第百一話
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朝のホームルーム。
灰田が女子達から孤立する陸雄を気遣って話しかける。
「よお今日のセクハラMVP! 古川マネージャー怒ってたぞ。涙拭けよ」
松渡が引き気味に話す。
「灰田~。開幕でそれ言うの間違ってるよ~。古川さんには目撃したソフトボール部の女子の話だとぶつかってああなっただけで、陸雄が自分から古川さんのスカートの中に入ったんじゃないよ~」
紫崎がニヤニヤしながら腕を組む。
「フッ―――どのみち変態であるということに変わりはない。女子コミュニティで陸雄に触れると女子は妊娠されるっと騒がれているようだぞ」
灰田が顔を指でポリポリ搔きながら、ちょっと笑う。
「そりゃ、えげつねぇな……お前の彼女っぽいの挨拶せずにそっぽ向いたままだけど、エロ以外でなんかあったんばい?」
やや九州訛りの灰田のイントネーションに紫崎たちは顔を合わせる。
陸雄以外の三人が清香を見る。
清香は朝に陸雄を見ていた地味そうな巨乳の女の子と話している。
「清香ちゃんだっけ~? 同じクラスの柊心菜さんと何か朝のことで話しているみたいだね~」
そう言って、地味な黒髪セミロングの女の子を見る。
「フッ、陸雄のパンツ特攻の出来事を話しているんじゃないのか? 流石に幼馴染にまで離れられるような事態を防ぐために、彼女なりに説明してやっているんじゃないか?」
「へぇ、柊も影薄いけど―――良いとこあんじゃん。良かったな、陸雄。しばらく大人しくしてりゃ、その内笑い話で済まされて女性陣から元の信頼関係に戻るぜ。って、おい聞いてんのか?」
陸雄は一切話を聞いていないのか、頭痛と戦っていた。
古川の持っていたバケツに含まれた謎の液体が寒気を出していたようだ。
「熱っぽい…………頭フラフラする」
「フッ、次の試合は近いのに大丈夫か? 中野監督の話では、お前はベンチのようだが?」
「ってか、それよりも保健室行った方が良い位やばいよ~。表情が危ない人みたいになってるよ~」
それを聞いていたのか、机の上で陸雄が顔を真っ青にしたまま話す。
「だんだん、思考が出来なくなるのが普通の感覚になってきました」
「おい、それってマジにヤバいやつじゃん。一限は出ないで、お前保健委員に頼んで保健室行って来いよ」
灰田がちょっと心配そうに話す。
「いや、ここまで不幸ならいっそ出る」
陸雄がブルブル震えながら、拳を振り上げる。
「なんで、そういう自爆スキーな一面見せるんだよ~」
松渡が呆れる。
「フッ、チャイム鳴るぜ。俺達は授業の守備位置に戻るぜ」
紫崎がそう言った後で、一限のチャイムが鳴る。
そのまま紫崎は席に戻っていった。
「陸雄。気分悪くなったら、授業中でも手ぇあげろよー。はじめん戻ろうぜ」
そう言って、灰田が席に戻る。
松渡もやや心配そうに陸雄を見て、席から離れる。
「野球部の人間関係は大丈夫だよ~。あっちも水かけちゃったとは言え、古川さんのことだから練習は真面目にしてくれるよ~。中野監督はカンカンだったけどね~。じゃね~」
英語担当の中年の教師が教壇に立つ。
パーマ頭が目立つ黒ぶちメガネの先生は生徒たちに元気よく声をかける。
「それじゃあ、今日も元気よく授業始めちゃいましょう! スタンダ~プ!」
生徒たちが立ち上がり、一礼する。
陸雄はフラフラして、立ち上がるのがやっとだった。
※
一限の英語の授業。
皆が教科書とノートを開いている間―――黒板に英語教師が英文を書く。
「は~い。ここテストに出るかもよー? 不正解だったら出すかもよー? じゃあ、この英文を柊心菜さんにリードして、アンサーしてもらう!」
パーマがゆらゆら揺れながら、英語教師が生徒を指名する。
陸雄も気分が悪いのか座りながら、フラフラしている。
(やばい、視界がぼやけてきた。英語の斎藤先生が何言ってるか解んなくなってきた)
陸雄の顔がさらに青ざめてきた。
名前を呼ばれた地味な黒髪セミロングの女の子が席から立ち上がる。
「ええと、How about I paint a picture of your dog in the park?」
柊木が教科書を持って、ゆっくりと発音する。
「ん~、どちかと言うと大正解。セクシーなイントネーションだね。先生のソウルに響いちゃったよー。センキュー、シットダウン!」
柊木が席に座る。
事前に予習していたのか、ホッとしているようだ。
「それじゃあ、ミス柊木の言った英文和訳を石渡清香さんに翻訳してもらおう! スタンダープ!」
清香が立ち上がり、ハキハキと答える。
「はい。答えは、じゃあ、この公園であなたのイヌの絵を描いてみましょうか。です」
「マーベラス! やはり、今期の成績優秀クイーンは違った! パーフェクトな翻訳デース! センキュー、シットダウン!」
斎藤先生が大げさなリアクションを取る。
前の席の柊木が先生に見えないように、清香に向かってピースする。
ニコリと笑顔を見せて、清香はゆっくりと座る。
陸雄は目を瞑り、意識が切れないように頭を振る。
(やばい、今の声、清香かな? 辛うじて聞こえた)
斎藤先生が嘘くさい発音で黒板に和訳を書く。




