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◇『おかしいのですわ!』がおかしいのですわ!◆『ですわ』が多すぎる世界ですわ◇

作者: 如月霞

 異世界恋愛系やファンタジー系で時々見られる、高位貴族令嬢キャラ(悪役令嬢等)の台詞やモノローグの語尾が「ですわ」連発となっている事について、違和感を感じ自分の文章も見直しつつ、つらつら考えたのです。


 個人的見解なので『個人的に』という文言が多く入ります。使用されている方を貶している訳ではありません。そういう表現やキャラ付けも勿論ありだと思いますが、個人的に感じる違和感を纏め、では自分はどうするかと言った思考実験です。


◇例(流石にここまでの連続は稀ですが)◇


「わたくしは公爵家の娘ですわ。わたくし、突然前世の記憶を取り戻したのですわ。そこでここが乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢に生まれ変わっている事に気が付いたのですわ。このままでは断罪されるのですわ。これはまずいのですわ。どうすれば断罪を回避出来るのか考えましたわ。先ずヒロインと仲良くなるべきですわ。仲良くなるにはどうすればいいのか考えるのですわ。悪役令嬢として断罪されるなんておかしいのですわ!」


 まずいのは全て語尾をですわにする貴様の頭ですわ。とまでは思いませんが、同じ語尾の連発は鬱陶しく感じるので個人的に好みでは無いのです。勿論、作者の方がそういうキャラクターとして構築されているのであれば失礼千万な考えですが、漫然と語尾を『〜ですわ』にしているのであれば考える余地があると思うのです。


 とはいえ、文章の大前提として、同じ語調を連続させると単調に感じたり、(くど)くなったりするので、どの様な語尾でも(『〜ですわ』『〜です』『〜である』)連続は避けるべきなのですが、これを言ったらここで話が終わってしまいますので、今回は『ですわ』多用についてのみを考えます。


ーーー


 話は飛びますが、私は中国の古装劇というジャンル(日本で言う時代劇、時代劇系ファンタジー)のテレビドラマが好きで良く視聴しています(功夫映画や武侠小説も好きです)。大概どのドラマも中国語に日本語の字幕付きで放送されているのですが、とあるドラマが完全吹き替え放送で『ハオ』『太好了タイハオラ』『好好好ハオハオハオ』『好的ハオダ』『頂好ティンハオ』と思われる(中国語の字幕も副音声も無いので話の流れで予測)台詞を、ほぼほぼ『良いわね』若しくはその変形として訳していたのです。


 中国語の『好』は大変便利な言葉で、『好』のつく言葉は良く使われます。上記五つの意味はだいたい(前後の流れで変わる事もあるのですが)

『好』良い

『太好了』素晴らしい

『好好好』はいはい(わかったわかった)

『好的』わかりました(了解した)

『頂好』最高です

 となるのですが、件のドラマではほぼ『良いわね』と吹き替えた為に、主人公であるヒロインとその友人ポジションの使用人達が


「これどうかしら」

「良いわね」

「良いわ」

「とても良いわね」


とか、


「良いかしら?」『好嗎(ハオマ?)「良い?」と言った疑問系を使っていると思われる』

「良いわ」

「とても良いわ」

「良いわよ」


と言った会話をするシーンが何度も出て来ました。


 前後の状況から判断するに


「ハンカチに刺繍をしてみたのだけど、この仕上がりはどうかしら?」

「素敵ですね」

「見て、ここが素晴らしいわ」


と言った様子や


「これをお願い出来るかしら?」

「勿論良いわよ」

「わかったわ」

「はいはい」


と言った様子も全部「良いわね」「良いわ」「とても良いわ」「良いわよ」という感じに訳され、同じ様な言葉を連続して言い合う会話になっていたのです。

 私はヒロインチーム頭弱そうと感じたのですが如何でしょうか?(結局、中国語放送版は見つからず吹き替えで最後まで視聴し、件のドラマはストーリーより『良いわね良いわ』の思い出で埋まっています)

 

ーーー


 要は、ここまでとは言いませんが、同じ、若しくは似た様な語尾が連続すると個人的に違和感を感じるのです。


 令嬢の使う言葉は『山の手言葉』(東京の山の手方面で話される言葉。江戸の旗本・御家人の言葉の流れをくみ、明治以後主として山の手に住む知識階級が使う言語)をイメージしているのではないでしょうか。ドラマで使われる「〜ですの」も女性が使う山の手言葉ですね。「ごきげんよう」「〜こざいます」「ざます(『でございます』の短縮系)」「できますこと?」「そうですの?」「存じませんの(存じませんわ)」等々、その他にもお嬢様表現が豊富にあります。


 で、ですね、何故豊富にある山の手言葉の語尾を使わず『ですわ』多様でゴリ押すのか?ここなのですよ、私の違和感の正体は。

 という事で、冒頭の例文を修正します。


「わたくしは公爵家の娘ですわ。わたくし、突然前世の記憶を取り戻しましたの。そこでここが乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢に生まれ変わっている事に気が付きましたわ。このままでは断罪されてしまいますわね。これはまずいのですわ。どうすれば断罪を回避出来るのか考えましたわ。先ずヒロインと仲良くなるべきですわね。仲良くなるにはどうすればいいのか考えなくてはいけませんわ。悪役令嬢として断罪されるなんておかしゅうございますわ!」


 基本的に『〜わ』の語尾を残す様に意識してみました。

 

 しかしながら、まだまだだと思うのですよ。結構良く見る表現ですが、人って「おかしいのですわ!」って発声します?(なさっている方にはお詫び致します)言葉を置き換えて「おかしいぞ!」とか「おかしいわ!」とか「おかしいよ!」とかなら分かります。驚いて言葉にならず「は?」とか「え?」となってしまう事や、「変だよ(変よ)」とかも良く聞きます。

 じゃあ、どうしろって言うのか、と問われれば修正後に使用した「おかしゅうございますわ!」だと思うのです。更に、設定でよく見かける『淑女(令嬢)教育を受けておりますので、感情を表に表すのは下品』というものを追加すると、感嘆符も不要ではないかと思います。だって、令嬢なんですよね?感情を抑える教育を受けた令嬢が叫びますか?

 激しいショックを受けた時なら良いのです。付けて下さい、人として気持ち昂る時はあるでしょう(偉そう)。しかしですよ、「わたくし自分で言うのも何ですが、とても美しく理想の令嬢と皆に言われているのですわ」な主人公が、やたらと「おかしいのですわ!」「許せないのですわ!」「我慢出来ないのですわ!」を使用していると、主人公は断罪や辛い淑女教育のストレスで表裏の激しい状況になってしまっているのか、キレやすいキャラなのかな、と感じてしまうのです。個人的に。

 とすると、最終的に「おかしゅうございますわ」と心臓は早鐘を打ちつつも端無く声を上げる事も無く、昂る気持ちを胸に秘め眉を顰めて呟く、あたりがお嬢様っぽいと思うのです。個人的に。


 そこで登場するのが女性語、女言葉です。


◆ 現代の日本で一般的に女性語として認識されている言葉の起源は、明治時代に有産階級の女学生の間で発生した「てよだわ言葉」である。「よくってよ」「いやだわ」などの言葉の流行は、尾崎紅葉によれば[2]「旧幕の頃青山に住める御家人の(身分のいやしき)娘がつかひたる」とある通り、もとは山の手の下層階級の女性が使っていた言葉が女学生の間に伝播したもので、当時は「異様なる言葉づかひ」などと文化人の非難の的になったが、結果的には中流以上の女性層で定着し、規範的な女性語として扱われるようになった。(wikipediaより一部抜粋引用)

 

 私はお嬢様な母に女言葉と丁寧語を使う様に教えられて育ちました。女友達は苗字にさん付けで、男友達は苗字に君付けで、ちゃんは使うな、とも言われていました。結果、結構嫌な思いをしたのです。小学校の途中辺りから「気持ち悪い」「変なの」「丁寧過ぎてやだ」「友達っぽくない」「偉そう」と言われました。私が通った公立小学校で女言葉を使っているのは、女性の先生の一部だけだったのです。先生方にはとても受けが良かったのですけれどね、女言葉。


◆ 1980年代頃からは、男女ともに「だよ」「だね」「じゃん」といったユニセックスな言い回しが好まれるようになり、「てよだわ言葉」の流れをくむ女性語は中年以上の女性が用いるほかは、オネエ言葉に誇張された形で残っている。(wikipediaより一部抜粋引用)


 私が小学生当時には既に廃れてたのですから、それこそ「ですわ!」と叫ぶ令嬢的な違和感を感じられてしまったのではないかと……。


 今考えれば、私立小学校に入れてくれれば良かったのですよ、我が両親は。それで「友達がおかしいって言うから」とみんなの言葉を真似して家で使うと説教コース突入ですよ。「女言葉は正しい綺麗な言葉だ。どんな場でも大人になっても通用する」と。友達が「だよ」を使うのを否定する必要は無いけれど、親族の女性はみんな女言葉を使っているし、全くおかしくない、と。

 結局、家では女言葉、学校では友達の真似をする二重生活に落ち着いたのですが、気を抜くと「これ好きなんだよね」といった言葉を家で発してしまい、叱られました。だって、友達付き合いの方が大切だったし。

 因みに、片方の祖母は江戸は神田の生まれの江戸弁使いでした。真似すると笑っていましたが、祖父と両親に私だけ注意されました。解せぬ。お陰で現在は、所謂よく聞く話し言葉と、丁寧語と、女言葉を使い分けたり混ぜたりする人間になりました。落語が好きで江戸弁もそれなりに使えます。もうごちゃごちゃです。幼稚園では誰もおかしいって言わなかったのですけどね、女言葉。子供は誰も使っていませんでしたが。


 話を戻して、女言葉を使って修正後の例文に手を加えます。


「わたくしは公爵家の娘です。わたくし、突然前世の記憶を取り戻しましたの。そこでここが乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢に生まれ変わっている事に気が付きました。このままでは断罪されてしまうでしょう。これはまずいのです。どうすれば断罪を回避出来るのか考えましたわ。先ずヒロインと仲良くなるべきですね。仲良くなるにはどうすればいいのか考えなくてはいけません。悪役令嬢として断罪されるなんておかしいわ!」


 ちょっと砕けましたが、『〜わ』で文章が途切れる感じが減りました。『おかしいのですわ!→おかしゅうございますわ!』も『おかしいわ!』に変化させて、お嬢様でもお気軽に『!』していただけると思います。


 更にお嬢様キャラ感はかなり減少してしまいますが、最初の例文を女言葉と丁寧語に変換して、多少言葉を入れて文章の区切りを減らしてみます。


「私は公爵の娘なのですが、突然前世の記憶を取り戻しました。そこでここが乙女ゲームの世界で私は悪役令嬢に生まれ変わっている事に気が付きました。このままでは断罪されてしまいます。これは宜しくありませんね。どうすれば断罪を回避出来るのか考えましょう。先ずヒロインと仲良くなるのが良いのですが、その為にどうすればいいのかを考えなくてはいけません。悪役令嬢として断罪されるなんて嫌です!」


 ここまでやると公爵令嬢だろうが男爵令嬢だろうが平民のヒロインだろうが、違和感が無くなるかと思います(個人的に)。『不味い』も流れに沿う様に宜しくありませんに変更。最後の『嫌です!』なんて、単なる気持ちの発露ですね。


 と言う事で、如何でしょうか。


「ですわこそが至高」

「連続ですわを回避してみたい」

「細けえこたあ良いんだよ」

「そうかも?」

「キャラ付けとして連続ですわは有り」

「ですわ令嬢、女言葉令嬢、丁寧語令嬢を既に使い分けてるよ」

「こういう考え方もあるのかも」

「別にキャラがどんな風に喋っていてもおかしいと思わない」


 等々、色々なご意見ご感想があると思います。


 文章に彩りを添えるのも一興、使い方を考えるのも一興と、少しでも思っていただければ幸いです。


◆おまけ◆


「あたしゃ公爵んとこの娘なんだけどさ、そんなあたしがね、突然前世の記憶を取り戻したのさ。そんでもってここが乙女ゲームの世界で悪役令嬢に生まれ変っちまってる事に気が付いたんだよ。このままじゃあ断罪されちまうからね、こいつぁちょっといただけないねぇ。どうすりゃあ断罪を回避出来るのか考えなきゃいけないよ。するってぇと先ずはヒロインと仲良くなるべきだけど、どうしたら良いんだろうねぇ。悪役令嬢として断罪されちまうなんてとんでもねえ事だよぉ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろかったですわ。 大変参考になりました。 これで私のお嬢様っぷりも一段と増すものと思われますの。 感謝いたしますわ。 [一言] 勉強なっておもしろい! 見事なエッセイでした!
[一言] 私は少々の「ですわ」なら流せるようになりましたが、 「ありがとうございますわ」だけは一瞬固まります…
[一言] 感想の返信の返信になりますが、自分は中国人で廣東話もそこそこ(廣東ボイスに中国語字幕なので書き&読みではなく)聞き慣れています。 ただ、普段はピンイン常用しているので条件反射で日本語でいう音…
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