第9話 熊との遭遇
前世で遭遇したのとほぼ同じ辺りで子グマを発見した。(前世ではこの後子グマを父さんの所に連れて行ったけど)同じ失敗は二度としない。
そう思ってその場を静かに離れ、そしてさっき見つけたイージャリーハーブの1つを摘んで父さんの所へ急いで帰った。
「父さん、父さん」「ん? どうしたレックス?」父さんの近くに行って呼びかけ、父さんも僕に気付いた。
「あっちの草むらの中に怪我をした子グマが潜んでいるんだ」「何だって? ホントか」僕の言葉に父さんが驚いて聞き返し、ちょうど近くにいたアッシュ兄ちゃんも驚いた顔をしていた。
「それで、親のクマは近くにいたのか?」「ううん。多分子グマだけだと思う」「そうか。しかしいずれ親が帰ってくるかも知れんからな。取り敢えずこの場をすぐに離れーー」
「あのさぁ、父さん」父さんの話しを遮って僕が父さんに話し掛けた「何だレックス?」「子グマの怪我を治してやりたいんだけど」
「「はぁ??」」父さんとアッシュ兄ちゃん2人同時に疑問の声を漏らした。
「バカ! レックス! 何を言い出すんだ!!」「そうだ! 第一どうやって怪我を治すと言うんだ!!」「これを使うんだよ」そう言って僕は摘んできたイージャリーハーブを2人に見せた。
「これは?」「イージャリーハーブといってかすり傷程度の怪我なら擦り潰して傷口に直接塗れば直ぐに傷が治るんだよ。その子グマがいた草むらの近くにたくさん生えてたんだ」
「ホントか?」「うん! ジョーおじさんが持っていた薬草の書物に載っていたのをつい昨日見てたから間違いないよ」そうはっきり僕が答えたら父さんは少しだけ考え、
「······本当にやれるのか? レックス」「うん!!」父さんがそう聞いてきて僕は力強く答えた。
そして、「分かった。やってみろ、レックス」「ありがとう、父さん!」
そう言って僕達はまずイージャリーハーブの生えている所に来て何本か摘んだ。そして近くの岩の上でそのハーブを擦り潰して子グマに塗れる状態にした。
「じゃあ父さんは親が来ないか周りを見張ってて」「分かった」「アッシュ兄ちゃんは一緒に来て薬を塗るのを手伝って」「う、うん。分かった」
2人にそれぞれ指示を出して僕はアッシュ兄ちゃんと一緒に子グマに近付いた。
子グマがうずくまっている近くまで来てわざと音を立てて子グマに僕達の存在に気付かせた。
僕達の存在に気付いて子グマは僕達の方を向いて小さな声で唸りだした。
アッシュ兄ちゃんは一瞬ひるんだけど僕は「大丈夫。僕達はその怪我を治しにきたんだよ」そう言って怪我をした足の方へ指を指し、反対の手で擦り潰したイージャリーハーブを見せた。
その言葉を理解したのか子グマは唸るのをやめ首を傾けた。
そして僕達は子グマに近付き、僕がハーブを少し指にすくい取って怪我をした部分に軽く塗っていった。
最初は子グマも暴れ出そうとしたのでアッシュ兄ちゃんに押さえてもらったけど、徐々に暴れなくなって塗り終わる時には物凄く大人しくなっていた。
「終わったよ」そう僕が言うと子グマはその怪我をしたところを見てゆっくりと動かし、そして歩き出した。
どうやら治療は成功したみたいだ。「良かった」「す、すげぇ」僕が安堵した感想を、アッシュ兄ちゃんは驚いた感想をそれぞれ漏らした。
そして2人で顔を見合わせて小さな笑みをこぼし、父さんの元へ戻った。
「父さん、治療終わったよ」「そうか、良かっー」
ーーガサガサッーー父さんが言い終わる前に突然僕達の近くの草むらが音を立てて揺らいだ。そしてそこから大人のクマが唸りながら姿を現した。突然の事に僕達は立ちすくんでしまった。
このクマはーー前世でも子グマを父さんの所へ連れていってそのあと現れた親グマが同じ辺りから姿を見せたーー間違いなくさっきの子グマの親だ。
僕がその事を思い出していると突然目の前のクマが叫びながら立ち上がり、僕達を襲おうとしだした。
アッシュ兄ちゃんはその場で尻餅をついてしまい、父さんは「あぶないっ!!」と叫びながらこちらに向かって来ていて、僕はじっとクマを見続けていた。
その時突然近くから「グァーーーッ!!」と叫び声が聞こえた。
その声に目の前のクマが反応して動きを急に止めた。そして僕とクマはその叫び声が聞こえた方を見た。するとそこには先ほど怪我を治療した子グマがいた。
親グマは四つん這いになってその子グマに近付き、2匹で何か話をしだした。
その間僕はその光景を呆然と立ち尽くして見ていて、父さんは尻餅をついているアッシュ兄ちゃんの所に近付いて兄ちゃんを抱き寄せた。
しばらくして2匹が同時にこちらを見てペコリと頭を下げて茂みの奥に姿を消した。
一気に緊張感から解放されて3人は力が抜けたようにその場に倒れこんだ。
「ビ、ビックリしたぁ」「あぁ、本当に」アッシュ兄ちゃんと父さんがそれぞれ感想を漏らし、僕も「本当に驚いたよねぇ」と言ったすぐ後少し離れた茂が揺れだし、僕達3人とも大きくビクッと反応した。
しかしそこから現れたのは「ん? どうした皆?」と言いながら姿を見せたレオおじさんでした。正体が分かって僕達3人は同時に大笑いをしだした。
その後帰りの道すがらレオおじさんに先ほどの出来事を説明し、話を聞いてレオおじさんも物凄く驚き、その上で僕達2人、特に僕を大きく誉めたのであった。
村に帰った後もその話題で持ち切りとなり、多くの人から誉められたり母さんやアリスからは心配されたりして本当に大変だった。
後日改めて父さんとジョーおじさんをあのイージャリーハーブが生えていた場所に案内した。ジョーおじさんの話だと、あの辺りにはイージャリーハーブ以外にも薬に出来る薬草がたくさん生えていたようだ。
その時またあの子グマと遭遇したが、こちらの作業をただじっと見ているだけだったり、そのあと親グマもやって来たがこちらもじっと見ているだけだった。