………陸雄っ!」


 暗闇から光が入り清香の心配する顔が目に映る。

 どうやら清香の声で起こされたようだ。


「汗びっしょりだよ? 水持ってくるね」


「ああ、夢か―――ありがとう清香。って、ここどこ?」


 辺りに背景は無く、闇の中で宙に浮いている。

 この世の光景ではなかった。


「それはね……」


 清香の制服姿が黒を基調にした傷んだローブに変わる。

 

「じゃじゃーん! なんと地獄です! 陸雄は古川さんのかけた謎の液体のせいで、死んじゃいました♪」


 上空の空間から大鎌が振ってくる。

 清香はそれをキャッチする。


「え! ええっー!? ここで終わりかっ!? 乾との決戦は? 甲子園は? 俺のカッコいい成長物語は?」


 陸雄がビクビクっとうろたえる。

 清香は大鎌を持った死神の格好をしていた。


「ん? そんなのもう無いよ? 陸雄は死んでるんだしねー」


 小悪魔笑顔で清香が大鎌を振り上げる。


「じゃあ、最後に陸雄の魂をこの鎌で狩って―――地獄に送り届けますね♪」


「や、ヤメロー! 行きたくなーい!」


 陸雄が暗闇の空間の中で藻掻く。

 だが、引くことも出来ずに同じ位置にいるだけだった。

 清香が振り上げた大鎌を見る。

 大鎌の先端の刃がキラリと怪しく光る。

 死をつかさどる銀の刃はまさに命を刈り取る形をしていた。


「ていっ♪」


 ブンッと大鎌を振り落とす音が聞こえる。

 ザシュッと言う鈍い音がした。

 陸雄の胸に刃物が深く刺さる。


「あがっ……! こんな、と、こ、ろ……で、終わっ……!!」


 言葉を言い切れずに視力が無くなる。

 その瞬間―――生物としての意識がプツリッと糸の様に切れた。



「うわぁあー!」


 ハッとして、意識を取り戻す。

 白を基調とした無機質な部屋が目に映る。

 どうやら病室のようだ。

 陸雄は病院のベッドにいる。

 念のため頬をつねる。

 痛みが残る。


「良かった~死んだわけじゃない。俺の野球物語は最終回じゃなかったんだ。つうか、夢から覚めたら、それも夢だったとかレアな体験を……って、病院?」


 看護婦が部屋に入ってくる。

 起き上がった病院服の陸雄を見る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ